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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第九十ハ話 結末を導く者

 まったく、信じられんことをする奴だ。

 自分から言うのも情けない話だが、この際はっきり言っておこう。

いいか、私は運命の本だ。今は未完成ゆえ『空白の本』だの『虚ろなる書』だのと呼ばれているが、はっきり言って神より崇拝されている存在だぞ。……まあ、認知度は神よりも少し低いが……とにかく神より偉いんだ私は。神々でさえ成し得ないことを実現させる、未来永劫存在し得ない至宝だ。

 そ……それを燃やそうとするなど……罰当たりどころの騒ぎじゃないぞ!

「もう、しつこいですね。だから何度も謝ったじゃないですか」

 しつこいとは何だ、しつこいとは!さっさと私の拘束を解け!

「今やってますよ。少し静かにしててください。なかなか解けないんです、この縄」

 お前が縛ったんだろうが!ぐぬぬ……。

「え。急にいびきをかいた。なんでいきなり寝るんですか」

 唸ったんだよ!怒りのあまり!

「何だ、紛らわしい声を出さないでくださいよ。こっちはあなたの表情が分からないんですから」

 なんたる言い草だ!なぜお前は私にそう辛辣なんだ!少しは優しくしろ!そしてもっと敬え……おい、ペイン=ドロゥ。何だ、その目は。

「いや……私の先祖はこんなものに呪いをかけられたのかと思うと、ついな。怒るべきか、情けないと思うべきか」

 やめろ、ため息をつくな!

 くそ。お前ら、揃い揃って私を舐めているな……。

「マーブル。これはいつもこんな調子なのか」

 これとは何だ。指示代名詞で呼ぶんじゃない。

「はい。けっこう怒りっぽいんですよね、本のくせに」

 くせに、て。もう完全にいじめっ子の発言だぞ。

 大体お前は何なんだ、ペイン=ドロゥ。なぜお前がこの小娘をマーブルと呼ぶ。本の書き手であるリデル=プリエルの記憶を呼び起こすことがお前の目的ではないのか。

「勘違いしている者が多くて困る。私の目的は貴様から受けた呪いを断ち切ることだ。確かに当初はプリエルの記憶が鍵であると認識していたが……今一度問おう。君の名前は?」

「私の名前はマーブルです。プリエルの名前は捨てました」

「……だそうだ。実際、マーブルとしての記憶を取り戻した今、彼女はさらに力を増したようだ。歪んだ運命を破壊するための力が、な」

……『創造力』のことまで知っているのか。驚いたな。なんという飽きなく探求心、いや、執念と言った方が正確か。私の存在は知られていても、使い方の情報はほとんど残っていないはずだが。

「そうぞうりょくって何ですか?」

「選ばれた書き手だけが有する力のことだ。運命の本に書き込んだ歴史を実現させるにはその力が必要だ。そうだろう?」

 いかにも。運命の本は複数冊存在し、その内の一冊を持っていたのがリデル=プリエルだ。リデルは創造力を使って様々な物語を本に描き、荒野を花畑に変えたり、貧しい人々に食料を与えたり、あらゆる願いを意のままに叶えてきた。リデルを女神と崇拝する者もいる。実に羨ましい話だ、まったく。

「以前も説明した通り、君はリデルと同じ魂を持つ者だとわかり、記憶を呼び起こそうとした。君は少しずつ記憶を取り戻したことで絵を描くスキルは格段に上達していった。今さらマーブルとしての記憶を揺さぶるようなことがあれば記憶が混濁してしまうと危惧していたが……どうやら杞憂のようだ」

「はい。だいぶ色々思い出してきましたが、混乱はしていません」

 プリエルを婚約者として迎える話ではなかったか。

「その件は一族の老害が勝手に言い出したことだ。書き手との子を成すことで呪いを消そうなどという浅慮な考えを聞いた時は心底失望した。呪いは本の力でしか消せない。書き手と婚姻関係を結ぼうと、呪いに蝕まれた身体で本の力を発揮できるはずもない。何より、私は自身の代でケリをつけると決めていた。よって論外だ」

 なるほど。確かにお前の言うことは的を得ている。現状、解決策はマーブルに呪いを消す物語を書いてもらうしかない。今のままでは無理だがな。力が不足している。

「だろうな。それに筆の在り処もわかっていない。課題はあるが、ひとまずは彼女の仲間を助けることが先決だ」

「その通りです。ほら、拘束は解きましたよ。どうすればいいのか教えてください」

 ちっ。分かったよ。

 マーブル物語だったな。じゃあまずは本のページを開いて見せろ。

「こんな感じですか」

 速すぎる、パラパラめくるんじゃない。ゆっくり見せろ。

 ……よし、次。

「イッチさまやデンがいないページでも見る必要ありますか」

 当たり前だ。この物語がどんな話なのかを把握する必要がある。

 次。……ふむ、次。うん……次。

「このページです」

 ……かわいそうなマーブル、ね。なるほど。

「何かわかりましたか」

 ああ。この本は結末を欲している。

「結末……ですか。でも、これは……」

 この物語は未完だ。結末の形は本自身も知らない。

 ただ、こんな終わりは嫌だと言っている。

 イッチとデンは人質のようなものだが、物語の都合で操作することはできる。この二人のキャラクターを使って、ハッピーエンドにしてみろ。本が満足すれば二人は解放されるだろう。

「でも、ペイン様にもらった魔法の筆でもこの本には何も書き込めなかったですよ」

 他人が描いた物語だから外側から変えることはできない。今のお前では無理だ。

「どうすればいいです?」

 決まってる。マーブル、お前も本の中に入るんだ。

 お前の創造力なら、本の内側から物語を進めることはできるだろう。たぶんな。

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