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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第八十三話 わかりやすい展開

 使い魔生活が始まって一週間が経った。

 最初は人間扱いをしてもらえないような過酷な生活じゃあるまいなと警戒していたが、まったくそんなことはなく、デンと行動を共にするだけの生活が続いた。一緒に授業を受け、寝食を共にする。使い魔である俺自身には何ら負荷のかからない日々を過ごした。学校の環境も文句のつけないようがないほど快適で、校内には本屋やスポーツジム、生活用品や武具を買い揃えられる店などなんでもありだった。こんな生活を続けて大会を勝ち進めるのか心配になるほどだった。

 同じ教室で授業を受ける生徒は俺とデンの他に十四名。うち半分は人間だが、もう半分は人外だ。邪悪な貌をした青い小鬼も、過剰に色香を撒き散らす淫魔も、一旦授業が始まると真面目に先生の話を聞くから少し面白い。頭の先から踵まで白い体毛に包まれた雪男は、俺に一日一個もちをくれる。雪男の喋る言葉はわからなかったのでデンに通訳してもらうと「イッチを見ていると故郷に置いてきた犬を思い出す」そうだ。どんな犬だ。

 ちなみに、本来の使い魔であれば俺のようにぼうっと突っ立ってはいないそうで。

「デンくん。君の側に立っている妖魔は何かな?」

 授業初日。魔法専攻の初等科を担当しているというロブ先生が俺の目を見ながら質問した。

「あの。俺、妖魔に見えます?見た目、あなたと同じ人間なんですけど」

「こいつはおれの妖魔だ。ほら、首から下げてるだろ、使い魔のタグってやつがよ」

 デンはそう言うと俺のタグを指した。使い魔は専用のタグをつけておく必要があるらしい、ということはアティスから聞いていた。タグのチェーンを掴み、ロブ先生に示す。

「あぁ、確かに。では、使い魔なら今はしまっておいてください。本日の授業では使い魔は使用しませんので」

 使い魔、人間なんですけど。そこは全然スルーなんだな。

「しまいたくてもできないんだ。こいつには魔力がないから」とデンが答える。

「しまうってどういうこと?」

「普通使い魔ってのはこっちから呼び出すまで別の場所にいるんだよ。使い魔を呼び出す魔法は入学手続きの時にロードヴィって奴に教わったけど、魔力のない奴は呼び出せないんだと。他にも別の理由で使い魔を自分の側に置いとく奴もいるそうだが、そういう使い魔を常時解放型っていうんだと」

「ロードヴィ先生!?」 

 俺がへえと感心するよりも前にロブ先生が声を上げた。

「入学手続きの説明を、ロ、ロードヴィ先生が行ったってことは……先生が『ハート』の試験官だったんですか?デンくん、君、よく受かりましたねえ。彼が合格者を出すことなんて滅多にありませんよお」

「だろうな」

 デンは吐き捨てるように言った。

「おれもまさか血ヘドを吐きながら質問に答える羽目になるとは思わなかったよ。まぁ、そのおかげで魔力は上がったがな」

「ロードヴィ先生は長であるボアーラ先生に次いで高い魔力を持っていますからねえ。高い魔力の持ち主に抗おうとしているうちに魔力の引き出し方のコツを掴んだのでしょう」

「なんかよくわからんが、よく頑張ったんだなあ、デン」

「雑に褒めるなよ。とにかく話を戻すぞ。こいつは常時解放型の使い魔だ。このままここにいていいんだな?」

「えぇ、えぇ。構いませんよ。タグをつけてさえいれば、校内の施設は使用できます。あ、もちろんランクに見合ったエリアのみですが」

 というような話のやり取りから一週間。様々な座学や実技指導をデンと共に受けて、俺もクラスメイトの一員として不思議なほど馴染んだ頃、例の大会に関するお知らせがあった。

「これが対戦表だってよ」

 1階のホワイエに行くと、バカでかいスクリーンにトーナメント表の映像が投影されていた。デンの名前の横には「ジョット」と書かれている。

「聞いたことない名前だな」

「初等科は4クラスある。他のクラスの奴だろう」

 トーナメントは4ブロック。1つのブロックで4回勝ち抜いて、それぞれのブロックを勝ち抜いた選手と対戦する、か。そこで優勝した者は理事長室に呼ばれる。

「試合のルールも単純だ」

 スクリーンに表示されたことを要約するとこうだ。

 制限時間20分の間に相手を魔法で制すること。

 指定された範囲に出ると場外負けになる。

 相手を殺す、または故意に死に至らしめる行為、急所への執拗な攻撃などは反則負け。

 制限時間の間に決着がつかなかった場合は、被ダメージ量など審判団の判定で勝敗を決する。

「うん。こりゃいい。俺好みの展開になってきた」

「何がだ」

「シンプルってことだよ」

 それから俺とデンはコンビネーションを磨くべく、自由時間に組み手らしいこともやってみた。

 デンは見違えるほどの成長だ。攻撃はまだ軽いけど、雷獣たちと遜色ない速度の動きをしている。それに何より驚いたのが、雷の魔力だ。デンが得意とするのは雷のエネルギーの放出ではなく、自身に纏わせたまま攻撃力や防御力を強化することらしい。実際、雷の魔力を纏わせた時のパワーやスピードは何倍にも跳ね上がっている。欠点は、持続時間の短さだ。

「魔力のコントロールの授業があったろ。言われた通りイメージや集中力を高めることで技の精度は上がるが、今のおれの魔力量じゃ長くは保たない。調子がいい時で5分くらいだ」

「魔力……あぁ、試験の時は8だったってやつか。今はどのくらいなんだ?」

「昨日計ったら230だった」

「うお、すげえ!この数日間で20倍以上も伸ばしたのかよ」

「まだまだだ。入学手続きが終わった後、ヴァニスが教えてくれたんだが、この地域に棲んでいる雷獣の魔力は500以上だってよ」

「そうなのか。あれ?でも、そのヴァニスって試験官の魔力は完全に超えてんじゃないの」

「いや、あいつは魔力を最小限に抑えているだけだ。その気になったら試験の時の10倍以上の魔力を扱えるだろう。それに、あのアティスってガキもすごい魔力を持っている」

「ひゃあ~、すげえなあ。俺には全然わかんないけど、上には上がいるってことか」

「へっ、それを言ったらお前もだろ」

 デンがにやりとした。

「一体どんな訓練をしたんだ。おれがこれだけ魔力を使って攻撃を仕掛けているのに、お前には一度も当たらない。全部紙一重で避けやがる」

「あぁ」

 それは自分でも驚くほどの成果だった。

「昔、師匠のもとで地獄の修行をしていてな。その時の記憶が少しだけ戻ったんだ。そのせいかな、デンの動きがなんとなくわかるんだ。そして……」

 俺は傍らに置いていた棍棒を握りしめた。

「鬼が使っていたっていう使い魔専用の武器。黒縄の棍棒。こいつがあれば、修行の成果も存分に発揮できそうだ」

 培った力を思う存分に発揮できる。

 こんなワクワク感はそうは味わえないだろう。

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