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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第八十六話 人間以上

 試合が終わり、係員に控室へ戻されると、ジョットがこちらへ歩み寄ってきた。広げていた翼は縮められていて、人間の腕に戻っていた。

「私の完敗だ」

 彼は口元にかすかな笑みを携えながら言った。

「あれほど早く風の魔法に対応してくるとはな。君たちの実力を甘く見積もっていたようだ。いずれ防御や回避をするだろうとは予測していたが、打ち返してくるとは思わなかった。そうさせないためのスピードとサイズで射出していたのだがな」

 最初に話した時は少しきざったらしい奴だと思っていたけど、すっかり爽やかな好青年風の台詞に少し気恥ずかしくなった。

「たまたま相性が悪かっただけだ」とデンが俺の足元から返答した。ジョットに見下ろされることを気にしてか、デンは俺の足から頭へとするする登っていった。

「最後の電撃で仕留められてなきゃ負けていたのはおれたちだ。単純な魔法の対決だったらお前の圧勝だろ」

 デンにしては素直なコメントだ。俺と同じようにジョットに対して好感を持ったのかもしれない。俺もその意見には全面的に同意だ。

「ああ。デンがいなかったらジリ貧で負けていたな」

 しかし、ジョットは譲らなかった。

「いや、属性の相性に関わらず私は敗北しただろう。最大の敗因はイッチ、君だ」

「え、俺?」

「君は、我が使い魔“ゴッドバード”の最大火力に耐えた」

 あの巨大な鳥の突進のことか。

「まともに喰らっていたら死んでいたかもな。がっちり防御を固めて正解だった」

 謙遜したわけではなく、しみじみ思ったことを述べただけのつもりだったが、ジョットは俺の顔をまじまじと眺めた。そして、ふ、と軽く吐息を漏らした。

「よく言う。あれは私が使い魔に最大限の魔力を投じて放てる技だ。生身の人間ならひとたまりもなかったはず。あの技を受け切って、その程度のダメージならば私に勝ち目はない。一体どんな鍛え方をしたのだ?」

「師匠がスパルタだったんだよ」

 俺は辛く厳しい修行の日々を思い出しかけて、ぶるぶるとかぶりを振った。

「うん?どうした」

「あ、いや、大丈夫。修行の日々が辛すぎて脳内映像の再生をやめただけ」

 思い出しくもないわ、あんな過酷な生活。身体が拒絶するほどの思い出とは……けれど、その恩恵はデカい。身体の動かし方や力の使い方も、だんだん取り戻してきたみたいだ。

 そうだ。あんなに厳しい修行をやり遂げたんだ。

 もしかしたら俺はけっこう強いのかもしれない。

 どうか、それは単なる勘違いでした思い知らされるような事態に陥らないように――。

 と祈るのは、やめておこう。祈りにもし力があるのなら、俺はもっと別の局面でありったけの祈りを捧げなくてはならない。その時のために祈りの力はギリギリまで取っておくんだ。

「――む、誰か来るな」

「ああ、この匂いは――おれたちのツレだ」

 ジョットがドアの側から離れ、デンは俺の頭からテーブルに飛び移った。

 がちゃり、とドアが開く。

「やあ。お疲れ様」

 そこに立っていたのはアティスだった。

「一回戦突破おめでとう。あと二回勝てばBブロックは勝ち抜けるよ」

 ああ、とデンが頷く。

 三人で話し合う雰囲気を感じ取ったジョットは、気を利かせて席を外してくれた。

「この後は観客席で君たちの活躍を見届けよう」

 最後まできざったらしい言い方だったけど、嬉しい言葉だった。

「次の相手……ジーニャっていったか。あいつもだいぶ厄介そうだな」

 デンの言葉に俺は無言のまま頷く。

 魔法の霧を一息で吹き飛ばした赤い魔人の使い手。あれはかなり強力な妖魔だ。それを従えているジーニャも相当な実力者であることは明白だった。

「あいつの使い魔は何なんだ?魔力は感じられなかったのに、とんでもないパワーを感じた」

「魔力が感じられない?え、でも召喚されていたってことは魔力があるんだろ?」

「説明するよ」とアティスがベンチに座った。

「あれは魔人じゃなくて鬼だよ」

「鬼?」

 耳慣れた単語に思わず前のめりになる。

「妖魔には違いないけど魔力は使わない。鬼が扱う力は妖力といって、魔力とは少し質の違う力なんだ。人間の僕たちでは扱えない力だけど、妖力には魔力で対抗できる。鬼の攻撃を防いだり相殺することはできるかもしれないけど、鬼本体には並の魔法はまず効かない。ジーニャ本人を倒すことに集中した方がいいよ」

「よし、あいつとはイッチが戦うとして、おれはあのとんがり帽子をどうにか仕留めてやる。アティス、知っていることはあれば教えくれ」

「いいよ」

「……あの、デン?ちょっと待って。え、今すごいこと言わなかった?」

「?何がだ」

「イッチが戦うって聞こえたんだけど」

「そうだ。勝てなくてもいい、足止めしていてくれ」

 いやいやいや、と俺は両手を上げた。

「待ってくれ。俺一人であんな魔人――じゃなくて、鬼を相手にしなきゃいけないのかよ。一分も持たないよ」

「言っているだけだ」

 デンはぴしゃりと言い放った。

「さっきの試合で確信した。お前は鬼とそこそこやり合えるくらいの力はある。なあ?

 同意を求められたアティスはこくりと頷く。

「うん。少なくとも人間の域は超えていると思う」

「え……そんなに?そこまで言われると、なんか自分でも引くなー……」

「まぁ、ここではそんなに珍しいことじゃないけど。化け物みたいな強い人たちが集まっているからね、ここは。それに、二人が会いたがっているマーブルって人も」

 俺とデンは同時に声を上げた。

「マーブルに会ったのか?」

「うん。さっきすれ違った。次の二回戦、もしかしたら観戦しているかもね」

 俺は思わず棍棒を握りしめた。

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