第九十七話 データベース
「まず先日開催された魔法技能大会の出場者の中で特に魔力値の高い者をピックアップします」
アティスが投影した映像には、ルテティエ芸術魔法学校に在籍する生徒742名と教職員35名分のデータが表示されている。アティスは無数の文字列のいくつかに触れると、それらのデータが前面に押し出てきた。生徒の顔、氏名、所属、備考が記載されたデータが5名分横並びになっている。氏名の欄に表記されている数値は魔力値を示す。
・ミブリン(女_18歳)【2190】
魔法薬学コース初等科。魔法技能大会四位。補助魔法・回復魔法のエキスパート。
・メロオ(男_18歳)【2350】
属性魔法コース初等科。魔法技能大会三位。複数の召喚獣を従える。
・モコロカ(男_16歳)【2660】
属性魔法コース初等科。魔法技能大会準優勝。火・雷・風の三属性の魔法を扱う。
・ジーニャ(女_17歳)【2840】
属性魔法コース初等科。魔法技能大会Bブロック二回戦敗退。防御魔法に高い資質あり。校内で唯一、鬼族を使い魔とする。
・スティッキー(男_12歳)【4000】
生活魔法コース初等科。魔法技能大会優勝者。二日後にペイン校長と謁見予定。
「ご存知かと思いますが、初等科の魔力値アベレージは550です。この五名は平均値を大きく上回る魔力を有しており、すでに中等科でも通用する実力に到達しています」
「ふむ。今年は豊作ですね。トップ3の生徒たちを出していただけますか」
はい、とアティスが返事をすると画面がすぐに切り替わった。
・アイハラ=イト(女_22歳)【8110】
建築コース中等科。ゼイルー准教授の愛弟子とされる。
・スピネ(女_25歳)【9000】
魔法薬学コース高等科。回復魔法のスペシャリスト。薬学においても高い実績を持つ。
・ベリル(男_27歳)【12500】
属性魔法コース高等科。次期准教授の内定者。
ほう、とロードヴィはレンズの位置を直した。
「芸術専攻のアイハラさんがランクインしましたか。あのポジションは先月まで属性魔法のコランダさんでしたよね」
「はい。この一ヵ月で魔力値から7400から7600に増していますが、アイハラさんの成長速度は目を見張るものがありました。ゼイルー先生のお供は相当過酷なのでしょう」
「この際ですから教員の魔力値も見せてください。もちろん際立った者だけで構いません」
「わかりました」
・ヴァニス(女_29歳)【14000】
魔法専攻属性魔法コース准教授。魔力値ゼロまでコントロールが可能。
・ゼイルー【表500/裏50000】
芸術専攻建築コース准教授。『裏ゼイルー』になると魔力値が100倍に上昇する。
・ロードヴィ(男_44歳)【78000】
魔法専攻魔法薬学コース兼生活魔法コース教授。
・ボアーラ(男_56歳)【102000】
魔法専攻科長。通称『火山のボアーラ』。魔拳の達人。
・クロキ(女_46歳)【117000】
副校長。異常な魔法射出速度から『閃光のクロキ』と呼ばれる。
「さすがに壮観ですね。我々教授陣は互いの魔力値をこうして数値化して比較することがありませんが、改めて上司との差を思い知らされますよ」
ロードヴィは軽く首を振って髪を掻き上げた。一見、悲観そうに見える様子だったが、その口元にはかすかな笑みをたたえていた。
アティスは軽く咳払いした。
「ペイン校長の正確な魔力値は測れていませんが、おそらく20万は下らないでしょう」
「同感です。一般的に賢者の魔力値は最低でも20万を超えるそうですから、校長がそれ以下ということは考えられません。何と言っても彼は『第八の賢者』ですから」
その後もアティスとロードヴィの会話は続いた。二人の戦力分析は実に正確なものだ。しかしこの者たちは、どういう目的で……うん?
なんだ……?この感覚は……?
なんだか温かい――いや、熱い。熱い!熱い熱い熱い!!一体なんだ?
感覚を本体へ戻さなくては――
ぎゃあああああああ!!燃える!身体が燃える!
なんてことだ!私が焚火に当てられている!
「――あっ。聞こえました。やっと起きましたか」
お、お、お前……マーブル!
「はい。マーブルです。お久しぶりですね、本」
おま、何やっとるんだ!私を!この運命の本を!火炙りにしているのか!
「いくら呼んでも叩いても全然反応しないので、眠っているのかと思いまして」
お前は眠っているものを火あぶりにするのか!この鬼!悪魔!
「人食い本の仲間に言われたくありません」
なんだと?何の話だ?
「これ、マーブル物語です。この中に私の友達がいます。いろいろ試しましたが、本の中から出すことができません。あなたなら何か知っているでしょう。二人を助ける方法を教えてください」
ふん、やなこった。そんなことしても私には何のメリットもない!
「教えてくれなきゃ燃やします」
うわ、やめろバカ!私にどれだけの価値があると思っているんだ?
「知りません」
くっ!大体こんなことしたってペインの呪いは消えないんだ。ペインに知れたらただじゃ済まないぞ!
「ほう。教えてほしいものだな。誰が、どう、ただじゃ済まないんだ?」
お前は――ペイン!私の声が聞こえるのか!
「断片的に、だがな。呪いが進行している今、貴様の強い感情なら聞き取れるようだ」
う、うわ、やめろ!これ以上炎に近付けるな!本当に燃えちゃうだろ!
「……演技だとしたら大したものだな。それとも、貴様が得た人間の記憶が痛覚を与えているのか?いくら火力を上げようと貴様は燃えないし、壊せない。そんなことは貴様自身が一番良く理解しているはずだろう」
実際には燃えないが燃えるように感じるんだよ!
「いずれにせよ、マーブルの言うことを聞かなければ貴様の収納場所は炎の中だ」
わかった!わかったよ!教えりゃいいんだろ、教えりゃ!




