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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第九十五話 ひとしずくの再会

 食事を終え、湯浴みをした後でマーブルは自室に戻った。部屋の明かりを消し、窓を開けると、紙飛行機が部屋の中に入ってきた。マーブルは窓の外を軽く見渡し、誰もいないことを確認すると、窓を閉めた。

 部屋に入ってきた紙飛行機の折り目を広げると、そこには魔法陣が描かれていた。マーブルは魔法陣の中心に手を置くと、「アヴァン」と唱えた。すると、マーブルの手を置いたところから一冊の本が現れた。

 マーブルの一連の行動はすべて、アティスから指示されたものだった。食卓に向かう前、アティスと接触していたのは一分にも満たない短い時間であったが、どのようにしてマーブルにこの本を受け渡すのか、アティスは簡潔に伝えた。

「本にはメモを挟んでおくから、詳しくはメモを読むといいよ。じゃあまた後で」

 最後にそう伝えるとアティスは文字通り姿を消した。

「この本が……」とマーブルは呟いた。

 最初のページに挟んであったメモを取り出した。

『警告。この本のことはくれぐれも内緒にして。特に父さん……ペインには絶対にバレてはいけない。

 ペインは、リデル=プリエルとしての記憶を蘇らせる妨げになる可能性があるものはすべて排除するように全教員に指示を出している。あなたを“マーブル”と呼ぶ者たちには会わせないように、そして何よりもこの絵本は絶対に見せてはいけないとのお達しだよ。大昔の絵本だけど、街の古本屋には何冊か在庫があった。それらがペインの指示で処分される前に、僕が裏から手を回して一冊だけ保管していた本が、これだ。

 あなたが“マーブル”と名乗っていた理由はペインでさえ知らないし、あなた自身も思い出せていない。けれど、この絵本とあなたは確実に何か関係がある。もしもあなたがリデル=プリエルとして生きたいのなら、ペインと結婚したいのなら、この本は読まなくていい。あえて言うけど、ドロゥ一族にとってはその方が大助かりだよ。それが呪いを解く最善手だからね。けれどもし、隠された真実を暴きたいと思うなら。あなたが無意識に応援していた“彼ら”が何者なのか知りたいと思うのなら。この本を読んでほしい。

 それから最後に。この本は読む・読まないに関わらず、必ず魔法陣の中にしまってね。“インファ”の呪文で魔法陣の中に本が入るから、その紙は丸めて窓から投げ捨てて。そしたら僕が本を回収するから。また今度会いに行くよ』

 メモはそこで終わっていた。

「……“彼ら”?」

 プリエルは絵本をめくった。

 自身の役割は理解している。ドロゥ一族の呪いを解くこと。そのためには、運命の本に選ばれた者とされるリベル=プリエルの記憶を取り戻す必要がある。最初に説明を聞いた時は何が何だかわからなかったが、記憶を取り戻しつつある今はペインの力になりたいと願っている。この記憶は決して植え付けられたものではないと本能が理解していた。

 一方で、マーブルとしての感情が残っているのも事実だった。忘れてはいけない何かが、今、記憶から消えようとしている。それはどうしても看過できない。

 絵本の最後は、“かわいそうなマーブル”で締めくくられていた。

 プリエルは、絵本を閉じることができない。

 手が震えている。身体は硬直し、瞬き一つできない。見開かれた大きな瞳から、一筋の涙が零れた。

「あ……あ、あ……」

 絵本が手から落ちると、いくつかの光景がフラッシュバックした。

 膝から力が抜け、ベッドにもたれかかった。叫びたくなる気持ちを抑えようと、咄嗟に顔を布団に埋めた。

 泣いたらダメだ。泣いたら声が出ちゃう。

 そしたらペイン様に気付かれる。あたし、私は、きっと気付かれる。

 思い出した。私は……もうリデルなんかじゃないんだ。だからマーブルなんだ。

 マーブルは床に落ちた絵本を閉じようとした。

 その時、あるページが目に留まった。最後の見開きのページの、次。白紙のページが何枚か続いているようだ。

 マーブルは震える指でページをめくる。そこには。

 バットのようなものを振り回している様子の少年と、黄色の体毛を逆立たせる子犬のような獣が描かれていた。いや、これは絵ではない。生身の人間と、雷獣だ。

「……イッチさま。デン。そんなところで何してるの」

 マーブルは目に涙を浮かべたまま微笑んだ。

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