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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第九十三話 ブラックアウト

「何だよ、この本」

 俺の背に乗って絵本を見ていたデンが呆れたように言った。

「なんだか薄気味悪りィ、変な話だ。人間の子どもはこんなのを読むのか?」

 どうだろうな、と俺は曖昧に首を傾げた。そういえば、俺は子どもの頃から絵本らしい絵本を読んだことがない。家に一冊もない気がする。桃太郎や浦島太郎も話の大筋は知っているけど、それは学校生活で得た知識だ。中には、何の教訓も得られないような、子ども向けとは思えない異質な内容の絵本も存在するのかもしれない。

 でも、この話は……実際に起きた出来事のことを言っているのか?

 マーブルという名前の少女。描いたものが現実に出てくる本。

 俺が目の当たりにしてきた出来事と何が違う。まったく同じじゃないか。どう考えても偶然で片付けられるレベルじゃない。マーブルという存在そのものが本から出てきたと言われた方がまだ納得できる。

「このマーブル物語には様々な解釈があるんだけど、今は時間がないからその説明は置いておくよ。肝心なことだけ言う」

 絵本を手に取ったアティスが人差し指を立てた。

「あなたたちの知るマーブルは、この絵本のマーブルと同じことができる。違うのは髪の色だけと思っていい。運命の本に選ばれた者は、その本に描いたものを現実に変えることができるんだよ。ペインは――というよりドロゥ一族は運命の本に呪われた一族だ。呪いを解くことができるのは本を持つ者だけだ。だからマーブルが現れるのをずっと待っていたんだ。何百年もね」

「何百年も、って!あいつ一体何歳なんだ?人間がそんなに長く生きるわけないだろ」

 アティスはデンのつっこみにも怯まず素早く答えた。

「年齢は18歳だよ」

「えー!俺より年上?」

 これは驚いた。中学生くらいかと思っていた。

「この絵本は三百年以上昔に描かれたもので、マーブル物語の作者の娘であるリデル=プリエルがマーブルのモデルと言われている。もちろん本物のリデルはとっくに亡くなっているはずなんだけど、どういうわけかペインはマーブルがリデル本人だと信じている」

「他人の空似だって親父に言ってやってくれ。俺はマーブルの小さい頃を知っているんだ。マーブルはマーブルだ。リデル?なんて人とは関係ない」

 ううーんとアティスは珍しく悩むような素振りを見せた。

「マーブルという名前は本名じゃないって本人が認めているんだ。今はリデル=プリエルとして生活しているし、今はマーブルって名前を呼んでも反応がないよ」

「そんなわけねえ!お前らがあいつに変なことを吹き込んだんだろ」

「吹き込んだとしたらペインだよ。僕じゃない。彼女がこの街にやってくるよりもずっと前からマーブル物語のことは調べていたんだ。ようやく一冊手に入ったから、興奮して思わず見てもらっちゃったよ。まだわからないことはあるけど……とりあえず、やるべきことは決まった」

 アティスは絵本をベンチにそっと置いた。

「僕はこれからいろいろ調べることがある。この本、預かっておいて」

「おれたちは試合に出るから、ここはもぬけのカラになるぞ」

「大丈夫。ペイン以外の人にとっては何の価値もない古本だから盗まれる心配はないよ。ペインと接触する機会が多い僕が持っている方が遥かに危険だ」

「そういや、俺たちが勝ち上がるまで目的は話さないみたいに言ってなかったっけ」

「言った。でも状況が変わったよ。本を預けておきたいからある程度の情報は明かそうと思った。あなたたちが優勝する可能性もぐんと高くなったからね」

 俺とデンは思わず顔を見合わせた。

「それは、なんでまた?」

「その鬼のツノだよ」

「えっ、これ、そんなにいいものだったの?どう使うんだ?」

「次の試合が終わったら魔法道具の専門店に持っていって、腕輪でも首輪でもなんでもいい、アクセサリーに加工してもらうといい。それを装備しておけば……いいことがあるよ」

「何だ、そのふわっとした説明。え、なんか怖いんだが」

「さあ、そろそろ次の試合だ。油断させるつもりで言うわけじゃないけど、このブロックで一番の敵はジーニャ選手だった。次の相手は楽勝だと思うから、なるべく大技は使わずに体力を温存して勝つことをおすすめするよ。それじゃ」

 そう言うとアティスは景色に溶け込むように姿を消した。

「い……今のも魔法だよな。便利―」

「知るか。言いたいことだけ言いやがって、わけがわからねえ」

 デンが吐き捨てるように言った。

「えーっと、要するに、ペインはマーブルをリデルだと思っていて、マーブルも自分がリデルだと思い込まされていて、ペインは呪われているから本の力が必要でマーブルと結婚しようとしているってことか……な?」

「な、じゃねえよ。ぜんぜん要してないし」

「まあいいや。わからないことを考えても仕方ないし」と、俺が言った時だった。

 何かが落ちる音がした。

 振り返ると、デンの姿はない。しん、と急に静寂が訪れる。

「デン?」

 デンがいない。

 先に行ったわけじゃないよなと思いつつ、ドアを開けて廊下を見渡した。

 やはりデンの姿はない。

 急激に鼓動が高鳴る。

「デン!返事をしてくれ、デン!」

 デンが消えた?

 何だ?一体何が起きてる?

 ベンチの上に置いてあったはずの絵本が、床に落ちている。

 まさか――。

 俺は絵本を拾い上げようとした。

 ぶつ、と電源が落ちたかのように、視界が暗転した。

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