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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第二十二話 p2『根穿ちの鳴神』

 満身創痍だ。

 血を流しすぎた。もう腕が上がらない。

 目もはっきり開けていられないほどに消耗している。

 それは羅閃の方も同じように見えた。

 あの根はあちこちで雷獣を捕らえている。その間に根は相手のエネルギーを吸収し、相手と同じエネルギーを操るようになる。つまり雷獣の電撃はもう通用しない。俺の懸念はその点だ。

 羅閃のエネルギーも吸収されたのか?だとすると、羅閃の攻撃も無効化されるんじゃないのか?

「届けろって、お前はどうするんだよ」

 羅閃から受け取ったヒゲをポケットにしまいながら尋ねた。

「問答している暇はない。さっさと行け」

「いや――うぉっ!」

 無数の根が降り注ぐ。豪雨のような猛襲。

 ダメだ。もうハンマーを振る気力もない。

「危ない!」

 突如、巨大な綿毛?が視界を覆い尽くした。

「イッチさん、大丈夫ですか?」

 この声の主は、まさか。

「え……村長?」

「いかにも!モコモです」

 綿毛の中から村長の顔がぬっと出てきた。

「うわっ!びっくりした!」

「イッチさん、よく聞いてください!私は体毛を膨らませて切り離す魔法が使えます。この体毛はふわふわに柔らかく、大抵のダメージは吸収できます。毛布のようにくるまっていれば重傷を負うことはありません。イッチさんと、あのラセンという少年の分を用意しますから、お二人はそれで逃げてください!」

「逃げてって、村長はどうするんですか」

 村長はその問いには答えず、微笑み返すだけだった。

「イッチさん、今日は本当にすみません。私の愚行のせいで皆さんにも村の皆にも大変な迷惑をかけてしまいました。せめてこの場はお任せください。お二人は、村を離れてどこか遠くに逃げてください」

「村長、これを」

 俺は羅閃から受け取ったヒゲを村長に渡した。

「サンドラさんに渡してください。そうすれば、ここの問題は万事解決する」

「あ、あの、これは一体……」

「急いで」

 村長は躊躇いながらもその場を後にし、マーブルたちのもとへと駆け出した。

 俺はなんとか立ち上がり、辺りを見回す。

 羅閃とボス雷獣が根との攻防を繰り広げている。

 ボス雷獣は爪や牙を使って根を引き裂いているようだ。羅閃はさすがに体力の限界が近いのか、動きの速度は格段に落ちていた。今はなんとかギリギリで回避しているが、これ以上長くは保ちそうにない。

 再びハンマーの柄を握り締め、持ち上げる。

「くっ……」

 重い。さっきまでは普通に振るえたのに。

 やはり血が足りていない感じがする。

 仕方ない。ハンマーは諦めよう。

 根に捕らえられた雷獣の下に駆け寄り、根の拘束を解除しようとした。根はだいぶ固いが、なんとか両手でへし折れる強度で助かった。

 村長がマーブルたちと合流するまで、少なく見積もっても五分はかかるだろう。

 あの根の化け物相手に五分か。あの根の量とスピードを捌くのは相当きつい。しかも防戦一方で、相手には攻撃が通らない。これが相当に精神的な疲弊となる。

 悔しいけど俺はもう使い物にならない。ここはなんとか雷獣たちに頑張ってもらうしかない。

 根の拘束を解除し、一匹が自由となった。雷獣は何度か頭を左右に振ると、唸り声を上げ、ボス雷獣の下へ駆けていった。さすがに俺たちよりは元気だ。

 俺は次々と根の拘束を解除していった。その間一度も根によるダメージを受けなかったのは、村長が残していったふわふわの綿毛(体毛とは言いたくない)のおかげだ。

 五匹ほど拘束を解除したところで、ふと空を見上げた。根の数が更に増えている。空を黒く塗り潰すほどの――。

「え」

 思わず声が出た。あの空は、もしかして。

 羅閃が勢いよくこちらに転がってくる。 

「はぁ、はぁ……。おい、なにをぼさっと突っ立っていやがる」

「あれ、見えるか」

「あ?」

「空だ……空に、バカでかい雷雲が……」

 空を塗り潰していたのは根ではなかった。無数の根を覆い尽くさんばかりの黒雲が、猛獣の唸り声のような轟音と共に佇んでいた。

「とてつもないエネルギーだ」

 羅閃が呟く。

「あれだけの規模の雷が直撃すれば村ごと消滅するぞ。あの雷獣がこれほどの魔力を秘めていたとはな……いささか見くびっていたか」

 ボス雷獣は天を仰いでいた。その全身は青白く発光している。当然、それを放置するような根ではなかったが、他の雷獣たちが懸命に応戦している。

「間に合ったか」

 俺はその場に崩れ落ちそうになるのを必死に堪えた。


 一方その頃、サンドラは自身の魔力で製造した氷のボードを眺めながらマーブルに尋ねた。

「どや、マーブルちゃん。その筆の描き心地は」

「すこぶる良いです。私の頭の中の黒い雲をちゃんと描けていると思います」

 興奮気味に話すマーブルの手には、柄の黒い筆が握られていた。

「そりゃなにより」

「もうすぐ完成します」

「りょーかい。じゃあ行ってきまさぁ」

 サンドラは氷のボードに乗ると、傘でボードを軽く叩いた。

「サンドラさん、お願いします、お願いします!どうか、イッチさんたちを助けてあげてください!」

「大丈夫や。お前さんはようやった。ゆっくり休んどき。後はワシに任せえな。厄介な奴もおるしな、超特急で片付けといたる」

 賢者を乗せたボードは、猛烈な勢いで発進した。


「羅閃、大丈夫かよ。頑張れ、あともうちょっとだ」

「……はぁ、血まみれの顔面で、誰になにを言っている……」

「へへ、さすがにへばってきたな」

「嬉しそうにする意味がわからん。ちっ、元の身体ならこれしきの運動量……」

 俺は屈伸をして、ふうーと長い息を吐いた。両手で顔を拭うと、手が真っ赤になった。

「もうちょっとの辛抱だ。たぶんね」

「俄かには信じられん。あの黒雲は雷獣が呼び寄せたものではなく、空白の本に描いた絵だと言ったな。あれほどのエネルギーを本に描いただけで生み出せるというのか」

「実際に見たでしょ――っと!」

 根が襲ってくる瞬間、綿毛にくるまった。

「あの子の絵の力でお前を倒したんだ。俺一人なら武器を砕かれた時点で終わってた」

「俺は負けていない」

「わかっているよ。どんだけ負けず嫌いだ。とりあえず今はもうちょっとだけ待とうぜ。奇跡が起こるのをよ」

 ふん、と羅閃は鼻で笑った。

「奇跡を期待するようでは終わりだな」

「は、ははは……」

 思わず笑いが込み上げる。

 空から落ちてきたそれを、俺は拾い上げて羅閃に見せる。

「ほら。待ってて良かったろ」

「……氷か」

 それが合図であるかのように、天から氷の弾丸が降り注いだ。

 氷のサイズは大中小、手のひらサイズから小型自動車並みのサイズまで、まちまちだ。

 降り注ぐ氷は俺や羅閃のいる位置にはまったく届かず、根だけに狙いを絞って一斉放射している。

「ようやく賢者っぽいところが見られた」

 空中に浮かぶ虎柄の男――賢者サンドラは、根の方に傘を向けている。

 これがあいつの魔法か。氷の弾丸を発射する魔法。

 根は俺たちや雷獣への攻撃を中断し、賢者の方に全神経を集中させているようだった。しかし、その根は決して賢者の下には届かない。ガトリングガンさながらの氷の弾丸が根を削いでいく。ただ、この攻撃はいつまで続くのか。この攻撃を十数分続けても、この根が倒せるとは思えないけど。

「大した使い手だ」と、羅閃。

「根元を見ろ。砕かれた氷が地表を伝って根元を凍らせている」 

 心なしか根の動きも鈍くなってきた。数十本の根がまとまり、スパーク音と共に電撃を纏うが、賢者へ向ける前にそのエネルギーが霧散した。

 そこからは早かった。みるみるうちに根が凍りつき、完全に動きを止めた。

「終わったのか……?」

 吐いた息は白かった。辺りの空気は急速に冷えていた。

「違うな。依然邪気は去っていない。根はまだ生きている」

 羅閃が言うと、根を覆っていた氷が割れ、根は再び暴れ出した。

 あちこちの根は氷を纏ったままだ。これは、まさか。

「マジかよ。あいつ、今度は氷属性になったのか?」

「ここまでが狙いなのだろう」

 狼狽える俺とは対照的に、羅閃は冷静に語った。

「あの雲でとどめというわけか」

「バリバリバオオオオオオオオッ!!」

 ボス雷獣が一際大きく吠えた。今日一番の大声だ。

 天地がひっくり返ったかのような、凄まじい光と音が俺たちを包んだ。

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