心に巣喰うモノ―4―
護送馬車から降ろされたのは、拘束されてから随分経った日の事だったと思う。
拘束されて直ぐは動かない馬車の中で、カプシャもプルチェも、縛られたまま無為に過ごした。外界と隔絶された移動牢屋の中では、時間の感覚なんてすぐに麻痺しする。
浅い眠りから覚めても牢屋の中は暗く、それがずっと続いた。時間や日にちの感覚なんて維持するのは難しい。
馬車が動き出したのも、いつの間にか…と言う感覚だった。
その頃にはプルチェも叫んで暴れる事もなくなり、馬車が動いている間は車輪の音と振動だけ…動かない時は静寂が続くばかり。
牢獄馬車そのものが魔具の一つなのだろう。
食事も水もない。だが死ぬこともない。縛り上げられた手足は痛むが、腐り落ちる事もなかった。ただ排泄だけは垂れ流しにならざるを得ず、それが苦痛だったが、王都に着く頃にはそれさえも麻痺していた。
プルチェとカプシャが放り込まれた馬車は、恐らく…『護送』と銘打たれてはいるものの、外装が外せるようになっていると思われる。
つまり罪人を安全に運ぶだけでなく、見世物に出来る馬車だ。
だが、見世物にされる事なく馬車は王城の裏門から中へと入って行く。
生かさず殺さずで連れ戻された為、二人共自分の足で立つ事も難しいほど弱っていて、馬と外装を外した状態の牢箱としてから、それごと地下に収容された。
あまりの汚れと匂いに、看守が桶の水をぶっ掛けてくる。
冷たく、屈辱的だが、指一本動かす事さえ億劫だ。汚れた衣服は水を吸い上げ、弱った身体に重く張り付いた。
いつまでそうしていた事だろう……。
何も食べなくなったおかげか、排泄の方もいつの間にか止まっていた。
プルチェは時折思い出したように、ぶつぶつと何か呟いでいる。だが、その内容は、背を向けられているカプシャには聞き取れない。
聞き取れた所で、思考力も何もなくなりつつあったカプシャが、理解出来たかどうかは不明だ。
車輪付きの牢箱に放置されて、どのくらい経った頃だろう……数名の兵士がやってきて、カプシャとプルチェは別々の場所に連れ出される。
窓もない石造りの一室で簡素な椅子に座らされ、カプシャは衣服を剥がれた。
兵士と言うか…看守達も気の毒な事だ。汚れ切り、悪臭を放つ衣服をはいだ後は簡単に身体を拭かれる。
少しさっぱりしただろうが、それをカプシャが感じているかどうかは怪しい。
そうして椅子に座らされた。
一見して罪人と分かる衣服に着替えさせられる。衣服そのものは悪臭を放っていないが、自身の身体が放つ悪臭にカプシャはクシャリと顔を歪めた。
改めて手足を縄で縛られた、その後は放置される。
少しして粗末な食事が、小さなテーブルごと運び込まれた。パン…といっても焼き過ぎた失敗作なのか、焦げていて固いパンだ。それと水。
牢箱から出された事で、食事なしには出来なくなったと言った所か……。
王である父プルガに見つかり拘束され、逃げる事も出来ないまま戻ってきた。しかもどう見ても罪人扱い……このまま無罪放免とはいかないだろう。幽閉で済めば良いとは思うが、その程度で済む筈がないと、冷静に見つめる自分も居た。
浅慮なカプシャだが、そのくらいの想像は出来る。
食べる気力もなく、一瞥しただけでぼんやりしていると、騎士らしき者が2名、室内に入って来た。
一瞬顔を顰めているのが、妙に笑える。多分臭いが酷いんじゃないかと思う。
カプシャ自身は疾うに鼻が馬鹿になっていて、自分が発する悪臭に気付かないが、そうでないなら辛い臭気なのだろう。
水を掛けられ、糞尿で汚れ切った衣服は剝がれ身体も拭かれたが、風呂に入った訳ではない。臭いがこびりつくのも仕方ないじゃないかと、カプシャは薄く笑った。
色々と聞かれる。
それで取り調べなのだなと分かった。わかったが、今更抗う気力もない。体力もなく逃げる事も叶わない。
取り繕い、嘘で塗り固めても、どうせすべて把握されている事だろう。
なら、足掻いたって、減刑される事はない。
だから聞かれるままに話した。




