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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第九十一話 ある絵本

 控室に戻るなりベンチに倒れ込んだ。

 全身が熱く、だるい。しんどいと口にするのも億劫だった。

「さすがのお前も相当まいってるな……」

 向かいのベンチの上にデンが乗る。その動作にはいつものような軽快さがない。

「そっちこそ、だいぶ元気なさそうだな」

 ああ、とデンが力なく相槌を打った。

「魔力が底をつきかけてるんだ。次の試合までに少しでも回復させないと」

 次戦がブロック決勝戦だ。どんな奴が勝ち上がっているのか試合観戦したかったが、俺たちにはそんな気力も残っていなかった。デンの言う通り、とにかく少しでも休まなきゃ試合どころじゃない。

 ガチャ、とドアの開いた音がした。俺は仰向けのまま目線を向けると、そこにはジーニャが立っていた。

「お疲れ様。さっきはよくもやってくれたね」

 恨みがましい言葉とは裏腹に爽やかな笑みを携えているジーニャを見て、俺はなんとか身体を起こして軽く会釈した。

「ああ、いいんだ。さっきの楽な姿勢のままでいて」

 お言葉に甘えて、元の仰向けに戻った。

「悪いな。俺たち、相当くたびれてるんだ」

「ふふ。これじゃ、どっちが勝ったんだかわからないね」

「まったくだ」

「いや何を和やかに話してんだ」

 張りのない声でデンがつっこんだ。

「お前、何しにきたんだよ」

「そう邪険にしないでよ。イッチくんに渡したいものがあるんだ」

「俺に?」

「ああ。オーガから預かったんだ。君に渡してくれと頼まれたよ」

 はい、とジーニャは俺の胸元に何かを置いた。俺はそれを手に取る。

「何だ……?」

 それは表現しがたい物質だった。手のひらに収まるサイズの、化石のような見た目をした突起物。拳を作ればすっぽり隠れそうなほど小さいのに、砲丸のようなずしりとした重さだ。

「石より硬い。でも金属とかじゃない」

「それが私にもわからないんだ。オーガに詳しいことを聞き出す前に地獄に帰ってしまった」

「帰った?」

 そこでデンがむくりと身体を起こした。

「赤鬼はお前の使い魔だろ。勝手に帰るなんてことあるのか?」

「オーガの場合は時間制限があるんだ。本来鬼族は人間の使い魔になるような種族じゃないが、私とオーガには個人的な繋がりがあってね。召喚術のイロハについてはまた別の機会に教えるが」

「いや、別にいい」

 ジーニャは軽く咳払いして、話を戻した。

「さておき、オーガの奴、君に何を渡そうかだいぶ迷っていたからな。もたもたしているうちに召喚術のタイムリミットが来てしまったというわけさ」

「デン、何か知ってるか?」

「知らねえ……けど、鬼の匂いがプンプンするな」

「確かに鬼の妖気は感じるね。ただ……」

 ジーニャが言い淀むと、同じ感想を持っていたのか、デンが言葉を紡いだ。

「鬼が持っていたから匂うのか、もともとそれ自体の匂いなのかがわからねえ」

「その通り」

「鬼の……骨とか?」

 思いついたことを口にしてみると、俺の横で二人がう~んと唸った。

 まぁ、わからないことをいくら考えても仕方ない。

「まぁいいや、とにかくありがとうな。使い道がわかるまで大事に持っとくよ。今度オーガにもお礼を言っといてくれ」

「わかった。それと、デンくん。君には私から」

 ジーニャは杖を取り出すと、デンに向けて何やら魔法を唱えた。白く細い閃光が瞬く。

「わわっ、な、何だいきなり!」

 デンが白い光に包まれて慌てふためく。パチパチと何かが弾けるような音は今ではお馴染みだ。

「大丈夫だ、デン。それは攻撃じゃない」

「……こ、これは……魔力が戻った?」

「その通りパート2。雷の魔法だよ。雷獣は雷を吸収すると聞いていたからね、今の君が許容できそうな魔力量に調整して出力してみた。初めてやったけどうまくいったみたいで何よりだ」

「お、お前……雷の魔法を使えたのかよ」

「バリアだけだと思った?雷以外の属性魔法もいくつか使えるよ。今回はオーガの試運転をしたかったから、できるだけ自分の魔法で攻撃しないように……って、これは別に負けた言い訳をするつもりじゃないけどね。一番自信のあったバリアを破られたのは事実だ。君たちは強い」

 なるほど。つまり、純粋に魔法で対決していたら俺たちはボロ負けだったということか。

「さて、私はこの辺でお暇するよ。貴重な休憩時間に邪魔して悪かったね」

 ジーニャが爽やかに去った後、俺とデンはなんとも言えない思いで顔を見合わせた。

「とにかくだ!おれの魔力は戻ったし、次の試合の相手を見てくる」

「そ、そうだな!切り替えていこうぜ」

「その必要はないよ」

 急に部屋の隅から声をかけられてぎくりとした。

「びっくりした!誰だ?」

「僕だよ。アティス」

 アティスは丸眼鏡を指でいじりながら、部屋に隅に立っていた。

「お前かよ!びっくりした、なんでここにいるんだ」

「そ、それより、いつからここにいたんだ!全然匂いがしなかったぞ!」

「最初からいたよ。皆、僕に気付かなかっただけ」

 最初から?

 疲弊しきった俺たちはともかく、ジーニャも気付かなかったってことか?

「今、試合が長引いていてね。次戦まではニ十分くらいはあると思う。その間に聞いてほしい話ができた」

「その話、次の対戦相手を見るより大事なことか?」

 デンが警戒しながら訊ねる。

「意味ないと思うよ。次戦、どっちが勝ち上がったとしても、ジーニャさんより弱いからね。どうせ二人が勝つよ」

「なんでそんなことが言い切れる?イッチを見ろよ、こんなにも消耗してたんじゃ」

「それも大丈夫」

 アティスは何もない空間から杖――というよりはかなり小振りなステッキを出現させ、それを手に取ると寝ている俺に魔法をかけた。強い風に吹きつけられたかと思うと、全身の疲労が嘘のようになくなっていた。

「うお、マジか!体力が戻った!」

 俺は勢いよく立ち上がってガッツポーズをした。

「ちなみに、さっきオーガからもらっていたのは、鬼の角だよ」

「ツノ?」

「使い道は後で説明するよ。それよりも、まずはこれだ」

 再び何もない空間から、いきなり一冊の本が現れた。表紙には何か文字が描かれているが、かすれて読めない。

「タイトルは『マーブル物語』。この絵本こそ、ペインがマーブルを探し求めていた理由だよ」

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