第五十八話 書店
カイザーさん達はリックさんと話があるとかでお買い物は私達だけ。普通女子3人ともなれば素敵なお店めぐり―となるんだろうけど、私達は冒険者。そんな甘々な空気にはならなくて…。
「ったくよー、レニーも水くせえぞ?4級昇格のお祝いでもしてやろうと思ってたのによ、3級になったって?しかもこの嬢ちゃんとパーティーまで組んだって…」
すっかり忘れてたおっちゃんの所に寄ったのがまずかった。そもそも行くのを忘れてたのがまずかったんだけど、色々報告が遅れた分たっぷり時間を取られてしまった…。
「ま、まあまあ!今度カイザーさん連れてまたゆっくりくるから!ね?今はこの…ミシェルの依頼を受ける準備の買い出し中でさ、時間が…ね?」
まだまだ離さないぞ!って感じのおっちゃんをなんとか振り切って本屋さんを目指す。
「あの店面白いな!今度じっくり見に来ようぜ!見たことないパーツも結構あったしさ!」
「ああ、マシューなら気に入ると思ってたよ。余所の狩場からも素材仕入れてるからね、色々変わったのがあるんだよ」
ジャンク屋さんについてあれこれ話しつつ移動する。マシューはオルトロスのハッチを開けてノシノシと歩いているけど、私やミシェルに併せて歩くので大変そうだ。
間もなく特徴的な看板、大きな本のデザインが目に入る。本屋さんに到着だ。
いつもは借りに来るお店だけど今日は違う。ふっふっふー買いに来たんだもんね!
「ちょっと時間があるし、休憩がてら30分くらいここで自由時間にしよっか。興味がある本があったら目星つけといてさ、儲かったら買おうよ」
「お、いいね!じゃああたいはあっちみてくる!」
「ミシェルも好きなように本見てていいからね。依頼主さんなんだからゆっくり宿で待っててくれてもいいくらいだしさ」
「いえ!私の依頼を受けてくださった方々です。こちらからも全力でお手伝いさせていただきますわ!」
ミシェルはずっとこの調子。よほど大切な事情があるんだろうけど、気力切れで倒れやしないかと心配だよ。
っと、カイザーさんご指名の本を探さないとね。地図と図鑑を欲しがっていたけど今回は図鑑だけだったねーっと。むむっ!知らない図鑑がある。
見慣れない本を手に取ってみるとかなり新しい。ここの本は貸し出しもしているから結構ヨレヨレになってるものも多いんだけど、これはピカピカだ。ちゃんとバステリオンの解説も載っている。
ただ、そこまで詳しく書かれてはいない。恐らくまともに戦ったのは私たちくらいだろう。これは今までの目撃情報を元に描かれた想像図。なので見た目はまんま大きなブレストウルフだ。
説明もちょっと違うね。あいつが吐くのは炎じゃなくてもっと直線的な光線だ。多分ほかの珍しい魔獣もこんな感じなんだろうけど、一般的な魔獣を見る限りではきちんと解説されているしこの本にしよう。
お値段は…金貨1枚と銀貨20枚ッ!す、すこしオーバーするけどこれくらいパーティの必要経費だ。
さて、ほかのみんなはどうしてるかなっと、マシューは騎兵関係の本に夢中だね。メンテナンス方法やカタログは私も興味があるし、カイザーさんもきっと好きだろうから余裕出来たら買っちゃおうかなーって、ほっといてもそのうちマシューが買うだろうしおまかせしちゃおう。
そしてミシェルはっと…。神話・伝承コーナーか。面白そうなの見てるな…どれどれ…。
「ミシェル―、いい本あった?」
「きゃっ!あら、レニーさんですか…びっくりしましたわ…」
「ごめんごめん、何見てるのかなあって」
「え?あっ、いえ、お伽噺…いえ、神話と呼ばないと叱られてしまいますわね」
ミシェルが見ていたのは騎兵文明をもたらした機神の伝承だった。とある村の巫女一族に伝えられている伝承を元に書かれたお伽噺の類なのだが、内容はよーーく覚えている。動物を従えた神様がこの世に騎兵をもたらしたーってお話。
災厄の来襲を感じた神様はそれに備えるため天に帰ってしまう。その帰り際にお供の動物たちを地に放ち、聖典をもたらして我々人間たちに「騎兵を作って備えよ」と言ったーとか、その騎兵で戦争をしちゃったから怒って出てこないーとか、最終的に悪いことをすると後で困るのは自分たちだよというお説教的な内容になっているんだよね。
これを実際に起こった史実であるという人たちと、吟遊詩人の戯言だという人たちとこれまた喧嘩してるんだけども、だから神様もあきれちゃうんだよって思うんだよね。
まあ、私は少しだけ、すこーしだけ信じてるしね。カイザーさんとかもしかして…って思ってるし。
しかし、ミシェルもこういう本好きなんだな、私と話があうかもしれないね。
「ミシェル、さっきからその本熱心に見てるけど買って帰るの?」
「そうですわね、これはまだ見たことが無い本ですし、買っちゃいましょう!」
報酬額からして思ったけど、ミシェルって結構なお金持ちさんだよね…。ルナーサの大商人の娘さんとかだったりして。
「じゃ、そろそろいこっか。借りもしないのに長居してると怒られるしね!ほらっマシュー、いくよ」
「おいおい、ちょ、ちょっともう少し…」
「依頼の報酬で買ってじっくり読んだらいいでしょ!ほらほら!カイザーさんも待ってるから!」
会計に本を出したミシェルが買うといったとき、本屋のおじちゃんがちょっとびっくりしていた。本を買う人は多くない上にこんなにかわいい女の子がぽんと金貨出すんだもん。びっくりするよね。
となれば、私がだしたらもっと……。
「おじさん、今日はこれを買って帰るよー!」
「あいよ、銀貨1枚ねー…って、持って帰っちゃダメだろ!中で読みな!」
「何言ってんの!買うっていってんの!」
「あん?買う?冗談でもそんなこと言っちゃいけねえ、大体なあ本がいくらすると…」
「……!」
なんなのこの扱いの差!あったまきたから無言でお金を置いたら金貨を摘まみ上げてかたまっちゃったよ。
「本物だからね!ちゃんとみて!」
「お、おう…た、たしかに…おい、おまえ…レニーだよな…?」
「あーもう、いいから!じゃ、またあとで来るからね!次はちゃんと起きた状態で店番しててよね!」
まったく、マシューはゲラゲラ笑ってるし、ミシェルは困ったような顔をしてるし!
…カイザーさんにはこの事内緒にするよう言い聞かせなくっちゃ…。




