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災難

1

4時限目の終業のチャイムが鳴ると、亜弓は猫のように素早く数学の教科書を机の中に仕舞い込み

鞄の中から弁当を取り出すと、後ろの香湖の席に一目散に駆け寄る。

そして亜弓は側らの空席の机の椅子を香湖の机の方に引き寄せ座った。

香湖の方は漸く教科書を仕舞い込んだ所で、

亜弓はそんな香湖の緩慢な動きを咎めながら弁当を包みから出した。

「カコ!そんなにゆっくりしてたらお昼休み終わっちゃうよ!

青春は一瞬にして終わるものなんだから!この1フレーム1フレームを大事にしなくちゃ!」

と言う亜弓を尻目に香湖はゆっくりと鞄の中から弁当を取り出す。

亜弓は香湖が弁当を包んだ風呂敷を解き弁当の蓋を開けるまで待つと

手を合わせいただきますをする。香湖も静かに手を合わせると二人は食べ始めた。

すると暫くしてから、別のクラスの百合夏と氷河が弁当を持って亜弓達の元に現れ、一緒に混じって食事をする。

亜弓は嬉しそうに蓮華の事と、道元が修行に行かなかった事を二人に話した。

「蓮華は凄く強かったんだよ。多分若御院より強いよ。ずっと二人で対戦してたけどずっと蓮華が勝ってたから」

百合夏はそれを聞くと感心したように頷くと「でもヒューゴーの同キャラ対戦って画面がすごく狭くなりそう」と云った。

香湖は頷くと「確かにそうだな」と相づちを打つ。

氷河は側らで、そういった会話を無言で聞いていたが、何処と無しか憮然としていた。

「所で」と百合夏が話題を転じるように云うと、ポケットから携帯電話を取り出し、何やら弄り始めた。

そしてある掲示板を画面に表示させると、皆に見せるように机の上に差し出しながら

「ねえ、コーコ、亜弓。このティーガーってこの前桜って子に逢ったって云ってたトコだよね?」と云った。

亜弓と香湖は覗き込むように携帯を見るとそこにはこんな事が書かれていた。


473 名前:名無しのサードプレイヤー 投稿日:2009/4/22(水) 15:13:23 ID:???


4月25日(土曜日) 午後7:00より佐賀の「百貨店ティーガー」

二階ゲームコーナー「どきどきランド」にてイベントを行います。


当店の美人サードプレイヤー「KKS」(全国16位のケン使い)に挑戦!

三連勝するともれなく人気ゲーム機「PS64」をプレゼントいたします。

参加費はお一人様300円となっております。振るってのご参加をお待ちしております。

(なお挑戦はお一人様一回限りとさせていただきます。

また商品の数には限りありませんので

当日の対戦の順番はご来店の早い順から落ち着いて

並んでお待ちくださるようお願いします)


亜弓は携帯から目を離すと、「間違いないよ、これ桜と逢った所だ」と多少びっくりした様に云った。

百合夏はやっぱりと云うと「じゃあ、このKKSという人にも逢ったの?」と興味深げに聞いた。亜弓は少し考えると首を横に振る。

「多分、居なかったよ。店員の人は大谷という人だけでその人は男の人だったから。

美人と書いてあるからには、多分KKSって人は女の人でしょ?それにしても凄い自信だね。

自分で自分を美人って書くなんてよっぽど美人なんだね。ベスト16も一見凄そうで何だか微妙だし」

と亜弓は正直な感想を述べる。百合夏も頷くと「それに3連勝すればPS64貰えるんだって。

しかも数に制限なしなんて相当自信がないと云えない事じゃない?」と可也感心している。

そんな百合夏に氷河は冷ややかに「ただ視野狭窄なだけでしょう」と一言言い放つ。

亜弓は再び掲示板に目をやると、何かに気付いたように「ん?」と呟くと、「ちょっとカコ!これは参加するしかないよ!」と大きな声で言った。

そして皆を見回すと掲示板を指差しながら「ほら、ここに、『追伸、黒いヤン使いの方は特に歓迎しております(KKSはヤンに弱いのです)』

て書いてあるよ!これは私に対する挑戦だ!」と亜弓は半ば興奮気味に云った。

百合夏は首をかしげて「うん。確かにKKSがヤンに弱いと言う事を教えるのはあんまりよくないよねお店としては。

カラーの指定に関しては全く意味がわかんないし」と考え込む。

亜弓は携帯を閉じるとユリカに返しながら「兎に角決まりだね!」と云った。

百合夏もそれを察したらしく楽しげな笑みを浮かべ亜弓に同意する。

「私も行くのに賛成。そのKKSて人も気になるけど、桜も気になるし。同じリュウ使いとして」

亜弓は頷くと香湖に向って「カコも来るでしょ?桜には借りを返さないといけないよね?」と愉快そうに云った。

もちろんスパ2Xのことである。香湖は不機嫌そうに眉根を寄せると渋々と言うように頷いたが、「桜が来るとは限らないが」と当然の疑問を呈する。

亜弓は得意げに頷くと「心配要らないよ!ちゃんと携帯番号聞いてるから!今夜辺りかけてみるよ」と元気に云うと、氷河に向って

「氷河も勿論来るよね?」と聞いたが、氷河は無言で首を横に振る。

「どうして?何か用事があるの?」と亜弓がたずねると氷河は再び首を横に振る。

「だったら皆と一緒に行こうよ。そのほうが楽しいよ」と百合夏が云ったが氷河は頷かない。

「何で?」と残念そうに亜弓は聞いた。

「…今更佐賀に云った所で何も得られるものはないわ。少なくとも私にはそう思える」氷河は憮然と云った。

「…氷河近頃変だよ。最近お寺にも来ないよね。…私達が勝手に桜を斗激のメンバーに誘ったのがいけなかったの?」

亜弓は悲しげに氷河に聞くが、氷河は「そんな事はないわ…」と無機質に云うと席を立った。

そして香湖を一瞥すると、視線が合ったが氷河は視線を逸らすと

「私は用があるから先に教室に戻る。明日、良い報告がある事を期待しているわ」

と皮肉の混じった声で言うとすたすたと教室を出て行った。

亜弓は「どうしたんだろ氷河…」と氷河が出て行ったドアを見つめて呟く。

百合夏は心配げな亜弓に、「多分、一寸やきもち。桜に。氷河はあれで結構複雑な子だから」と微笑を浮かべ云った。

香湖は片肘を突いたまま無言で「そうだな。私は昔からあいつの事があんまり分からない」と複雑そうな表情で云った。

亜弓は少し暗くなった雰囲気を振り払うように元気な声で

「兎に角明日はティーガーに行くよ!そしてとりあえず3台PS64を貰おう!」と叫んだ。

その声はざわついている昼休みの教室内の喧騒のなかに消えていった。






2

那由他の目の前のテーブルには食べかけのハンバーガーがぞんざいに置いてあり、

その横には二枚のカードが投げ出されるように置かれていた。

差し向かいには刹那が座っており、こちらは既に食事は済んでおり、食後のコーヒーを啜っていた。

二人は、福岡市内にある、某ハンバーガーチェーン店に居おり、

那由他は片肘を突いたまま、ぼんやりと、テーブルの上のカードを手に取ると弄ぶ様に裏表を見廻す。

カードにはアースガルドと書かれており、那由他が凍河に大敗した折、渡された物だった。

キャッシュカードと同じサイズの磁気カードで、アースガルドの7階より上に行く為の何らかのパスになっているらしいが、

どのような目的で使用するかは分からなかった。

那由他はカードをテーブルの上に投げ出すと「あの、凍河って人強かったね」と刹那に云った。

刹那は終始無言で、何事か考え事か考えごとをするように、瞳を閉じていたが、問いかけに視線だけを那由他に向けた。

「何だよ刹那。俺が負けたのを怒ってるの?まあ、確かに80連敗もしたけど」と那由他は飄々と云った。

負けたことの気負いはあまりないのかその声はどこか楽しげな響きがあった。

刹那は冷たい視線を那由他に向けると、首を横に振る。そして冷然と

「俺が思っているのは、お前が何故幻影陣を使わなかったこと言う事だ」と呆れるように云った。

那由他は片肘を突いたまま笑みを浮かべて云う

「だってさ、使わなくても勝てると思ったんだよ。でも最後は意地になったトコがあるね」

それに対して刹那は首を横に振り「お遊びが過ぎる」とぶっきら棒に云ったが、那由他は気にする素振りもなく

「まあいくら負けても高が野試合だし如何って事ないよ、あの人のレベルも大体分かったしね」と無邪気に云った。

最早何を云っても無駄だと察した刹那は、無言で目の前のカードを手に取ると裏と表を交互に見廻すと、

「あの男(凍河)も、那由他の強さを察したのか。それで80敗敗もした相手にパスを渡した…」とひとりごちる。

那由他と刹那の目的は既に果たされていた。九州のレベルの偵察という目的は。

…侮りがたいと言うべきか…九州、と言うよりは寧ろあの男の居るアースガルド…と刹那は独り考えていると突然携帯電話が鳴った。

それにいち早く反応したのは刹那ではなく那由他であった。

那由他は途端におろおろしだして、「もしかして、晃?刹那、晃だったら俺が槍雷使った事云わないで」と結構取り乱して云った。

那由他が本気を出して闘わなかった事が晃に知られると怒られると思っているのだ。

しかし刹那は、那由他には返事をせず無言で携帯に出る。それは案の定、晃からだった。

刹那が電話で話している中、那由他は懇願する様に刹那に手を合わせて無言で、と伝えていた。

「ああ、負けた。…ああ。そうだ…悪い癖が出た」と言うと、刹那は暫く晃と話し込んでいたが、

話を中断してチラと那由他に視線を向けると、那由他は表情を曇らせ、首を横に振る。その口は云わないでと、声を出さずに云っていた。

「幻影陣を使わなかったことを黙ってくれと云っているが…ああ、分かった」

と言うと刹那は「晃からだ」と言って携帯を那由他に渡す。

那由他は口だけを動かして意地悪!と刹那に悪態をつくと恐る恐る携帯電話を受け取った。

「…もしもし…晃…?」相手の機嫌を伺うような声で那由他は話し出した。

「うん、強かったよ。槍雷じゃ手も足も出なかったよ」

電話の向こうの晃は、しょうがないなと言うような苦笑交じりの声だった。

「…俺、晃が強いって言ってたゲーセンじゃ、何処でも負けなかったんだ…何十勝でもしてたんだよ。

槍雷連撃でも勝ったんだよ。でも、アースガルドは別だった…凍河って人は…全く別だった」

晃は愉快そうに、面白かったようだね。と那由他に云うと、二三、聞きなれない名前を尋ねてくる。

那由他は少し考えると答える。

「ん。久遠て人は居なかった。デートに行ってたんだって。…泉田とかニノマエという人の名前は全く聞かなかったよ」

暫く那由他は相づちを打ちながら話していたが、頷きながらシャツの胸ポケットから徐に自分の携帯電話を取り出しながら、何やら操作をし始めた。

そして自分の携帯電話に目を向けながら「…うん…うん。あ、あった。確かにあるよ…。面白そう。行ってもいいの?」

那由他は嬉しそうにそう言うと「うん、刹那に変わるね」と言うと携帯を刹那に渡した。

刹那は電話を受け取ると再び晃と話す。

「俺も最初は下らない遠征と思っていた。

何処のゲームセンターも取るに足りないカスばかりだったからな。が、アースガルドに行って考えが変わった。

お前の言うとおり、ここで斗激の予選を受ける価値はある。

凍河という奴はフリーパスとは行かないと言ったが思い違いをしている。

俺たちは元よりそんな事の為にここまで来たわけじゃない。より強いものを求めてここに来たんだからな。

しかしお前は全てお見通しなんだな。那由他が大負けする事も、俺の考えが変わる事も…」

晃は電話の向こうで一笑に付すというように、そんな事はないよ。と云った。そうして電話は切れた。

刹那が携帯電話をジャケットの内ポケットに仕舞い、那由他の方に視線を向けると

那由他はニッコリと笑い「怒られなかった」とは子供のように云った。

刹那はそんな那由他を微苦笑交じりに見つめると「所で、お前は自分の携帯で何を見ていたんだ?」と聞いた。

那由他は携帯に映し出された掲示板を刹那に見せる。そこにはこう書かれていた。



473 名前:名無しのサードプレイヤー 投稿日:2009/4/22(水) 15:13:23 ID:???


4月25日(土曜日) 午後7:00より佐賀の「百貨店ティーガー」

二階ゲームコーナー「どきどきランド」にてイベントを行います。


当店の美人サードプレイヤー「KKS」(全国16位のケン使い)に挑戦!

三連勝するともれなく人気ゲーム機「PS64」をプレゼントいたします。

参加費はお一人様300円となっております。振るってのご参加をお待ちしております。

(なお挑戦はお一人様一回限りとさせていただきます。

また商品の数には限りありませんので

当日の対戦の順番はご来店の早い順から落ち着いて

並んでお待ちくださるようお願いします)



那由他は心底嬉しそうに「晃が掲示板でこれを見つけたんだって。

で折角九州に来てるから参加してきて良いんだって!!」と嬉嬉として云った。

それは晃が那由他を元気付ける為に教えた事だろうと刹那は思った。

そして刹那はその掲示板の内容を読みながら、今度は本当に詰まらなそうだと内心辟易した。

那由他は冷めた食べかけのハンバーガーを思いっきりほおばっていた。



続く



那由他の目の前のテーブルには食べかけのハンバーガーがぞんざいに置いてあり、

その横には二枚のカードが投げ出されるように置かれていた。

差し向かいには刹那が座っており、こちらは既に食事は済んでおり、食後のコーヒーを啜っていた。

二人は、福岡市内にある、某ハンバーガーチェーン店に居おり、

那由他は可也消沈したように片肘を突いたまま、溜息をつき、テーブルの上のカードを見つめていた。

カードにはアースガルドと書かれており、那由他が凍河に大敗した折、渡された物だった。

刹那は終始無言だったが、コーヒーを飲み終わると漸く口を開いた。

「那由他。いい加減に元気を出せ。お前はマコトを使えなかった。完敗とは云えない」

那由他は片肘を突いたまま視線だけを刹那に向けると、再び溜息をつく。

「だってさ、80連敗だよ…ユン使って…完敗だよ…晃怒るだろうな…」と力なく云ったが、

刹那は首を横に振り「あいつがその位で怒るものか」とぶっきら棒に云ったが、那由他には何の気休めにもならないらしい。

最早何を云っても無駄だと察した刹那は、無言で目の前のカードを手に取ると裏と表を交互に見廻す。

キャッシュカードと同じサイズの磁気カードで、アースガルドの7階より上に行く為の何らかのパスになっているらしいが、

どのような目的で使用するかは分からなかった。それに再びアースガルドに行く積もりもなかった。

既に那由他と刹那の目的は果たされていた。九州のレベルの偵察という目的は。

「…侮りがたいと言うべきか…九州、と言うよりは寧ろアースガルドか…」刹那がそのように独りごちて居ると突然携帯電話が鳴った。

それにいち早く反応したのは刹那ではなく那由他であった。

那由他はおろおろしながら、「もしかして、晃?刹那、晃だったら俺いないって云って」と存外取り乱して云った。

刹那はそんな直ぐに分かる嘘は云う気はなく、那由他には返事をせず無言で携帯に出ると、那由他の懸念どうり、晃からだった。

刹那が電話で話している中、那由他は懇願する様に刹那に手を合わせて無言で云わないで、と伝えていた。

「ああ、負けた。…ああ。そうだ…」と言うと、刹那は暫く晃と話し込んでいたが、話を中断してチラと那由他に視線を向けると、

那由他は表情を曇らせ、首を横に振る。「居ないと言ってくれと言っているが…ああ、分かった」

と言うと刹那は「晃からだ」と言って携帯を那由他に渡す。

那由他は口だけを動かして意地悪!と刹那に悪態をつくと恐る恐る携帯電話を受け取った。

「…もしもし…晃…?」消沈した声で那由他は話し出したが、那由他の思いとは裏腹に晃の声は優しかった。

「うん、強かったよ。俺のユンじゃ手も足も出なかった。…俺、いっぱい負けたんだ」

と云った那由他に、電話の向こうの晃は、ときに優しく、時に厳しく慰めた。

「…俺、晃が強いって言ってたゲーセンじゃ、何処でも負けなかったんだ…何十勝でもしてたんだ…

槍雷連撃でも勝ったんだよ…でも、アースガルドは別だった…凍河って人は…全く別だった」

それに対しての晃の声は優しく包容力のある響きだった。

しかし那由他は晃の言っていることがよく分からず聞き返す。

「どうして?俺勝てなかったんだよ…。俺たちのトコが弱いと思われるかも知れないよ…」

そんなことはどうでもいいんだ。と電話の向こうの晃は云った。

そして続けて、お前自信が気付く事に意味がある、自分の弱さに。それが大事だ。と那由他を励ます。

那由他の消沈した表情は見る見るうちに明るくなった。そして何を思ったか、

晃と話しながら那由他はシャツの胸ポケットから徐に自分の携帯電話を取り出しながら、何やら操作をし始めた。

そして自分の携帯電話に目を向けながら「…うん…うん。あ、あった。確かにあるよ…。面白そう。行ってもいいの?

え!…本当!?ユンじゃなくてマコトを使っていいの?」

那由他は嬉しそうにそう言うと「うん、刹那に変わるね」と言うと携帯を刹那に渡した。

刹那は電話を受け取ると再び晃と話す。

「俺も最初は下らない遠征と思っていたが、アースガルドに行って考えが変わった。

お前の言うとおり、ここで斗激の予選を受ける価値はある。

奴はフリーパスとは行かないと言ったが思い違いをしている。

俺たちは元よりそんな事の為にここまで来たわけじゃない。

しかしお前は全てお見通しなんだな。那由他が大負けする事も、俺の考えが変わる事も…」

晃は電話の向こうで一笑に付すというように、そんな事はないよ。と云った。

そうして電話は切れた。刹那が携帯電話をジャケットの内ポケットに仕舞い、那由他の方に視線を向けると

那由他はニッコリと笑い「晃がね、もうユン縛りは止めても良いって!

メインキャラを封印してダイヤ的に上のキャラクターを使っても、

強さには繋がらないことが分かったらまことを使っていいって!

俺それがいやと言うほど分かった…本当に分かったんだよ!刹那!」

那由他は子供のようにはしゃいでいる。

刹那はそんな那由他を微苦笑交じりに見つめると「所で、お前は自分の携帯で何を見ていたんだ?」と聞いた。

那由他は携帯に映し出された掲示板を刹那に見せる。そこにはこう書かれていた。



473 名前:名無しのサードプレイヤー 投稿日:2009/4/22(水) 15:13:23 ID:???


4月25日(土曜日) 午後7:00より佐賀の「百貨店ティーガー」

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当店の美人サードプレイヤー「KKS」(全国16位のケン使い)に挑戦!

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並んでお待ちくださるようお願いします)



那由他は心底嬉しそうに「晃が掲示板でこれを見つけたんだって。

で折角九州に来てるから参加してきて良いんだって!

晃は佐賀には行く必要ないって云ってたけど、行っても良いんだって!」と嬉嬉として云った。

それは晃が那由他を元気付ける為に教えた事だろうと刹那は思った。

そして刹那はその掲示板の内容を読みながら、今度は本当に詰まらなそうだと内心辟易した。

那由他は冷めた食べかけのハンバーガーを思いっきりほおばっていた。




3

アースガルドの地下、ミドガルドでは、多くの者達が、サードで対戦をしていた。

氷室凍河は、行われている対戦には全く興味のないように、一瞥しただけで通り過ぎると、エレベーターに乗る。

エレベーター内にはカードリーダーのような物があり、

凍河はそこにアースガルドと表記されたカードを通し、6階と7階行きのボタンを同時に押した。

するとエレベーターは、本来行く事のない8階、通称『ヴァルハラ』まで凍河を運んだ。

エレベーターの扉が開くと、そこは喧騒に包まれたもう一つのアースガルドが現れる。

そこには80台40対のサードの筐体が並べられた、正にサードの聖地であった。

既に数十人の『到達者』達が、サードを対戦しておりその中には数人の『称号持ち』もいた。

アースガルドの第三位『選定者』の称号を持つ凍河が来たのが分かると、

プレイしていない数人の男達が、恐縮するように次々に頭を下げた。

凍河は別にそんなに恐縮するなよと、苦笑いを浮かべ、軽く挨拶しながら奥に進んでいると、

凍河に気付いた一人の青年がニコニコと微笑みながら近づいて来て、挨拶した。

170センチ程の体躯で、穏やかな目元と、整った顔立ちの青年だった。

「今日は、凍河さん」と青年、如月は、はきはきした声で言った。

凍河は笑みを浮かべると「おお、深夜か。遠征から戻ってきてたのか。関西の方はどうだったんだい?」

如月は、大変でしたよと、満更でもない様に前置きしてから云った。

「向こうは、勝負が早いですよ。丁寧な差し合いをすっ飛ばして、

ハイリスクハイリターンな読み合いが多くて疲れました。向こうはそういう戦いに凄く長けてるから

それなのに大雑把じゃないんですよ。きっちり様子を見るところは様子を見る。今年の斗激の本戦も骨が折れそうです」

如月は難しそうにうんうんと頷く。それを凍河は感心したように頷くと

「荒らすような闘い方が多いのか?俺の苦手なタイプが多そうだな関西は」

「はは、凍河さんに苦手なタイプとかいるんですか?」と呆れるような笑み浮べ云うと

「凍河さんクラスのプレイヤーは数えるほども居ませんでしたよ」ときっぱりと言った。

「よく言うよ。お世辞はいいさ」と云って凍河は肩をすくめると、如月は口を尖らせて

「本当ですよ!凍河さんがそんなにそこいらにうじゃうじゃいられたら堪りませんよ!僕が困りますよ!」

凍河は苦笑を浮べると「もういい」と溜息混じりに云って

「俺に言わせればお前こそ、うじゃうじゃいて欲しくない。

お前にはあの神業みたいなやつがあるじゃないか、あの読み合い拒否ギリギリな気持悪いチートみたいなやつが」

如月は笑いながら酷いなあ。と言うと

「あれは手品みたいなものですよ。あんなのは実際にはあまりやりません。余程勝ちたい時だけです」

そう言って深夜は片目を瞑って不敵な笑みを凍河に向ける。

「向こうでは使ったのか?」

如月はニッコリと「取り合えず使う必要は在りませんでした」と嬉しそうに云った。

そして「それより少しお話したい事があるんですが、向こうに行きませんか?」

と言ってヴァルハラの片隅に作られている小さなカフェを指差す。

凍河の表情は厳しく豹変したが、やがて何時もの飄々とした笑みを浮かべ了解と言うように頷いた。



如月はカフェでセルフサービスのコーヒーを淹れながら「凍河さん、砂糖は何本いりますか?」と聞いた。

テーブルに着いていた凍河は「72本」と答えると、如月は返事をせずに、(実際には小さな声で「くっ」と云ったが其れは誰にもきこえなかった)

二つのカップとスティックシュガーを3本持ってきて凍河の座る丸いテーブルの上に置いた。

そしてスティックシュガーを一本だけ凍河に差し出すと残りの二つを自分のカップに入れながら徐に云った。

「聞きましたよ。この前関東から遠征者が来たんでしょう?」

「ああ」

淡白に答えると凍河は砂糖の袋を破りカップに入れた。

「何でもミドガルドで80連勝したとか」

「ああ。だから俺と桐生が選別しに下った」

「その後凍河さん、同じだけ勝ったんでしょう。その…確かおかしな名前のユン使いに」

「那由他とか云っていたな」カップを口につけながら凍河は答えた。

「そう。その那由他に。それなのに凍河さん、『鍵』を渡したんでしょう?」

「ああ」

「皆、噂していますよ。なんでそんな事したんです?相手、ここに上れるほどの力は無かったんじゃないですか?」

「…」

凍河はカップに口をつけたまま、上目づかいに如月を見た。その目は何が言いたい、と問うているようだった。

「ミドガルドの連中は、皆『ヴァルハラ』に至る為に闘っているじゃないですか。

彼らはいくら闘ってもここに至れない。其れをパッと出の余所者に『鍵』を渡せば反感が出て来るんじゃないですか?」

問うように凍河に話しかける。凍河は無言で先を促す。

「反感が悪いわけじゃないし、そういうのが強さを産むかもしれない事も分かりますが、それでも僕も反対だったな。

彼らに鍵を渡すのは。幾ら相手が凍河さんと言えども、ユンで80敗は負けすぎでしょう?

そんな奴らに鍵を渡せばこの『アースガルド』自体が低く見られるかもしれない…」

黙って聞いていた凍河は、カップをテーブルに置くと溜息をついて、ポツリと呟いた。

「…馬鹿ばかりだな。下の連中は矢張り節穴ばかりだ」

如月は驚いたように目を丸くして思わず「え?どうして?」と問い返した。

それほどに凍河の声は刺々しい程に冷たく如月の耳朶に響いたのだった。





続く

氷室凍河は『選定者』である。

選定者は己の自由裁量権によって、ミドガルドのプレイヤーを、ヴァルハラに昇格させることが出来る。

この『選定』の権利を持つものはアースガルドでは『統括者』『完全者』『選定者』の称号を持つものだけである。

選定の条件は特に決まっているわけではないが、凡そミドガルドで突出した強さを持つものを選定者が選び出し、その力を見るために闘う。

ミドガルドで100連勝、と言うのが、ミドガルドの多くのプレイヤーの一般的な共通認識といってよかったが其れは並大抵の事ではなかった。

最初の20勝や30勝は出来ても40勝、50勝と続けて行くと、やがてミドガルドの雰囲気は一転する。

他のプレイヤーが全員で、その勝利者の連勝を阻止しようとする。

それぞれの者が、自分の持ちキャラを捨てて、ユンやユリアン等の、所謂強キャラ、荒らしキャラをその勝利者にぶつけて来るようになる。

どんなに強いプレイヤーも、それら全ての強キャラを操るプレイヤー達に勝ち続けることは困難で、その連勝の多くは成就する事は無い。

仮に100勝しても、その後にヴァルハラから使わされる『選定者』に勝利、もしくはそれに類する力を示さなければならない。

これが最も困難である。その最終関門が『選定者』氷室凍河であった。




凍河は苦々しく吐き捨てるように如月に云った。

「那由他は槍雷を選んだ。まあ、最初は舐めてるだけだと思ったが

俺が何度勝ってもあいつは乱入してきた。30戦位してから俺は漸く気付いた。

あいつは俺の手の内を調べていた。自分の手の内は隠したままでな。

俺のブロッキングを入れるタイミングの癖、起き攻めの癖、あらゆる連携、立ち回り。

それら全てを欠かさず調べていた」

如月はまさかと、呟くと「でも、槍雷ヤンもそんなに弱くは無いんじゃないですか?80連敗するほどには・・」

と訝るように尋ねたが、凍河は手で制すると続けた。

「80戦の中、途中から明らかにあいつは手を抜いていた。

何度と無く勝てるチャンスがあってもそこで悉くミスした。

いやミスする振りをした」

「そんな事…」

「ありえない?そうだな。あんなに負けたら、一度くらい勝ちたいものだろう。

アースガルドは奴にとって完全に敵地のど真ん中。

その中で槍雷を選ぶクソ度胸…そして平然と負け続け、それでも引かない意思。

しかも奴は勝ちを欲さなかった。何の為に?決まっている。

俺を躍らせる為、そして、あいつの任務を果たす為、詰まり偵察」

「…」

如月は無言で甘いコーヒーを口に含み、聞いている。

「俺の力を見ると言う事は、多少はアースガルドの実力を見ることにも繋がる。

後半は俺も意地になった。そして全て見せてやった。

…鍵を渡したのは…俺がもう一度会いたいと思ったからだ。まあ来ないだろうがね」

如月は不機嫌そうに飲みかけのコーヒーを置くと、凍河に少し棘のある声で云った。

「…僕は尚更気に入りません。凍河さん相手にそんな見下したような戦いをするなんて」

凍河は滅多に怒らない程人の良い如月が、珍しく憤るのを苦笑を交え見つめると

「…そう怒るなよ深夜。あいつはそんなに悪い奴じゃなかったぜ。あいつは無邪気なんだ。

見下した舐めプレイというよりは、楽しみは後に取っておき偵察に徹するという感じだった。

これは傲慢で言うわけじゃないが、どうやら、やつのお眼鏡に適った様だ。このアースガルドはな。

恐らく、奴らはこの九州ブロックを選ぶよ。斗激の予選に」

「フリーパスにはなりませんよ」

如月はなおも怒りを露にして云った。

「勿論、あいつも分かっている筈だ。だからこそここに来るんだ」

それを聞いた如月は不思議そうに「何故です?」と尋ねた。

凍河は愉快そうに肩をすくめ「さあな。そう思っただけだ」とおどける様に云った。


続く





神妙な面持ちで、何か思いにふけっている如月に、

凍河は「そんなに気に入らないのか、深夜?俺が奴らに鍵を渡したのが?」と苦笑を浮かべ尋ねる。

如月は肯定も否定もせず「別にそんな事ありません」と云ったが

その言葉はしかしどこか納得しかねるような不満な色を帯びていた。

そんな如月に凍河は微苦笑を投げかけ、困ったように頭を掻くと「お前は『エインヘルヤル』だったよな」と聞いた。

如月は、質問が意外だったのかやや間をおいてそうです。と頷いた。

「俺もそうだ。そしてヴァルハラにいる殆どの到達者が『エインヘルヤル』だ」と真面目な顔で云った。

アースガルドは嘗て、他のゲームセンターから、強い者達を、掻き集めた。

半ば強引にトッププレイヤーや資質あるもの達を集めるアースガルドのやり方を

一部の者達は畏怖と憎悪を込めて英雄狩りと、(さげすん)んだ。

『エインヘルヤル』とは、英雄狩りによって各地のゲーセンから集められたトッププレイヤー達のことである。

アースガルドには3つのヒエラルキーが存在する。

英雄狩り以前の、初期からのアースガルドのトッププレイヤーは『エシール』と呼ばれ、アースガルドでも一種神聖視されていた。

そして英雄狩りで集められた者達を『エインヘルヤル』と呼ぶ。

彼らは他のゲームセンターから、『エシール』から選定され、より高みを目指せるアースガルドへと出向いた者達である。

最後にアースガルドの地下、ミドガルドで勝ち抜き選定された者を『アールヴ』と呼ぶ。

それらを全ておまとめてアースガルドでは『到達者』と呼んだ。

「実際にミドガルトから上がってきた奴なんて殆どいない。

詰まり凡そ100連勝して『選定者』を引き摺り下ろした『最も困難な到達者』とも云うべき『アールヴ』はね。

既にミドガルドのプレイヤーは成熟している。まあ煮詰まっていると言って良いな。

そんな中で100連勝なんて土台無理な話だ。最早アースガルドの門は閉められているも同然なんだよ。

ミドガルドの人間がアースガルドに至るというのは既に夢物語なんだ。

あそこにいる連中は延々とミドガルドをさ迷い続ける哀れな侏儒にすぎない」

そう言うと凍河の目は刺すように鋭く如月を見据え問うた。

「ミドガルドからヴァルハラに上がった『アールヴ』が何人いるか知っているか?」

如月は凍河の鋭い視線に緊張したように身を強直させると神妙に首を横に振る。

「3人だ」凍河は冷たく言い放った。

「それも最後は一年前に出たきりでもう随分と出ていない。久しぶりなんだよ。

ああいう心躍るような面白い奴が現れたのは」

凍河は鋭い視線を和らげ愉快そうに云ったが、如月の表情は浮かなかった。

凍河はしかし構わず言葉を続けた。

「そろそろ新しい血を入れても良いと思うんだがな」

と云った凍河に如月は静かだが強い声で「違うんです」と言った。

凍河は目を丸くして「何が?」と素っ頓狂に呟き如月の顔を見た。

「僕は正直に言ってミドガルドの事とか、選定の事とかはどうでもいいんです!

ただその那由他と僕とどっちが強いかって事を聞きたいんです!」

それを聞いた凍河は全てを察したように納得すると、こみ上げる笑いを我慢しきれず声をあげて噴出す。

「ククク…ハハハ。何だよ深夜!そいつに嫉妬してるのか?クク…いや失礼…」

凍河は笑いを堪えて云った。

そしてふくれっ面の如月に心底愉快そうに

「云うまでも無い。俺は那由他には負けていない」

と、迷いの無い声で言った

凍河のその言葉に如月は漸く気を取り直したのか笑顔を浮かべると「まあ、僕は凍河さんに勝てるからね」と楽しげに云うと

思い出したように「「所で、凍河さん。こんなの知っていますか?」と云いながら携帯を取り出すと何やら操作して凍河に見せた。

凍河は顎杖を付ながら、目線を携帯の画面に向けると、そこには何かの掲示板が表示されていた。

凍河は興味なさげに一瞥すると如月に向って「何て書いてあるんだ?」と読むのも面倒くさそうに聞いた。

「KKSと言うケン使いに3連勝したら、高いゲーム機が貰えるらしいです」

凍河ははなじらむ様子で肩をすくめ「知ってるよ。零に聞いた。ここからも2人偵察に行かせるらしい」

「へえ?珍しいですね。久遠さんがこんなものに興味を持たれるなんて?」

凍河は頭を振り「零じゃないよ。それに興味を持ったのは…」云った声には明らかに不愉快な響きが篭っていた。

如月は何かを察したように真顔になると「『完全者』…ですか?」

凍河は不機嫌に頷く。

「…なんでしょうね?佐賀なんかに彼女のお眼鏡に適う人が居るんですか?」

「さあな。だが掲示板にそれだけの事を書くからにはそれなりの自信があるんじゃないのか?

俺には只の視野狭窄にしか思えないんだがな」と嫌悪感をあらわにして言う。

「凍河さんは行かないんですか?」

「興味ない。それにその日は予定があるんでね」

そう言うと既に冷めているコーヒーをぐいと飲み干し、席を立ち上がる。

そしてまだテーブルに座っている如月を見下ろしながら

「すまん、俺はもう行く。少し零と話があるんでね。…零は上に居るんだろ?」と尋ねる。

如月は頷くと「でも、彼女と一緒ですよ」とやや気後れするように云った。

その言葉を聴くと、凍河は憎憎しげに小さく舌打ちをした。






楔がオセロットを訪れなくなったのはまだ僅かに5日程度であったが、

既にオセロットには嘗ての活気は失われつつあり、落日は緩やかではあるが確実に始まっていた。

店内は疎らに人が居るだけであり、奥にあるサードの対戦台にも僅かに数人が屯しているだけである。

そこから少し離れた場所に、休憩のために置かれたテーブルがあり、そこに中条と白水がなにやら難しい顔をして座っていた。

二人の間には、重ぐるしい空気が立ち込めていた。

白水が苦々しく「手前達が女に舐められるから、ここもこんなになっちまった」と中条を睨み付ける。

中条は眉をひそめ非難がましく睨み返すと「そうじゃないな。あのユン使いに大敗したのがいけなかった。

責任は下沢と上代にある」とむっついりと言う。

白水は侮蔑の笑みを中条に投げかけ「そいつを黙って帰したのは誰だ?」と嘲笑気した。

「あんただな」中条はさも責任はお前にあると言うように白水に言う。

白水はいきり立ってテーブルを拳で叩き付けると「手前!」と叫んで中条の胸座を掴んだ。

オセロットの常連達の視線が一斉に二人に集まる。

中条はおびえた様に両手を上げると「すまん、言い過ぎた」と白水をなだめるように言った。

白水は舌打ちすると掴んでいた手を中条の胸座から離した。

二人の間には再び重ぐるしい沈黙がながれ、中条はバツが悪そうに腕時計を見た。

既に時間は午後の4時を過ぎていた。中条が時計から視線を上げると、視界に緑川の姿が目に入った。

隣には見慣れぬ男を連れていた。

白水は立ち上がると緑川に「呼び出しておいて、遅かったじゃないか」と不機嫌に言った。

緑川は飄々とした態度で「悪かったね」と言った。

中条は緑川の隣の男に視線を向け「その人は?」と尋ねる。

「ああ、この人は高梨さん」

その男、高梨は、どこか人を不愉快にする様な笑みを浮かべ無言で中条を見た。

「楔君に代わって、僕達のチームに加わってくれる」緑川はそう高梨を紹介した。

白水はそれを聞くと不機嫌に表情を歪めると「そんな奴に楔の替りが勤まるのか?」と言った。

緑川は見下すように蔑んだ目を白水に向けて「楔君なんて問題にならないさ。彼は元アースガルドもプレイヤーだ」と言った。

「アースガルド?そんな奴とチームが組めるか!?お前も知っているだろうが、こいつ等が何をしてきたか?」

白水はいきり立って緑川に食いついた。緑川は呆れるように肩をすくめ「知っているよ。でも昔の話だ」と馬鹿にするように言うと

「君が反対なら僕は無理にと強制はしないよ白水君。君は君の思うものとチームを組めばいい。中条。君もだ」

話を振られた中条はやや動揺したように「い、いや、俺は反対はしない」と度盛ながら言う。

白水は怒りと興奮を無理に抑え、テーブルに座ると腕を組み、舌打ちをしたが

「…俺も、反対はしねえが…しかしそれで、ここの連中が納得するかな?」

そういうとぐるりと周りを見回す。しかし既にそこには人はおらず閑散としていた。

「…もうここはサードの聖地ではないのさ白水君。所詮ここに集まる奴らは楔に群がる仲良しクラブも同然だった。

奴が来なくなるとぱったりと来なくなる。しかし問題はないさ。そんな奴らは所詮唯の雑魚。

そして僕達が斗激で優勝すればここもまた賑やかになる。そのときこそ本当の意味でここはサードの聖地になる。

楔や上代が居ない。僕達の聖地にね」そういうと緑川は愉快そうに笑った。

「そして、先ずは軽くオセロットに塗られた泥を払いにいこうじゃないか」

そう言って緑川は持っていた携帯を白水と中条に見せる。

そこにはある掲示板が表示されていて「kksに挑戦」と言う書き込みが書かれていた。

中条と白水は黙って読んでいたがやがて白水は怒りをあらわにして言った。

「こんなふざけた事を書きやがって!三連敗したらPS64だと?どれだけ舐めてるんだこのkksて奴は?」

緑川は中条に「この場所に覚えはあるだろう?上代が女に負けた場所だ。そこで行われるイベントだ」と言う。

中条が黙ってうなずく。

「先ずはそこで僕達の力を示す。そのKKSという向こう見ずなプレイヤーを完膚なきまでに倒す。

僕達4人でね」そう言うと緑川は薄ら笑いを浮かべた。

白水は威勢良く「おもしれえ。遠慮なくPS64は俺達が貰おうぜ。人数分な」と言い指を鳴らすと

「明日が楽しみだぜ」と愉快そうに言った。










どきどきランドではアヤコは一人、カウンターの机でパソコンに向って作業日報を作成していたが、

それも終わり、立ち上がると疲れを払うように腕を伸ばし背伸びをした。

「ふう、今日は何か疲れたね。なんだか自棄に客が多かった」とアヤコは腰を拳で叩きながら一人ごちる。

既に時計の針は11時を過ぎており、閉店時間はとっくに過ぎており客は一人もいなかった。

アヤコは閉店作業の最後の閉めに、掃除をしようと店内を見廻したが、

客が飲み残した缶ジュースやごみ等が散乱しておりウンザリし、散らかしたまま帰ろうと思ったが

「古賀さんが煩いだろうね…」と苦笑交じりに呟くと、無理やり最後のやる気を振り絞って、店内の清掃を始めた。

店内は何時もよりも大分散らかっており、今日の客の多さの名残が伺われた。

アヤコは哀愁を漂わせ、床を箒で掃きながら、「ふう、24にもなってこんな夜中に、一人ゲームセンターの掃除なんて」

とぼやいていると、ふとサードの筐体が目に入った。

対戦の勝ち抜きのランキングが全て埋まっており、盛んに対戦が行われていた事を物語っている。

「…幸せと言うべきだね。あたしはこいつに出会えて、こいつの側で仕事が出来る」そう言うとアヤコはよく絞った雑巾でサードの筐体を拭いてやる。

そしてレバーをクルクルと回し、6つのボタンを押し、メンテナンスが完璧なのを確かめ、「誰が触っても期待に答えてくれそうだ」とにっこりと微笑む。

結局アヤコはその調子で6対12台の全ての筐体を丁寧に磨いて清掃し、終わった頃には既に時計は12時に迫っていた。

アヤコは汗だくで疲れて火照った体をサードの筐体に預けながら瞳を閉じていた。

「桜、キミもやってくれるだろう。サードを」アヤコは確信に満ちた声で呟いた。

「キミの兄もきっとそれを望んでいるはずだ」そう呟くと勢いよく筐体に預けた体を起した。

「さて明日も仕事だ。明日も頑張ってくれよ」と筐体を撫でるとアヤコは電源を落とす為に筐体の裏側を覗き込む。

そこには蛸足のスイッチがあり、それをオフにしようと手を伸ばしたとき、ふと光る物があるのに気が付いた。

電源を落とし、光る物に手を伸ばすと、掴んだ。

「お、500円!まあこれは残業代としてあたしが貰っても罰は当たらないよな」と言うとズボンのポケットに押し込んだ。

「まったく、あたしにも少しは運が向いてきたようだね。これは明日は何かいい事が起こりそうだね」と嬉しそうに云うと

店内の電気を切り、どきどきランドを後にした。


日高が掲示板に書いた「KKSに挑戦」は、恐ろしいほどの勢いを持って、九州中に広まっていた。

九州にあるあらゆるゲームセンターの兵達の闘争心に火を付けていた。

そして明日がその「KKSに挑戦」の日だったが、アヤコはそんな事などを知る由も無かった。

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