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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第二十七話 沈黙の間

 俺はサンドラに言われた通り、まず宿屋に戻って羅閃に声をかけた。一体何時間筋トレをしていたのか、部屋はむせ返りそうになるほどの熱気に満ちていたが、そんなところにつっこんでいる場合じゃなかった。俺はことのあらましを説明した。

「ということで、一時間後にあの花壇のところに来てほしいんだ」

「そうか。わかった」

 羅閃は意外にも素直に応じた。用があるなら自分で来いとか言いそうなのに。

「あの男には聞きたいことが山積みだ。徹底的に問い詰めてやる」

 指をパキパキと鳴らす臨戦体勢の羅閃に俺も同意した。

 ようやく得た神隠しの手がかりだ。今までの苦労はこの時のためにあったと言っていい。この機を逃すわけにはいかない。

 さて、羅閃の次はマーブルだ。

 部屋を出る前に、ベッドの置いてあった時計を見た。スマホの電源はとっくに切れているし、腕時計も持ち合わせていない俺には時間を知る術がない。このヘンピな世界でも時間の法則は現実世界と同じらしい。時計の形状は見慣れた形で、一日二十四時間だ。あの変な空の色のせいで実感しづらいけど、昼があり夜がある。

 宿屋の受付には数字の表記も確認したけど、文字は現実世界では見かけないものだ。どういうわけか、その文字の意味するところはなんとなくわかるんだけど。

 その後、俺が村中を探し回り、村の子どもたちに聞き込みをしまくり、マーブルを見つけたのはたぶん三十分ほど経ってから。村のはずれにある小さな丘の上にマーブルはいた。正確には丘の木の上だ。木登りが好きなのか?

「おーい、マーブル」

 俺がそう呼びかけると、マーブルはするすると木から降りてきた。失礼ながら猿みたいな身のこなしだ。

「あっ、お前!」

 そう言ったのはマーブルではなく、マーブルの背に乗っている小動物だ。白い毛並みに緑色の縞模様。小さくとがった耳と牙。そして人語を喋る。

 この魔物は――。

「かわいい!」

「はあ!?」

「え、めっちゃかわいい!マーブル、どこで拾ったんだ?」

「お、おいやめろ、触るな!」

「花壇から百五十歩ほど離れたところにある団子屋の付近で拾いました」

「拾いましたってなんだ!なに冷静に答えてんだ、やめさせろマーブル!」

「俺の名前はイッチ。イ・ッ・チ。はい、言ってみて」

「覚え込ませようとするな!なんなんだ、お前は!」

 やたらかわいい魔物は俺の撫で回しから逃れた。

「お前、知っているぞ!オサのヒゲを抜いた一味だろ!」

「オサのヒゲ?雷獣のヒゲなら抜いたけど」

「オレがその雷獣だ!雷獣デンだ!」

「雷獣?え、でも色が」

「オ、オレは生まれつき毛の色が違うんだよ!そんなことはどうでもいい!お前っ、あの後オレたちがどんな目に遭ったと思ってるんだ!」

 雷獣デンはなにやら憤慨しているが、今は詳しく事情を聞いている時間はない。ここから花壇まではけっこう離れている。

「とりあえず二人とも俺についてきてくれないか」

 こうして、俺とマーブルと雷獣デンは花壇跡地へ向かった。

 道中、デンの境遇については本人の口からさんざん聞かされた。俺があの巨大な落雷の直後に意識を失ってから、さらに恐ろしい出来事が起きていたらしい。

 デンのマスコット的なあいくるしさについ我を見失いそうになったが、冷静になると、どうして雷獣の残党がマーブルと行動を共にしているのか。デンからすれば、俺たち一行のせいで仲間が捕まったと恨んでもおかしくないだろうに。

「それがオサの言葉だからだよ」

 デンは苦々しい表情で答えた。

「オサは先のことを見通せるような不思議な力を持っていた。そのオサがついていけと言ったんだ、嫌でもついていくしかないだろ」

「へぇ……信頼しているんだな」

「当たり前だろ。オサも同胞たちも全員あの黒い手に捕まって、助けに行こうにもなんの手がかりもないんだ。肝心な実力だって……ま、まあお前たちよりはマシだけどな!」

「黒い手か。そんなことがあったなんて全然知らなかった」 

「私も見ていません。見てみたかったです」

「お前!」と、デンがマーブルの背中から離れ、向かい合うような形でマーブルの正面に立った。

「オレの同胞が捕まったんだぞ!そんな様子を見たかっただって!?」

「ごめんよ、デンちゃん。悪気はないんだ」

「お前に言ってるんじゃねえよ、犬っころ!しかもその呼び方はなんだ!」

 ううん、とマーブルはなにかを考え込んでいる様子だ。

 俺とデンがその表情の意図を読もうとした時、マーブルは頭の上で電球がピコンと光ったような表情になった。

「私もデンちゃんと呼びます」

「なにで悩んでいたんだっ!つーか、ちゃんはやめろ!!」

 デンのつっこみが炸裂したところで、花壇跡地が見えてきた。

「そろそろ着きそうだ」

「ったく。マーブルお前、今度おかしなことを言ってみろ。思いきり噛みついてやるからな」

「すみません。気をつけます」

 なんやかんやで一時間近く経ったのか、もともと花壇のあった場所はかなり整備されていた。

 あの根が暴れまくったせいでほとんど更地と言っても差し支えなかった場所には、平らな石が隙間なく敷き詰められていた。少し進んだ先には池があり、小さな築山や自然石があちこちに配置されている。昔、学校の研修で見学しに行ったどこかの庭園を彷彿とさせる風景だ。もう花壇の面影はまるでない。

 この土地を清める、みたいなことを言っていたけど、それは完了したのだろうか。

「ほおお」

 マーブルがフクロウのような声をだした。

「サンドラさんの仕業でしょうか。きれいなお庭ですね」

 そう言うと、マーブルが服の下から本を取り出した。いやどんな隠し場所だよ。マーブルはおもむろに石を描き始めた。

「こいつ、本当に絵を描くのが好きなんだな。木の上でもずっと景色を描いていたしよ」

 デンが呆れたように言った。

「ほんとそれ。暇さえあればって感じ」

「それでその賢者ってのはどこにいるんだよ。そんなすごい奴の匂いは感じないぞ」

 デンが鼻をひくつかせながら周囲を見回した。

 池の向こう側にある小さな庵がある。

「まだ一時間経っていないのかな。とりあえず、あの中に入ってみるか」

 俺とデンは、池を迂回して庵の中に入った。

 ……入ってしまった。

「うっ!」

 俺とデンはたぶん同時に声を上げた。 

 室内は異様に暗いせいでなにも見えない。外はこんなに明るいのに、ここには一切の光が入らないみたいだ。

 見えないけれど、この匂い。急激に嫌な予感が高まる。

「なんだこの匂い……」

「これは人間の血の匂いだぞ」

 即座にデンが答える。

「それも大量の血だ。なんだよ、賢者ってのは人間をイケニエにしているのか?」

「いや、そんなこと……」

 なんだよ、これ。どうなっているんだ。

 サンドラさんはどこに……。

「おい!」

 背後から声をかけられ驚いた。羅閃だ。

「ここにいたのか。とっくに一時間は――おい、なんだこの血の匂いは」

「やっぱり一時間経っていたんだ」

 俺は庵を出て、サンドラの名を叫んだ。

「サンドラさん!返事をしてくれ!サンドラさん!」

 しかし、呼びかけに答える者はいない。

「呼びかけても無駄だ」

 羅閃が吐き捨てるように言った。

「あの賢者はどこにもいやしない。どうも尋常でない事態が起きたらしいな」

「ま、まさかあの血、サンドラさんのじゃ」

「わからん。戦闘があった気配を感じない」

 なんだよ。一体なにが起こったんだ。わけがわからない。

 いや、落ち着け。

 俺は深呼吸を繰り返した。

「とりあえずマーブルのところに集まって状況を整理しよう」

「虹髪の女か。今どこにいるんだ」

 羅閃の問いかけに背筋が寒くなった。

「どこって、あっちの……」

 池の向こう側、マーブルがさっきまで絵を描いていたはずの地点を見やった。

 そこには誰もいない。その周辺にも。

「俺はここに来るまでに誰にも会っていない」

「お前ら!マーブルはどこにいる」

 デンが叫びながら庵から飛び出てきた。

「マーブルの匂いが消えたぞ!」

「ウソだろ、おい……」

 俺は無意識に呟いた直後、力一杯叫んだ。

「マーブル!!」

 そこには絶望的な静寂しかなかった。

次回 1月14日(木)配信予定です

2月末まで週二回の配信になりそうです

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