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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第五十七話 成龍への道

<羅閃サイド>

 急速に全身から熱が奪われていく。

 すべての力が地面に、あるいは空に吸い取られていくようだ。

「う、ぐっ……」

 全身のコントロールを失い、地に伏した。

 覚悟はしていた。この肉体で龍気を操ることはまさに自殺行為だ。十数年に渡り鍛え抜いた強い肉体でさえ龍気の制御には甚大な負担がかかる。ましてや、あれだけの放出量だ。生命力を丸ごと持っていかれるような気の奔流にかろうじて抗うのが精一杯だ。

「ぐほっ、ごほっ!」

 吐血した。呼吸に問題はない。ということは消化器官系を損傷しているな。風圧の刃が抉った傷は見た目の割にそう深くはない。問題はこの疲弊感だ。技を撃つたびにいちいちぶっ倒れるようでは話にならん。

「大したもんだな」

 狼男が頭を振りながら近付いてくる。やはり仕留めきれなかったか。

 拳が顎に当たる直前、奴は後方へ退こうとしていた。元の身体なら間に合っていた打撃が、この短い手足では届かなかったのだ。

「今のは相当いいセンいってたが……ここまでだ。そうだろ?」

 刀の切っ先を喉元に突きつけられる。

「はーっはっはっはっ」

 男は勝ち誇った表情で高笑いをする。

「惜しかったな。もう一発当てりゃ倒しきれていたのによぉ!」

「無駄口が多いな。だから貴様は負けるんだ」

「ああ?」

「もっとも俺にとっては不本意な形だがな。だがこれも勝利だと割り切ることにするよ……力を得るためならなんだってしてやる。だから」

「何をわけのわからねえことを言ってやが――」

 刀が俺の喉笛を突き刺すよりも一瞬早く、男の全身が瞬時に凍りついた。

「俺に協力してもらうぞ。サンドラ」

 狼男の頭上から現れた賢者を睨みつける。

「やれやれ。ワシもヤキが回ったのう……まさかお前に助けられるとは」

 上半身を起こし、氷の彫像と化した狼男を見上げる。大きな舌打ちが出た。

「バハハ。不満かい」

 ヤオがにやにやしながら近付いてくる。俺の胸中を見透かしたような表情だ。

 なんでもない、とヤオから顔を背けた。

「それよりも元の身体に戻る方法を教えてくれ」

 サンドラとヤオは顔を見合わせる。サンドラは何かを逡巡するような表情だ。

「言っておくが、これ以上の“待った”はなしだ。今や俺も犬房たちと同じく城の連中から追われる立場だ。さっさと力を取り戻さんとかたき討ちどころではない」

「そんなん言われんでもわかっとるわ。ほれ、見てみい」

 サンドラが顎を向ける方角には、大きな氷塊が宙に浮かんでいた。

 ヤオはその氷塊に向かって杖を差し出すと、映像が映し出された。

「テレビ中継……っつってもお前さんは知らんか。離れた場所で起こっている出来事を――」

「黙れ。『てれび』くらい知っている。羅漢の中にも文化に詳しい者はいるんだ」

「お前たち、静かにしな。もうじき音が出るよ」

『号外!号外だよ!』

 新聞社のタスキをかけた男が喚きながら通行人にビラを撒く。

『前代未聞の国王暗殺未遂事件!王城は五人の容疑者を指名手配にしたよ!』

「暗殺未遂?何の話だ」

「いいから見とれ。ま、おおよその見当はつくがの……」

『まずは暗殺未遂事件の発端となった国宝強盗事件の主犯格!放浪人のイッチ!その共犯である大食らいのマーブル!両名は国外へ逃亡した可能性が高く、協定国の治安維持戦闘部隊の派遣が検討されているぞ!今後の続報に期待だ!』

 ヤオがううんと唸る。

「とうとう国宝の盗難を公表したか。なりふり構っていられなくなったってことだね」

『暗殺未遂事件の容疑者はこいつらだ!屋台村の長にして四大賢者が一人、氷点のサンドラ!元賢者の大魔女ヤオ!そして羅漢族の生き残り、シバ=羅閃だ!羅漢族といえば、先日報じられた一族滅亡事件!今回の暗殺未遂事件と何らかの関連性が――』

「もういい。消してくれ」

 ヤオが杖をしまうと映像は消えた。サンドラがタバコに火をつけ、氷塊は地面に落ちた。

「これでわかったやろ。ワシとヤオの姉御もあの様や。暗殺未遂がどうとか言うとったが、全部闇の王の仕業や。マーブルちゃんの持っとる本を奪うために敵も必死や」

「なぜ虹髪の話になる」

「肝心な話はこっからや。いいか。ワシが捕まっとる間、闇の王と謁見した男がいた」

「……まさか、四天龍士の一人と言うんじゃないだろうな」

「そのまさかや。名前は知らんが、お前が血眼になって探しとる敵の一人と見て間違いないやろ。なんせ背中にでっかい“羅”の字を背負ったからなあ」

「そいつの顔は見たのか」

「一瞬や。謁見の間に入る直前の横顔が見えた。顔に赤い墨が入っとった」

「――愛羅漢か!!」

「アラカン?あれが?」

「愛羅漢ってのは羅漢の里の創設者の名前じゃないか。まだ生きているのかい?」

「里の歴史は三百年を超える。とっくに死んでいるさ。愛羅漢とは、その代で最強と認められた羅漢族に与えられる称号だ」

「最強か……合点がいったわ。あいつにはとんでもないパワーを感じた。闘神と揶揄されるのもよく分かる。人とは思えん」

「確かに人間ではないな。俺からすれば里を滅ぼした悪魔だ。今度は俺が奴らを滅ぼしてやる」

 俺の家族を、同胞を殺した報いは必ず受けさせる。必ずだ。あの四人の首を獲るまで俺の中の炎は消えることがない。

「分かった。ワシが責任を持ってお前を強くしたる。あ、姉御もその、力を貸してもらえると……」

「バハハ!びびるな、馬鹿だね。心配しなくても、私もついていってやるよ」

 どいつもこいつも超えて、強くなってやる。

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