心に巣喰うモノ―3―
「………っ…」
床に転がったカプシャの前で、横たわったままのプルチェが身動ぐ。その様を見て、カプシャはまるで芋虫だな…と、他人事のような感想を抱いていた。
「ぅ……ぅぁあ”あ”ぐぎぃぃぃ~~~~~!!!!!」
痛むのだろうが、本気で煩い。煩いし、仮にも王女が発して良い声ではない。それ以前に女性が……いや、何でもない。
兎に角、品性の欠片もなく、思わず『絞め殺してやろうか…』と感想を持つ程度には煩かった。
だが怒鳴る体力も気力もない。
「いだい”ぃぃぃ…な、んで……なんで、こうなるのよ”ぉぉぉ」
うぞうぞと、本当に芋虫のように身をくねらせたプルチェが、ゆっくりと仰向く。
カプシャは勿論、プルチェも手足はがっちりと縛られていて、身体の自由はない状態だから、芋虫のように動くしかないのだ。
顔は殴られた事でパンパンに膨れ上がり、元から不細工だとは思っていたが、更に不細工に見えた。
だが、そこまで考えて、カプシャは苦い笑いが知らず知らずのうちに浮かび上がる。
――顔以前に、性格が不細工だったっけな……と。
声に出して笑ったつもりはなかったが、プルチェがゆっくりと顔を向けてきた。
「っ!
ちょ”…っくぅ…い”だい”……わら…ってんじゃ、な…いわよ……くぎぁぁ”ああぁ…」
痛むなら喋らなきゃいいのに…と、妙に冷めた目で見ていると、プルチェが目を吊り上げた。
もっとも縛り上げられたまま、床に転がりながらの事なので迫力はない。
「たす…げなさい、よ”……もう!! い”ぎいいぃい”!!!」
プルガも、流石に女だからと無意識にでも手加減したのかもしれない。
どうせなら声も発せない程殴っておいてくれれば良かったのに…と、恨み言を内心で呟くが、このままでは煩すぎて気が狂いそうだ。
「黙れ…」
「な!!??」
普段から邪険にはされてきたが、それでも最後には折れてくれていたカプシャの、こんな地を這うような不機嫌な声は聞いた事がなく、プルチェは二の句が繋げない。
「黙、れっ…て言ってんだ、ろ。
もうさ、終わ…りなんだよ。ちっ…くそ…いてぇな…」
「な…なんでそ、んな事…い”う”…いだい”……のよ…まだ、終わってなんかないわ!」
ギャンギャンと耳障りな声が響きわたる。
馬車内はある意味密室で、反響した声が更に脳を不快に揺さぶった。
だが、カプシャには怒鳴り返す気力もない。
だからぼそりと呟く。
「終わり…だ、よ。
逃げ場なんか、あるもんか…あのおやじが、見逃してくれるなんて……ある訳…ないだろ」
静寂が戻る。
しかし、すぐに別の音に取って代わられた。
「いやよ…怒られたくない…。
お父様、怖いのよ…直ぐ怒鳴って…しかも女の子を殴るなんて…うぅ…ヒック」
すすり泣くように紡がれた言葉に、カプシャは双眸を閉じながら、ハッと鼻で笑った。
プルチェは自分がやらかした事の重大性なんて、まったく…なーんにも考えてない事が、はっきりとわかる。カプシャは自身が小物だと知ってる。だから終わりだと思う。
しかし、プルチェは自分は特別だとでも錯覚しているのだろう。特別だから、やらかしても怒られる程度で済むと思っているのだ。とんだ誤解…己惚れもいい所だ。
カプシャは突きつけてやりたくなった。
――お前は特別なんかじゃない
――ただの恥知らずだと…。
――ただの能無しで極潰しだと。
だが、全て自分に跳ね返ってくる。
プルチェの啜り泣きを聞きながら、カプシャはゆっくりと目を閉じた。




