第九十二話 “かわいそうなマーブル”
【マーブル物語 二巻】
これは、はるかむかしのできごと。
あるところに、ルイスというなまえのひとりのまずしいおとこがいました。
ルイスはあるまちでくらしていましたが、そらからたくさんのつるぎがふってきて、たべものもようふくもいえもぜんぶこわれてしまいました。
「ひゃあ、おたすけぇ」
ルイスはおおあわてでまちをとびだして、うんととおいところまでにげました。あんまりとおくまでにげたので、やがてルイスはふかくてくらいもりにまよいこんでしまいました。
ぐうう~。ぐうう~。
ルイスのおなかがおおきくなります。
「おなかがすいたなあ。きょうはあさからなにもたべてないや」
あんまりおなかがおおききくなるので、ルイスはみみをふさぎながら歩きました。
すると、あちこちにきのみがおちていることにきがつきました。
くんくん。くんくん。
なんだかおいしそうなにおいがしたので、
ぱくり。
ひとつ、たべてみました。
「これはおいしい。もっとたべたいなあ」
それからルイスはもりのなかをあるきまわって、きのみをあつめました。
でも、それはとてもちいさなきのみだったので、いくらたべてもおなかがいっぱいになりません。
「もっとたべたいなあ。もっともっとたくさんのきのみがほしいなあ」
すると、あかいスカートをはいたおんなのこがあらわれて、こういいました。
「おなかがすいたなら、もっとおおきなきのみをあげましょう」
おんなのこはうたをうたいながら、おおきなほんにえをかいています。
「きみはだれ?」とルイスがたずねました。
「なまえはマーブル」とおんなのこがこたえました。
マーブルはほんをひらいて、ルイスにみせてあげました。
そこにはとてもおおきなきのみがかかれています。
「すごくおいしそうだけど、えはたべられないよ」
ルイスががっかりしていると、マーブルはほんのせなかをやさしくたたきました。
ぽんぽん。ぽんぽん。
そうすると、ほんのなかからおおきなきのみがでてきました。
ルイスはとてもおどろいて、ぽかんとおおきなくちをあけました。
「とてもおおきなきのみです。どうぞどうぞ」
マーブルはおおきなきのみをもちあげると、ルイスのくちにいれてあげました。
もぐもぐもぐ。
むしゃむしゃ。
ごくり。
「うわあい。おなかがいっぱいになった」
ルイスはとてもよろこびました。
うれしそうなルイスをみて、マーブルもうれしいきもちになりました。
「これでしあわせですね。よかった」
マーブルはおうちにかえろうとしました。
「ちょっとまってよう」
ルイスはマーブルのあとをおいかけます。
「どうしましたか」
マーブルはルイスにたずねました。
「ぼくはしあわせじゃない。いまはおなかがいっぱいだけど、あしたになったらまたおなかがすいちゃう」
「じゃあ、あしたになったらまたえをかきます」
「たべものだけじゃたりないよ」
ルイスにはほしいものがたくさんあります。
たくさんのたべものがほしい。
ようふくがほしい。
いえがほしい。
マーブルはルイスのほしいものをたくさんかきました。
ふでをもつてがまっくろによごれるまで、たくさん、たくさん。
「かんせいしました」
たくさんのえがかいたので、ほんのせなかをやさしくたたきます。
ぽんぽん。ぽんぽん。
「あれれ。なにもでてこないよ」
マーブルはもういちどほんをたたきます。
ぽんぽん。ぽんぽん。
「たくさんかいたから、ほんのなかからでてこれないのかも」
マーブルがそういうと、ルイスはほんをてにとりました。
「もっとたたいたらでてくるよ」
ばしばし。ばしばし。
ルイスはほんをつよくたたきました。
「つよくたたかないで。ほんがかわいそう」
マーブルはルイスにおねがいしましたが、そのこえはルイスにはとどきません。
「いたいじゃないか」
ほんはおこって、とてもおおきなくちをあけました。
ばっくん。
ルイスはほんにたべられてしまいました。
マーブルがもういちどほんをひらくと、そこにはルイスがいました。
ほんのなかにいるルイスは、たくさんのたべものと、たくさんのようふくと、すてきなおうちにかこまれています。そのどれもが、ルイスのほしかったものばかり。
「こんどこそしあわせになっただろう。よかった、よかった」
ほんはそういうと、ぱたんとページをとじました。
「あーあ。マーブルはともだちがほしかったのに」
ルイスはしあわせになりましたが、マーブルはほしいものをてにいれることができませんでした。
おお、かわいそうなマーブル。




