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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第八十九話 がんばれイッチ

 おれの戦法には大きな欠点がある。そんなことはジーニャに言われるまでもなく気付いていた。

 せっかく相手の魔力を吸収しても、こちらからの攻撃は接近戦の一手しかない。最初に戦ったジョットのように接近戦に持ち込むのが難しい相手や、逆に接近戦を得意とする相手とはどう戦うのか。イッチとの特訓はその答えを見つけるためだった。

 そして打開策は意外な形で見つかった。

 試合前日。今日は軽めの特訓にして、明日のためにしっかり休もうとイッチは言ったが、おれは地べたに寝そべるまで身体を動かし続ける羽目になった。

「おい、もういい加減休もうぜ」

「ま、まだ……もうちょっと、だけ……」

「しっかり休まないと魔力が回復しないんだろ。試合に勝ち抜くにはお前の雷が必要なんだ。おれは魔法がまったく使えないからな」

「いばるな」

 癪だがイッチの言うことはもっともだった。肝心の明日に差し支えるようならこんな特訓には何の意味もない。

「やるだけやったんだ。後は明日……ん?何だありゃ」

 イッチが足を止めた。その視線の先を追うと、ポールの先端に電流が走っていた。

「デン、あれって」

「おれの魔力……か?」

「いやいや、俺はわからないけど。でもここには俺たちしかいないし……あ。そういやデン、さっきあの上に乗ってなかったか?その時に電流が移ったんじゃないの」

 電流が移った。そんなことがあるのか?

 基本的に雷獣は人間のように武器を使わない。生まれた持った爪や牙があり、発生させた電気をそれらに集中させた時、そこが最大の武器になるからだ。

 あのポール自体には何の魔力も感じない。ただの物質に自分の魔力を纏わせたってことなのか?オサたちもその気になればこういうことができたのだろうか。わからない。

「ものにも帯電するってことか?」

 ポールに纏わりつく電流が渦を巻いている。

「デン、これ消せないのか?このまま放っておいたら、この辺を通りかかった誰かが――」

 イッチがおそるおそる近付くと、電流は何かに反応したようにイッチへ飛びかかった。

 バチバチバチッ!!

「んぎゃぎゃぎゃっ!!」

 イッチは悲鳴を上げて倒れた。おれは慌てて駆け寄る。

「お、おい!しっかりしろ、大丈夫か!」

「し、しびび、し、び、れ……」

 完全に痺れている。自分の身体から離れた電力だから、多少なりとも威力は落ちているはずだが、無防備なところに意表を突かれるとそれなりの効果は見込めるようだ。

「いい、い、いったい、何なんだ」

 訳が分からないと言った様子のイッチに、おれは見たままを伝えた。

「あのポールからお前のベルトに電流が走った」

「そ、そんなこと、できたのか」

 いや、とおれは首を振った。

「おれが操作したわけじゃねえよ。かと言って、もちろん電流自体に意志があるわけじゃねえ。これはたぶんおれの魔力の特性だ」  

 おれが作り出す電気は金属製の物質に帯電し、更に別の金属へと連鎖する。

 そしてどうやら、その連鎖反応が多いほどに雷撃の威力は増大する。

 ジーニャのイヤリングを見た時から、この技を使うチャンスはないかと考えていたが、コート上には他に金属製のものは何もない。帯電状態で直接ぶつかる以外にダメージは与えられないかと諦めかけていたが、分身の魔法を使ってくれたことはおれにとって嬉しい誤算だった。

 雷撃を浴びた分身たちは霧散し、本体のジーニャだけが残った。ジーニャはよろめいて倒れる直前、両手で杖を持ち全身を支えた。

「あ~~……痺れた。やっぱり雷の魔力は強烈だね」

 言葉とは裏腹にジーニャは笑みを浮かべていた。

「まだやる気か」

「うーん。やめとく」

「それは負けを認めるってことか」

「あ、ううん、君とこれ以上戦うのはやめておくって意味。あたしは体力が少ないから、次の相手のためにもこれ以上ダメージを喰らいたくない」

 ギリ、と歯が鳴った。

 次の相手?こいつ、この期に及んでまだおれたちをなめてやがる。

「ごめんね。ずるい手だけど、これが一番確実だ。“バリ・コール”」

 赤と青の四角形が組み合わさった防御幕がジーニャを包む。代わりに、周囲を覆っていた水色のバリアが消失した。

「物理と魔法を通さないバリアで全身を覆った。これであたしにはすべての攻撃が効かない」

「何だと?二種類のバリアを同時に駆使したのか?そんな魔法が使えるなら、なぜ最初から使わない?」

「駆使できないと言った覚えはないよ。使わなかった理由は簡単。このバリアを張っている間、あたしは一切身動きが取れない。オーガを従わせることもできない。つまりこれはオーガ任せの荒い戦略なんだ。そんなの、なんかずるいじゃん。だから今まで使いたくなかった」

 ふん、とおれは鼻を鳴らした。

「人間の感覚はよくわからねえな。勝負なんてのは勝てばいいだろ」

「あはは、もっともだね。私はもう何もしないから、君はイッチに加勢するといい」 

「言われるまでも――」と言い終わらぬうちに、何かが凄まじい勢いで背後を通り抜けた。

 壁にたたきつけられたのは、オーガこと赤鬼の方だった。

 え、と声を漏れたのとほとんど同時に、赤鬼は体勢を整え、コートに戻るべく飛び上がった。

 相対するイッチは迎撃の一打を放つが、鬼のでかすぎる正拳に受け止められる。イッチがその衝撃にやや仰け反ると、鬼はすかさず手刀を振り下ろしてきた。イッチは素早く身を翻して鬼の攻撃を回避し、その次の瞬間には――。

「一本打法・流し一閃」

 イッチの棍棒が鬼のすねを打った。かすかに鬼がよろめいた一瞬、イッチは棍棒を両手に持ち替えると鬼の足の甲をめがけて振り下ろす。追撃成功だ。

「よし!」と声に出したのはおれの方だ。

 あの野郎、鬼にくらいついてやがる!

 しかし鬼もさすがに手強い。確かに手応えがあったであろう一撃をものともしない。鬼は打たれた足の方でイッチを蹴り上げた。イッチはとっさに棍棒でガードしたように見えたが、衝撃を殺しきれず尻もちをついた。

「いって~~!」

 痛みを感じるのも束の間、鬼は滝のような勢いで両手を交互に振り下ろしてくる。イッチはそれらの攻撃を避け、棍棒で受け流し、攻撃の隙を窺っている。

「……か、加勢する間がない!が、がんばれイッチ!がんばれ!」

「がんばれイッチ」

 それはおれの声じゃない。

 一滴の雨が落ちた音のような。

 そんなささやきが、どこからともなく確かに聞こえた。

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