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第五十九話 準備完了

 カイザーさんからの指示で10日分の用意をしろ~って事で、3人分+チョイで結構な量になってしまった。


 運搬用の箱を貰って、それをオルトロスに持って貰ってるから助かってるけど、あたしのおうちがあればもっと楽だったのになー。カイザーさんがお留守番なのがとても残念だ。


「じゃー、買い物も済んだし、ちょっと休憩して帰ろっか」


 既にお馴染みになりつつある何時ものカフェに移動してお茶の時間。オルちゃん達もお茶飲めたら楽しいのにな。


 カフィラを飲みつつ簡単な打ち合わせ。情報収集はハンターの嗜みってねー。


「悔やみの洞窟って私は噂しか聞いたこと無いけど、マシューやミシェルは何か知ってる?」


「あたいは前言ったとおり"何かがヤバい"くらいしか知らないな。ミシェルは?」


「私も詳しくは……。ただ、一つ言えるのは私の家に伝わる大切な物があるらしい、と」


「大切な……物?」


「はい、少し前に……うちのお祖母様が私を呼び洞窟に行くように申しつけたのです。一族に関わる大切な物があるから行くように……と」


 それを聞いたミシェルはとても困ったのだという。今までルナーサからあまり出たことが無かったというのに、フォレムまで行けと言われ、来ればなんとかなるだろうとハンター達に頼んで来てみれば目的地はまだ先で、しょうが無いのでさらに護衛を頼んでみたものの誰もそれを受託せず。


 かといって噂を聞けば聞くほどとてもじゃないが一人では行ける場所では無いと言うことがわかり、途方に暮れていたらしい。


「そんなの無理ですーっていったら良かったんじゃ無いのか?」

 

「とんでもない!家に関わる大切な事と言われたら断るわけには……いかないでしょう?」


 本当はミシェルも乗り気では無いのだろう。不安で仕方が無いと言う顔でさっきから腕につけたアクセサリーをしきりに撫でている。


「変わった腕輪をしてるね?それは……蛇さんかな?」


 パッと見た感じはただの赤いリングに見えるが、よく見ると蛇をモチーフにしたリングであることが分かる。王冠や羽根の意匠も用いられていて結構おしゃれで高そうに見える…けど、女の子がつけるには少しイカツイかな。


「よくわかりましたわね?これは家に伝わる家宝のリングなのですが、幼い頃から御守りとして持たされていましたの。最初は怖かったのだけど、今ではお気に入りのリングですのよ」


 優しげな眼差しでリングをみつめ、柔らかに撫でている。お気に入りの枕とかタオルとか……そういうのあるよね。私も小さい頃行商人から買って貰ったロップのぬいぐるみが大好きで、こっち来る時それだけは忘れずに持ってきたもんね。


「はあ、結局洞窟に関しては情報無しかあ。聞き込みしても無駄だろうしね。なんたって誰に聞いてもまともに答えてくれないっていう曰く付きの場所だし」


「ま、行ってみるしか無いんじゃね。オッガが出るかバジラが出るか……、見てみなければ分からないさ」


 うんうん、考えていてもしょうが無いよね。ここまで来たら行ってみるしか無い。行って悔やむことがあったとしてもミシェルを奥まで連れて行こう。受けた以上、最期までやりきりたい。


 ぐいっとカフィラを飲み干してお茶会の終わりを告げた。


「よっし!がんばろうね、みんな!さ、リックさんとこ帰ろうっか!」



   ◇◆◇



 聞き慣れた足音が聞こえてくる。どうやらレニー達が帰ってきたようだ。


 オルトロスがゆっくり歩いているのは徒歩組への配慮、というのは分かるが……なんだって荷物を手に持ってるんだろう?バックパックを使えば……って、そうか伝えてなかったか……。


 今教えるのはタイミングが悪いな。下手をすれば怒られてしまう。ここは折を見て説明してびっくりさせて有耶無耶にしよう。


 しかし、オルトロスも何でまた言わなかったんだろう?やはり分離が原因でデータが一部欠損してるのだろうか。なんにせよ、後日補完してやらんとな。


「カイザーさーんただいまあ!ほらほら!本だよー!」


 やはり俺は本好きと思われているな。実際心待ちにしていたからそうやって見せられるとウキウキして仕方が無いのだが、からかわれているようで少し悔しい。


「お帰りみんな。無事用意が出来たようだな。オルトロスも荷物を有難う。後は俺が預かろう」


 オルトロスから大量の食料等が入った箱を受け取りバックパックに収納する。10日分とは言ったが、随分多いな……。まあ、女の子3人の旅だからな。男とは事情が違うのだろう。


「はい、カイザーさん、本ですよ。最近書かれたばかりの新刊のようで、バステリオンまで載ってましたよ!……それの情報に関しては私達の方が詳しいくらいでしたけどね」


 ほほう、ユニークまでカバーしてるのか。正直雑魚が判別出来れば其れでいいと思っていたから僥倖だ。


「ところでさ、あたいずっと気になってたんだけど……、その図体でどうやって読書するんだ?そもそも手に持って読むなんて不可能だろうに」


「あ!あたしも!私も気になってた!ねえ、カイザーさん、一体どうやって本を読むの?」


 そ、そんな珍獣を見るような目で見られても困るのだが……。なるほど、「読む」と言う考え方だから不思議に思っているのだな。ミシェルもチラチラこちらの様子を伺っているし、さては3人でのお喋りで話題に出たんだな?


「本を読む……か。読むと言えば読むのだがお前達の読み方とは違うぞ?レニー、そこに本を置いてくれ」

 

「ここですか?」


 レニーが本を置いた場所にスキャンビームを照射する。どういう理屈かわからんが、これだけで全てのページが電子化され普通に読むのは勿論、各種検索も可能となる素敵な機能だ。本の自炊を諦め電子書籍で買い直したことがあるので人間だった頃に使えてたらなあとシミジミ思う。


「うむ、ありがとう。取り込み完了だ」


「え?今ので終わりですか?」


「正確にはまだ読んでは居ないよ。本の複製を俺の中にある本棚に収めた、っていう感じかな?そうだな、適当にページ数を言ってみてくれ。そこを読み上げよう」


 訝しげな顔で俺を見るマシューが名乗りを上げ、本を手にページ数を読み上げる。


「よし、じゃあ23ページだ」


「23ページか。ほう、こんな魔獣が居るのか。ラウベラン、大きなクマのような魔獣だな。それどころかクチバシまでついている。自己修復能力を持つ厄介な相手だがそのパーツは高く売れるため危険を顧みず狙うハンターが多い、か。ついでに等級は2級(セカンド)だな」


「……すげえ、あってる……。ほんとに取り込んじゃったのか」


「……」


 レニーが凄い顔でこちらを見つめている。一体どうしたのだろうか……。


「……そうやって複製できるのなら……、わざわざ買わなくとも良かったのでは?」


 ああ、そういう事か。借りるのと買うのとでは金額に大きすぎる差があるものな。


「俺が書店に入れるのであれば、そういう選択肢もあったのかもしれないね。本は持ち出し禁止だろう?」


「あっ……そうか……」


「それに、それが出来たとしても俺はやらないぞ。写本をする際にだって元の筆者に安くは無いお金を払っているわけだろう?それを俺が無料でやったらどうだ?もっと言えばこの技術が広まって皆が無料で複製をし始めたらどうなる?」


「ああああ……馬鹿らしくなって本を書く人が居なくなっちゃいますね……。いくら書くのが好きとは言ってもお仕事にならないのでは生活出来ませんし……」


「そういうことだね。だからお金を払うのは当たり前だし、取り込んだ情報は外部に渡してはいけないってわけだ。なので本来なら複製元となったその本も処分しなければいけないのだが、取り込んだ本は普通に読むことは出来ないし、本はレニー達が読む用に取っておけば良い」


 ともあれ、これで一般的な魔獣に関してはデータをチェックできるようになった。ただでさえ情報が少ない場所に行くのだ、少しでも有利に立ち回れるようにしないとね。

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