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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第九十九話 ふたりのマーブル

 マーブルは私の指示通り空白のページに大きな円を描いた。

「こんな簡単な絵でいいんですか?」

 こんな一筆書きダメだと言いたいところだが、今回だけ特別に力を多く貸してやる。

 いいか、私は今からこの円を穴へと変える。それが異空間の出入り口だ。この円から入ればマーブル物語の世界に侵入できる。

「他の次元に異空間を繋げる……そんなこともできるのか」

 さしものペイン校長も驚いたか。同じ原理の魔法を扱う者がいると聞いたことがあるが。

「古代の魔法か。当然この時代の使い手ではない。神話の住人だ」

「んー、やっぱりもう少し描き足します。中に入れる感じがしないので」

 ならば納得のいくまで描くがいい。私は空間を繋げただけで、実際に先へ進むためにはお前の創造力が必要だ。創造力がなければ話が先に進まない。

「……はい。じゃあ、こんな感じで」

 絵は完成したか。よし、マーブル。お前がこれから向かうのは白紙のページだ。本の世界に入ったら、まずは周囲の景色を物語の景色に同化しろ。あの本の最後のページと、自分がいる場所とを創造力で繋げるんだ。

「よくわからないです。創造力ってどう使うんですか?」

 創造力の使い方など言葉で説明するものじゃない。

「説明を受けてはいけない、と言った方がより正確だろう」

「ペイン様。どういうことですか?」

「魔力であれ創造力であれ、力の使い方に伴う感覚は人それぞれだ。人に教えられた感覚が自分の感覚とは限らない。こういう感覚がある、と先入観を持つことで却って力の出し方が難しくなることがある」

「うーん、困りますね。創造力という力が本当にあるのかさえ自分ではわかっていないのですが」

「マーブル、君はすでに体験しているはずだ。空白の本に絵を描いたことで何が起こったのか。それこそ創造力の成せる業だ」

「うーん。あ、そう言えば、絵を描いた後はやたら眠くなりますけど」

「体力や精神力の消耗が激しいせいだろう……さて、どうだろう。自分の中にある力の正体。その輪郭が多少なりとも分かってきたのではないか」

 何事もものは試しだ。実際にやってみろ。こっちの準備はもうできているぞ。

「よく分からないけど分かりました。とにかく、やってみます」

 差し伸ばしたマーブルの手が本の中へと沈んでいく。


 そこは白紙の異空間。

 左右上下、一部の隙もなく見渡す限り、白。天地も白く、横幅も奥行きも確かめようがないほどの白い闇が佇んでいる。

 世界が生まれる前はこんな状態だったのかもしれない。

 常人ならば正気を保つことも困難であろう空間にマーブルは立っていた。

 ここが本の中――あれ?声が聞こえません。

 わー。わー!

 だめですね。いくら声を出しても聞こえません。ここには音もないのでしょうか。くしゃみもお腹の音も聞こえそうにないです。

 う~ん……なんにもなくて、つまらないところですね。

 ではさっそく空白の本に教わった通り、創造力で景色を描いてみましょう。

 最後のページで「マーブル」は森の中にいました。私は今、あの森と同じ場所にいます。

 マーブルは目を閉じ、絵本に描かれていた光景を思い浮かべた。

 青い森。

 赤い木の実は食べられる。

 人が住めるような環境。

 猛獣がいない、穏やかでいて、どこか薄暗さを感じる森。

 大きな丸太の上に「マーブル」はいた。

 絵本を一ページずつ、余すところなく見つめて網膜に焼き付けた絵を、マーブルはゆっくりと頭の中で反芻していた。

 ふと目を開けると、そこには青い森が広がっていた。

「わ。――あ、声が聞こえる」

 あー、あー、とマーブルは大きめの声を張り上げた。

「音が戻った……。最後のページとこの場所がつながったということでしょうか」

「――誰?」

 右奥の木の陰に半身を覗かせる女の子。女の子は絵本と同じワンピースを着ている。

「あ。いきなり見つかりました。あなたがマーブルですね」

「……なんで私の名前を知っているの。あなたは誰」

「私はマー……じゃなくて、プリエルです。リデル=プリエル」

「なんでここにいるの」

「仲間を探しに来ました。髪の毛が、こう……犬の耳のように逆立った人と、電気でバチバチしているイタチみたいなネズミみたいな」

「そんな変な人たち知らない。見てない」

「そうですか。じゃあ、私は森の奥を探してみます」

「ダメ。ここは私の森。勝手に入らないで」

「う~ん……すみません。すぐ戻りますから」

 プリエルはそう言うと、森の奥へと駆け出して行った。

「ダメって言ったのに、言うこと聞かない人ばっかり」

 少女マーブルはそう言うと、持っていた本を開いて何かを呟いた。すると、本の中から得体の知れないものが飛び出してきた。

「モジャモジャとゴロゴロ。あの人、食べちゃっていいよ」

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