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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第五十一話 芸術の魔法都市ルテティエ

 遠くから音楽が聴こえてくる。最初は鳥の鳴き声かと思ったけど、近付くにつれて規則性のあるメロディーだとわかった。いかにも人間が楽器で奏でそうな音楽だけど、小気味よいリズムに自然と身体が躍り出しそうになる。なんとも不思議な音楽だ。

 馬車から外の様子を窺ってみると、

「な、なんだぁ!?」

 思わずひっくり返りそうになった。視界いっぱいに広がる奇妙な建物は、様々な色が暴力的に絡み合っていた。マーブルの虹髪よりずっと複雑で、おれからすれば汚く見えるけど、人間はあんなのが好みなのだろうか。

 家に限らず建物ってのは、土に面している部分が広がっていて、空に向かっている部分は尖っているイメージだったけど、あれはまるであべこべだ。斜めに伸びている建物は捩じれているし、全身に金箔が塗られた人間の巨大な像も立っている。

 人間はあんな変な建物の中に住んでいるのか!?ちょっと考えられない。

 これが芸術の街?芸術?混沌の間違いじゃないのか。

 部屋の隅でゴロゴロしているマーブルに声をかけた。

「おい見ろよ、あれが芸術の街らしいぞ。まったく、人間の趣味はわからないな」

 そうは言っても、この女ならこれが芸術だと大はしゃぎしそうだな。

 しかし、マーブルの返答はおれの予想とは真逆だった。

「悪趣味です」

 景色を見るなり呟くと、部屋の隅に戻ってゴロゴロし始めた。いや、ゴロゴロを再開した。

 まったく、なんて覇気の無さだ。

 イッチがいなくなってから三日目。もうずっとあんな調子だ。

 マーブルの話を聞くに、どうやらイッチは神隠しとやらで消えたらしい。本人の意思とは無関係に発動する能力。その行先は本人にさえ知る由もない。

 聞いたこともない魔法だ。そもそも魔法ですらないのかもしれない。

 どこに行ったのかわからないのでは探しようもないし、いつ戻ってくるのかなんて見当がつくはずもない。唯一、おれたちが向かおうとしている場所だけは共通認識があるのだから、とにかく先を急ごうとおれは提案した。でも、マーブルの考えは違った。

「イッチさまは必ず戻ってきます」

 何の根拠があってかマーブルは力強く言い放った。それから丸二日間、馬車に停車してもらい、イッチの帰りを待ってみたものの、事態は何ら変わらなかった。

 マーブルは冷静そのものに見えたけど、日に日に気力が削がれていくようだった。変わらないのは食欲くらいだけど、メシを食べている間もマーブルは普段にも増して静かだ。

「考え込んだって仕方ない。あいつのことだ、どこに行ってもそう簡単に死にはしない。とにかくルテティエに行こう。村長が言ってた絵本のことも気になるし」

 マーブルと同じ名前の主人公が登場するという絵本。村長は見たことがあると言って、懸命に記憶を辿っているようだったけど、とうとうタイトルやストーリーは思い出せなかったらしい。

「大まかにしか覚えていませんが、とても楽しい気持ちになる絵本でしたよ」

 村長は最後にそう締めくくった。ただ、絵本のことはあくまでもついでだ。この街を目指した本来の目的は、運命の本に関する知識を得ることだ。この街の中央に位置する美術館には、運命の本のレプリカが展示されている。その展示コーナーには本の起源が記されているとかで、本のことを知るにはもっともうってつけの場所だという。

 マーブルをそこに連れていけば、嫌でも元気が出るだろうか。いや、出してもらわなきゃ困る。

 いつまでも落ち込んでいる場合じゃない。状況ははっきり言って危機的だ。羅閃もイッチもいない今、もし本を狙う輩が襲ってきたとしたら、戦えるのはおれ一人しかない。

 いつまでも出てこない電撃なんかにもう頼っていられない。いざとなったら骨が砕けるほど噛みついてやる。

 そんな決意を固めていると、馬車はルテティエの入口で停車した。

「着いたか。ほら、降りるぞマーブル。早くしないと置いていくからな」

 柄にもなく張り切って馬車から降りると、爽やかな風が吹き抜けた。目の前に広がる奇妙な街の風景に、新鮮さと言い知れぬ不安を感じた。

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