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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第八十八話 vs.ジーニャ

「“バリ・ヤード”」

 ジーニャが呪文を唱えると、薄い水色の編み物のような膜が周囲に広がっていく。

「このバリアは特殊でね。外部からのあらゆる攻撃を遮断する代わりに、バリア内の私は無防備だ。今なら物理攻撃も魔法も私には効くよ。当たればの話だけど」

 小石を蹴ってバリアに当てると、バチンと音を立てて小石は消滅した。

「当然私が魔法を解除するまで外には出られない」

 イッチはバリアの外側で鬼と向かい合っている。これでイッチを手助けすることができなくなったわけだが、考えようによってはこの方が助かるかもしれない。この女をぶちのめせば、使い魔の鬼は消えるはずだ。確かにイッチには人間離れした体力や瞬発力があるが、あの鬼には勝てないだろう。

 はは、とジーニャは余裕ぶって笑う。

「何考えているかわかるよ。いい闘志だ」

「こっちはわからねえよ、お前の考えなんかな。なぜわざわざこんなバリアを張ったんだ?」

「簡単なことだよ。オーガは見境がないからね、これで攻撃の余波がこっちに届くことはない。心置きなく君とサシでやれるってわけ」

「へっ。単純な話にしてくれて助かったぜ。お前をぶちのめせば使い魔の鬼は消える。おれたちの勝ちだ」

「君、すごいね。さっきまでの小競り合いで、私には勝てないって思わなかったんだね。何か勝算でもあるのかな」

「そんなもん知らねえよ!」

「そんなことだと思った」

 余計なことを考える必要はない。やることは一つだ。

 おれの魔力が意思に応えるように爆ぜる。

「“白雷”か。攻撃魔法を自身の電力に変換する雷獣ならではの魔法だ」

「ハクライ?人間が勝手につけた技名なんか知らねえよ」

「うん。雷獣が扱う魔法の中では使用頻度はかなり低いね。だって使う必要がない。いちいち相手の魔力を変換しなくても、自分の魔力だけで強力な電気技を出せるから」

「何が言いたいんだ。おれをなめてるのか?」

 ジーニャに飛びかかり爪撃を繰り出すが、簡単に避けられる。

 構うもんか、当たるまで何回でも攻撃してやる。

「白雷の対処法はいくつかあるけど、どれも超簡単。たとえば、相手に何もしないこと」

 ジーニャは紙のようにひらひらと舞った。

 ――くそ、何だあの身のこなしは!攻撃が当たらん!

「私は何も考えず、あと数分、攻撃を避け続けるだけ。君の魔力が尽きるまでね……っていうのが楽な勝ち方。他には、こんな手もある」

 ジーニャが着地する。おれの両手が奴に触れようとした瞬間、ジーニャはおれの爪撃を手で払いのけた。

「なにっ!?」

 今のはバリアじゃない。なぜ雷が効かない?

「せーのっ」

 バランスを崩されたところにジーニャの平手が飛んでくる。右、左、下、上、左と顔面に五発もの打撃を受けた。

「白雷みたいな魔力吸収技はね、使用者のレベルが高ければバリアをも剥がすことができる。今の君にそこまでの芸当ができるとは思えないからバリアで対処しても良かったんだけど、今回は練習中の体術を使ってみた」

「く……」

 起き上がってジーニャから距離を取る。

 体術。あのシブラってじいさんもそんなこと言ってたな。魔力を使わない人間の技がなぜ魔法に対抗できるんだ?

「魔力吸収技はね、魔力を使わない攻撃には滅法弱いんだ。君の戦法が白雷だけなら、やっぱり君には勝ち目がない。それに」

 ジーニャが顔を背けると、大きな打撃音が響いた。

「――イッチ!」

 鬼の攻撃にやられたのか、イッチが吹き飛ばされてくる。ちょうどおれの目の前に飛ばされてくるところだったが、ジーニャが張ったバリアによって、イッチは空間を滑るようにおれの頭上へと飛ばされていき、観客席へと衝突した。

「お、おい!イッチ!」

 やばい。いくらあいつが人間離れしているったってあんなダメージ受けたら――。

「おおっ!」

 イッチは起き上がり、棍棒を高く掲げた。

「俺は大丈夫だ!デンはそのバリア女を頼む!」

 額から流れる血を腕で拭うと、こちらに向かって勢いよく飛び出し、バリアの上を駆けると赤鬼に向かって棍棒を振るった。どっちが鬼だかわかりゃしない。

「うっそ。信じられない」

 ぽつりとジーニャが呟いた。

「魔力のない人間が赤鬼と渡り合ってるなんて」

 ああ、とおれはジーニャの独り言に同意した。

「うちの使い魔も充分化け物だろ。おれも負けてらんねえよ」

 魔力を集中する。

「いや、君は負けるよ。“マネーネ・ミラジュ”」

 ボワン、と音を立てて煙が上がる。煙に乗じて攻撃を仕掛ける気かと身構えていたが、そうじゃなかった。この呪文は分身の魔法だ。煙が晴れると、ジーニャが四人に増えていた。

「オーガが負けるはずはないけど、念には念をだ。私がオーガに加勢すれば百パーセント勝てる」

「違えよ。おれがイッチに加勢して百パーセント勝つんだ」

 ふっ、と四人のジーニャの口元が綻ぶ。

「無理だよ。君は今から先ほどの四倍のダメージを受ける。本物の私を見極められるかな?」

 見た目の違いなどあるはずもない、これは本体と同じ分身を作り出す魔法だ。四人全員から同じ魔力と同じ匂いを感じる。本物の見極めは不可能に思えた。

 ――が。おれはようやく勝機を見出した。

「うおおおおおお!」

 魔力を最大限に高めた状態のまま全力で駆け出した。自分自身が砲弾にでもなったかのような気分だ。

「だから効かないって」

 一人のジーニャが放つ平手をもろに喰らう。強烈に走る痛みに耐えながら、しっぽを奴の腕に絡める。そのまま身体を回転させ、体勢を修正してから奴の眼前へと移動する。

「とどけっ!」

 尻尾の先から、細く小さな雷撃が放たれる。そのまま当ててもほとんどダメージが期待できないであろう、我ながら情けない威力の雷撃。だが、それも使いどころだ。

 雷撃は、ジーニャの耳飾りに当たった。

「イッチが言っていた。金属は電気を通しやすいってな」

 おれは自分のしっぽを片足で踏みつけながら、魔力を集中させた。

「うぉおおおおおおお!」

 おれが電力を高めると、ジーニャが短い悲鳴を上げた。他の三人も、このジーニャと同じ耳飾りをしている。そして、電気エネルギーは繋がっていく。

「おおおおおお!!」 

 電気を流し続けると、他のジーニャの耳飾りへと電気が走っていき、四人全員のジーニャがおれの電流を浴びた。


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