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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第八十五話 vs.怪鳥ジョット

 タイトルはド忘れした、何かの映画だ。主人公を捕らえた悪人が銃の引き金を引こうとした瞬間、主人公の仲間が悪人に向かってバケツ一杯に詰められた何かを浴びせた。それが鳥のエサだと気付いた頃にはすでに遅く、鳥の大群が悪人の視界を埋め尽くした。悪人は死にこそしなかったものの、群がる鳥たちに身体ごとついばまれているかのようなシーンは、なかなかどうして恐怖心を煽られるような光景だった。

 そして俺は今、その悪人と同じ――いや、それ以上の光景を目の当たりにしている。

 カラスよりは少し小さいくらいの、茶色の体毛が尖っている鳥。赤い嘴は鋭く、キツツキよりは木に穴を開けるのが早そうだ。相当に好戦的な性格なのか、はたまた恐怖を知らないのか、そんな鳥たちが何千何万もの群れを成して、弾丸の如く俺たちに襲いかかってくる。

「気をつけ――ま――」

 断片的にしかデンの声が聞こえない。まるで地下鉄のホームに列車が到着した時のような、風の轟音を鳥の群れが発生させていた。砂煙が舞い、ますます視界不良になる。

 デンの言わんとすることは察しがついた。この鳥の群れがジョットの使い魔だ。魔力のない俺には相手の魔力の多寡を知る術はないけど、一羽ごとの魔力はかなり微弱なものだ。だからぶつかってこられたところでほとんどダメージはないけど、こうも数が多いとじわじわと傷が広がっていく。ちりも積もればってやつだ。

 この鳥たちを召喚したジョットが鳥以下の実力とは思えないし、このまま鳥たちに任せて手をこまねいて見ているはずがない。ここはジョット本人を叩くべきだ。

 そう思った俺は棍棒を持つ手に力を込め一薙ぎすると、ジェットの立っていた方向へ突っ込んだ。しかし、いくら距離を詰めてもジョットはそこにいない。

「くそっ、どこに――」

「こっちだ!」

 そう叫んだのはジョット本人だ。鳥の大群や砂煙に覆われて細部までははっきりと見えなかったが、中空には大きな翼を広げた――鳥人間がいた。

 鳥人間、としか表現できないフォルムだ。180cmはあろうかという身長の人間の両腕が翼になっている。あれも魔法なのか?

「“マス・クレール”」

 ジェットはそう唱えると同時に大きな翼を羽ばたかせる。鳥の大群が一斉に俺とデンから離れた、その次の瞬間には強烈な衝撃波が襲った。

「――うぐっ」

 低いうめき声が漏れた。もろに喰らってしまった。何の魔法だ。

「これは風の魔法だ!」

 俺の疑問を察知したかのようにデンが声を張り上げた。

「風の塊みたいなもんをぶつけてきやがった!」

「デン、お前は平気なのか?」

「でかい魔力が来るのがわかったからな」

 デンの方を向くと、目に見えてわかるほどの強い電気を纏っていた。

「がっちりガードしたからな。効いてねえよ」

「さすがだ。伊達に雷獣を名乗ってはいない」

 ジョットは着地と同時に言い放った。

「風の魔法は雷に弱い。君との相性は最悪と言っていいが、君の魔力量ではそれほど高密度の魔力はそう長くは維持できまい」

「……見抜かれてるぞ、デン」

「言うなよ!」

「長期戦ならばこちらの方が遥かに有利だ――“トルプ”!」

 ジョットが片方の翼を掲げると、先ほどの鳥の大群が上空で大きくうねり出す。その動きはまるで大蛇だ。

「またあの鳥が来るぞ!」

 デンが言い終えるよりも早く俺はジョットに向かって行ったが、鳥の群れがジョットを覆い隠す方が早かった――いや、構うもんか!棍棒を横薙ぎして鳥を追い払うが、ジョットの姿はそこになかった。

「――上だ!」

 鳥の大群の中で、大きな影が素早く動いたのを俺は見逃さなかった。

「デン、あの魔法!さっきの風の魔法が来るタイミングと方向を教えてくれ!」

「わかった!だが待て、今度は別の魔法だ!で、でかいぞ!」

「何だ?どっから来る?」

「正面だ!」

 何万もの鳥の大群が規則正しく舞い、一羽の巨大な鳥へと形を成していく。 

「“ゴッドバード”」

 唱えられた呪文が巨鳥を飛翔させる。

「――ちくしょう、ダメだ!でかすぎる!うぉおおおお!」

 デンが雄叫びと共に魔力を高め、防御態勢を固める。

 確かにこれはかわしようがない――!

 俺は棍棒を眼前に構え、全身に力をこめた。瞬間、巨鳥に飲み込まれ、凄まじい風圧が上下左右から叩きつけてくる。本当に巨大な生物に飲み込まれたと思うほど、日常生活では考えられない異質の衝撃が全身を包む。

「――はぁっ!」

 危なかった、風が強すぎて呼吸ができていなかった。

「ぐ、く……あっ!おい、イッチ!後ろだ!」

 デンのその一言が、俺たちの勝敗を分けた。

 防御態勢を取ったものの、相応のダメージを受けたデンが、俺に言おうとしたこと。

 第二撃が来る。あの魔法だ。

「“マス・クレール”」

 俺振り返ると同時に、自然とフルスイングの構えを取っていた。後は、勘としか言いようがない。

 呪文が聞こえてから衝撃が来るまでの、数秒の間。

 たぶん、このくらい――今だ。

「強振打法・弾き返し」

 黒縄の棍棒が何かを捉えた。それは俺の目には何も見えない、ただの透明な塊のエネルギー。

 ――これは当たっている。芯だ。

 透明な塊は、自身が射出された軌道線状を真っすぐ戻っていく。時を巻き戻しているかのように。

 その衝撃は、ジョットを撃ち抜いた。ボン、と何かが暴発したような音が響いた。

「ぐはぁっ!」

 衝撃を受けたジョットが力なく地上へ舞い降りてくる。俺の足元をデンが素早く駆ける。

「大したやつだ、お前は!」

「おう、サンキュー。とどめは頼んだぜ」

「ああ!」

 デンはジョットの胴体に飛びつき、チャージした雷のエネルギーを放出した。

 倒れ込んだジョットの様子をロブ先生が伺い、俺たちの顔を見た。

「勝者・デン!」

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