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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第二十八話 たとえ君が消え去っても

 予想外の事態に陥った時。

 特に、自分にとって都合の悪い出来事が起こった時。その人の本性がわかるらしい。

 ウソだろ、信じられないと衝撃的な現実を受け入れられない困惑。

 または、冗談じゃない、ふざけるなという憤り。

 あるいは、ショックが強すぎてなにも考えられない、思考停止状態。

 もしくは、それらすべてが入り混じった、ぐちゃぐちゃな心情。

「なんだよ、どうなってるんだ!?」

 俺の心情の一部を代弁するように、雷獣デンは吠えた。

「なんの前触れもなく突然匂いが消えたぞ。こんなの人間の消え方じゃない。まさか、これはなにかの攻撃なのか?」

「攻撃……」

 マーブルは連れて行かれたのか?誰に?

 俺の頭が動き出すよりも早く、羅閃が前に出た。

「落ち着け珍獣」

「誰が珍獣だよ!」

「不可解な事態だが周囲に敵意は感じられん。おい、虹髪がどこにいたのか教えろ」

「……」

「おい、犬房!」

「わ!」

 急に名前を呼ばれて身体を強張らせた。

「なにを呆けてやがる。虹髪がいた場所を教えろ」

「あ、ああ……」

 俺は小走りでマーブルが絵を描いていた地点に移動した。

「マーブルはここにいた。でも」

 地面に落ちているペンを見て、鉛を飲み込んだように気持ちが重くなった。

「連れて行かれたんだな」

 淡い期待が打ち砕かれた。マーブルはちょろちょろするから、そのうちひょっこり顔を出すんじゃないかと。そう思いたかった。でも、それならここにペンが落ちているわけがない。マーブルはどこに行くにも本とペンを持っている。いつでもどこでも絵を描くために。

 羅閃はしゃがみ込み、周辺を注意深く観察し始めた。

 俺も慌てて地面に目をやる。ここからあの庵まで、ほんの三分ほどの距離だ。五分足らずのうちにマーブルは消えてしまった。

 ……意味がわからない。

 まさかマーブルが神隠しの如く消えてしまうとは。

 突然消えていなくなるのは、俺の専売特許のはずなのに。

 もちろん、疑問はそれだけじゃない。どころか山積みだ。疑問をなくすためにここに来たはずなのに、かえって疑問は増えた。増やしている場合じゃないのに。

 賢者サンドラはどうして現れないのか。

 あの大量の血痕と関係があるのか。

 本当なら、そんな疑問など生じようもなかったんだ。サンドラからすべての情報を聞き出すつもりだった。

 神隠しについて知っていることとはなにか。

 羅閃の力を取り戻す方法とは。

 運命の本とはなにか。

 俺たちがそれぞれ進むべき道を示してくれるはずだった人は、今この場にいない。

 とどめはマーブルの消失。なんてこった。

「特に不審な点はない。血の一滴も落ちていない」

 そう言うと羅閃は腰を上げた。

「虹髪が連れ去られたとすれば、やはり目的は本だろう。それ以外に心当たりはあるか」

「わからない。ないと思うけど断言はできない」

「不審者を見なかったか、村の連中に聞き込みでもしてこい。有益な情報が得られるとは思えんがな」

「やっぱり妙だ」

 そう言ったのはデンだ。犬さながらに地面の匂いを嗅いでいる。

「移動した匂いがしない。ものすごいスピードで連れて行かれたとしても、こんな風に匂いが途絶えたりしない。もしかして召喚術じゃないのか?」

「召喚術?」

「俺とやり合った時に竜を見ただろう。あれも召喚術の一種だ」

 俺のオウム返しに羅閃が答える。

「その可能性は真っ先に思いついたが、考えにくい。召喚術で別の場所に飛ばされたとすれば、必ず魔力の痕跡が残るはず。しかし、調べてみたが一切の魔力が感じられん」

「それじゃあ力ずくで連れてったっていうのか?」

「召喚術の線よりは濃厚だろう。追跡防止のために気配や匂いを遮断する魔法があることは知っている。それを使用した上で超高速移動を行った可能性もある。だとしたら相当な手練れだな」

 まるで神隠しだ。さっきまでそこにいた、見知った人間が忽然と消え失せる。俺からすれば慣れてきた異常事態だが、こんなにも絶望的な気持ちを引き起こすものなのだと改めて認識した。

「マーブル……」

 思えば、あの子のちゃんとした笑顔はまだ一度も見たことがない。

 無口で無表情。口を開いたと思えば、淡々と機械的に思ったことを喋る。

 なぜか俺にだけ「さま」呼び。

 本泥棒。大メシ喰い。

 目的は新しい世界を創ること。

 謎だらけの虹髪少女。

「手練れがどうでも、関係ないって」

 自分でも知らないうちに言葉を発していた。

「必ず助ける。二人とも力を貸してくれ」

「バハハ。言うようになったね、小僧」

 聞いたことのある笑い声が背後から響いた。

 振り返ると、そこには大きな人影。

「ヤオさん!」

 思わず大きな声が出た。

 マーブルと一緒に暮らしているという大柄な魔女。

 どうしてここに?

「安心しな。サンドラの馬鹿とは違ってマーブルは無事さ。ただ、時間はあまりない。お前たち、単刀直入に聞くよ」

「なんですか」

「マーブルのために死ぬ覚悟はあるかい?」



 吐き気を催す。ひどい揺れだ。

 こんな場所に来てまでこんな思いをするなんて最悪だ。

 しかも、隣室からはなにやら寝言が聞こえてくる。こんな状況でよく寝られるな。よっぽど能天気な奴か、はたまた大物か……。寝言の他にもなにか聞こえる。地響きみたいな……いびき?

「イッチさま……お腹すきました」

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