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103.

「分かっとらんのか?」

 オスカーさんは顔を顰めました。

「言っておるじゃろう。魔法は万能の薬ではない。それはそこに居るマリー嬢を利用したとしても同じことじゃ。わしにはその辺りの知識は貴様等ほどないかもしれんが、アムシースを丸々蘇らせるほどの力まではないことぐらい――」

「当然だろう。そんなことはいちいち考えなくともわかる」

 クリフォアさんはオスカーさんの言葉を切り落とすように言います。

「ならば……」

「何も全てを一度に進めるつもりはない。あれは……■■■は我々が栄光をこの手に取り戻す計画、その第一歩に過ぎない」

 手元のお茶を置いて、

「■■■の魔法資源を利用して、手始めにアムシースが残した技術をいくつか掘り起こす。そうして発掘した技術をいくつか組み合わせ、活用し、更にその奥に眠っている技術へ……そうやって先へ先へと復興を進めていくつもりだ。火山灰の撤去、蘇生術の達成と効率化、資源生成手段の確立……現段階でも復興に向けた作業は山のように積まれているが、技術と人員が揃っていけばそれらも簡単に片付いていくことだろう」

 オスカー師はその言葉に対して特に何も反駁せず、ただ杖の頭を両手で覆って大きく息を吐くだけでした。全体的に場当たり的で、アムシースの力に大きく頼った計画ですが、どうやらそうであってもある程度の見込みを持てるということなのでしょう。少なくとも、見返りの大きさを考えれば希望的観測をしてもよい程である、ということです。行き当たりばったりでも、そんな計画に頼らなければ首がまわらなくなってきたということでもあるのかもしれません。

「でも」

 ハーツさんはクリフォアさんに近づいて、ローテーブルに手をつき、顔を近づけます。威圧の意味もきっとあります。

「あんた等の計画にマリーが巻き込まれる謂れは全くないわ。この子にはこの子の人生があるのよ」

「……元を正せばそれは我々の所有物のはずなんだがね」

「所有物?笑わせないでよ。そうやって誰でもモノ扱いする道理も良心もないような――」

「むしろ、私から見れば君たちのつまらない家族ごっこの方が余程に滑稽というものだ」

 クリフォアさんはハーツさんを強く睨みます。

「灰の底に埋まったアムシースの同胞達を見捨てて、君等の人形遊びの玩具を差し出せと?道理も良心もないのはどっちだ」

 ハーツさんは、話の通じない人間を相手にしているかのように顔を歪めて睨み返しました。その顔を見てクリフォアさんは嘆息を漏らした後、親指と人差し指をすり合わせながら、

「……しかし、全くもって不服だが、その点も考慮して提案している。言っただろう、これは譲歩だと。……全く、盗人共に対してどうしてこんな気を回さねばならないのか」

 周りにいる全員を見下したように、クリフォアさんはもう一度深く息を吐いて話の続きを始めます。

「君達の、いわゆるマリーを、こちらに一時的に貸与すること。これが我々からの要請だ。マリーに関しては我々も情報がやや不足しているため、拝借後、まずは非破壊的な検査をいくつか行う。検査の結果を綜合し、可能であれば模倣物を製造し、我々の復興事業にはそちらを用いるとしよう。困難である場合、マリーをそのまま実験や事業に利用したいところだが……予期される素体への負荷に関しては応相談。君達への報酬も検討しよう。……まあ我々からはこんなところか」






 前向きな検討を期待しているよ、クリフォアさんはカンランの付近のある丘を回答の場所として指示し、こう言い残して部屋を去りました。扉が閉まると、ハーツさんはすぐに、

「ほんっとムカつく!!街が丸々埋まっても全っ然反省もしないんだから……!」

 横柄な態度が嫌いと再三仰っていましたし、今回の来賓は確かにその点が顕著だったかもしれません。

「あの人の話だって、どこまで信じていいか分かんないもんね。蓋を開けてみたら強引にマリーちゃんを連れ去って酷いこといっぱいするのかもしれないし……」

「絶対そうよ!ほんと、放っとけばいいのよ!結局はあいつらの自業自得だし、それにマリーが付き合わされる必要は更々ないわ!」

「我々にとって利がある提案とは思えなかった。強いて言えば、これを機に彼等との縁を断ち切れる見込みがあることだけだろうか」

「そんなのつべこべ言わずに、次会ったら対話も挟まず真っ二つにしてやればいいのよ!ちょっとは話せる奴かと期待してたってのに、下手に出てる風で命令ばっかり……!」

 けれど、ハーツさんの剣幕に反してわたしの心中は罪悪感に揺れていました。自分が何の上に生きているか、考えたことはありませんでした。わたしの故郷は灰に埋まり、その故郷には当然、大量の命があったはずなのです。彼等が褒められた生き方だったのかは知りません。けれど、ハーツさんのご友人のように誰かの為に殉じる覚悟すら持っていた、壮絶な生き方をしていた人もたくさんいたことでしょう。そんなたくさんの人の上に、わたしは居る。わたしなんかが居る。わたしに、その全てを背負う理由はあるのでしょうか。わたしなんかが、その全ての上に立って生きる理由があるのでしょうか。

「……マリー……?」

 無い。酷く簡単です。わたしは人じゃない。わたしは人間じゃない。銀貨と引き換えに人の命が救われるなら、喜んで銀貨を差し出すべきです。わたしも同じです。わたしと引き換えに人の命が救われるならば、わたしは喜んで差し出されるべきでした。むしろ、こうして長い旅を続けていたことは、わたしの本来あるべき形に大きく反していたのです。わたしは……わたしの本当の居場所は……。

「マリー」

 ウォーレンさんが片膝をついて、わたしと目線を同じくします。

「君にだって、君の生がある。彼等に協力したいとして私はそれを否定しないが、その理由に君の生を蔑ろにするものが含まれるなら、私は許容しない」

 何故ですか。

「君は生きているからだ」

 生きているんじゃありません。ただ、偶然動き出しただけです。

「違う」

 わたしは材料なんです。ただ道具なんです。役割があって、役割のためにただ使用されるだけのものなのです。わたしの役割は、あのアムシースの人が決めるものなのです。

「止めなさい」

 人間とは違うんです。命とは違うんです。生きていることとは違うんです。ぞんざいに扱われようがそれが運命であり受け入れるしか――




 ……っ!首が緩く絞まる。頭が危険を信号しますが、呼吸ができなくなる程ではありません。胸倉を掴まれていました。

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