心に巣喰うモノ―2―
「あ、団長…って……」
タッパーが宿屋の外に出てきたので、剣の手入れをしたり、其々が思い思いの事をしていた手を止め、全員が立ち上がる。
が、その後ろに引き摺られたモノを見て、一斉に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
タッパーは引き摺って来た王子王女を地面に転がすと、部下に荒縄で縛りあげるように命じる。
自分がやっても良いのだが、タッパーはあまり器用な方ではなく、縛り上げれば血流までとめ、王都に着くまでに殺してしまいかねないと思ったのだ。
「護送用の馬車はあるか?」
タッパー達、騎士団の面々は馬で移動してきたが、プルガのあの口振りなら、準備して来てると踏んで問いかける。
問い掛けに反応して、御者が慌てて飛び出してきた。
御者の先導で、少し離れた空き地で留まっていたプルガ王護衛他一行と、ここで顔合わせとなる。
見知った顔を見つけると相手も苦笑交じりに顔を歪めるが、どちらも仕事だ。
渋る事もなく、意識のないプルチェとカプシャを受け取った。
そのまま馬車に放り込んで、大きな南京錠を掛ける。
その音は、遠く微かに聞こえていた鳥の囀りさえ消し去った。
硬く冷たい感触が酷く不快だ。
それに身体中が痛む。顔…特に頬と首の痛みは、小さな身動にさえ悲鳴ををあげそうになる程。それでもゆっくり…慎重に首を巡らせれば、異母妹らしき後頭部が目に映る。
ゴテゴテと飾り立て、ギチギチに結い上げているのが常なのに、今は飾りもなく乱れていた。
そこで思い出す。
異母妹プルチェの計画性のない話に興味を持ってしまった事
興味だけでやめておけば良かったのに、唆された挙句、国の印章を勝手に使った事。
流石に離宮に留まるのはやばいと、小細工をして逃げ出した事。
逃げた先……カプシャにとっては実の祖父母の家だが、その住環境の悪さに耐えきれず、プルチェの知り合いだとか言う商会に助けを求めた事。
色々と不愉快な事ばかりだったが、なんとか王都を離れ、ロズリンドの国境近くまで来れた事。
放り出され途方に暮れていた時、協力者だという男達の世話になった事。
そして………
カプシャは駆け巡る痛みに呻きながら、溜息を零した。
最悪の事態だった。
協力者は協力者なんかじゃなく、追手だった。それに気づかず、ホイホイと乗せられた。
自分の間抜けさに反吐が出そうになる。
その顔は見た事があるようにも感じたが、むさくるしい男の顔を記憶に留める趣味は、カプシャにはなかった。
すぐに意識は別の方向へ逸れる。
追手が誰だろうがどうでも良い…一番の問題は父プルガが追ってきて、こうして馬車に拘束された事だ。
逃げ場なんかない…ある訳がない。
カプシャは浅慮で愚かだ。だが異母妹プルチェほど突き抜ける事も出来ない小物だ。自分でも自覚はあったから、酒と女と言う堕落の入り口で、それ以上は溺れる事も出来ずに蹲っていた。
何故異母妹の言葉に乗ってしまったのだろう。
何故『不味い』と言う言葉が頭を過ったのに、それに目を瞑ってしまったのだろう。
露見すれば幽閉か…とか考えていたが、あの様子では幽閉で済むかどうかも怪しい。
自分に無関心だった両親に、小さくても良いから爪痕を残したかったのかもしれないが、今更考えた所でどうしようもない。
カプシャはそんな疑問を振り払うように、ゆっくりと目を閉じてからもう一度開く。
放り込まれた馬車を、床から天井までじっくり観察する。
期待はしていなかったが、逃げる隙はなさそうだ。
床は板張りだが、縛られた腕を何とか動かしても音が重い。簡単に破れそうな厚みではないとわかる。
壁面は鉄格子になっていて、その外側に木の壁が見える。恐らく外から見れば、何の変哲もない馬車に見える事だろう。
天上も同じくだし、何より縛り上げられていて立つ事も儘ならない以上、これ以上の確認は不要だ。
護送用の馬車と言うに相応しく、内側から見れば立派な牢屋だった。
諦めに似た、薄い笑いが無意識に浮かんだ。




