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12/21

始まり


1

桜の住む唐津市は佐賀県の辺境に位置していたが、

独特の文化を形成していて既に佐賀市以上に佐賀の中心といってよかった。

海に囲まれたこの土地は、新鮮な魚介類が豊富に水揚げされ、中でも烏賊が特産である。

秋には壮大なくんちがあり、それも唐津の特色の一つである。

公立北東商業高等学校は、唐津市のほぼ中央に位置しており、桜はそこに在学していた。

2年D組の教室では桜が授業中机に片肘を突き、ぼんやりと教師の話を聞いていた。

聞いてはいたが全く頭には入っていなかった。

桜はただ考え事をしていた。兄の手紙の事である。

「君がこのソフトを手に取る事があれば、願わくばアースガルドを目指すように」

兄の部屋で見つけたこの手紙は「ストリートファイターサードストライク」のソフトと共にあった。

何一つ告げず桜の前から居なくなった兄。それから3年間何の連絡も無かった。

それが二人の少女、相馬香湖と八州亜弓に出会い「サード」に逢った事を皮切りに歯車は動き出した。

それは恰も兄が仕掛けていた壮大なからくりと思わずには居られないほど運命的であった。

アースガルドとは何の事であろうか。

桜はそれを思うと居てもたっても居られなくなった。

「泉田さんなら、何か知っているかもしれない…」

ゲームセンターの店員と言っていた泉田案山子とは、最初に会ったとき以来一度も会っていなかった。

そんな最初の出会いも忘れていた頃、三日前に突然アヤコから助けて欲しいと電話があった。

そして桜はどきどきランドで二人の少女と出会った。

その一人、相馬香湖は、桜に少なからず影響を与えた。

背が高く、綺麗な長い黒髪をした美しい少女は、まっすぐに桜を見つめ「来てくれ」と言ったのだ。

「相馬…香湖」桜は物憂げに呟きながら、左手の薬指に結ばれた赤いリボンを見つめた。

桜はそれで、ずっと以前に一人の少女に出会っていたのを今更ながらに思い出した。

ニノマエサクヤとその少女は名乗った。

いつか闘いましょうとサクヤは言った。

今の桜にはそれがサードの事だと何となく分かった。

学校が終わったらどきどきランドに行こう、と桜は思った。

時計の針は10時を指し示していた。

桜は大きな欠伸を一つして、授業が終わるのを一日千秋の思いで待った。



2

どきどきランドは深閑としていた。平日の昼の2時頃とは言え、

客は一人しか居らずしかもその客は常連の日高であった。

しかも日高は物憂げにカウンターで肘を付き時折溜息をついていたおりゲームをする素振りは微塵もなかった。

そんな日高を横目にカウンターの内側では大谷が必死の形相でパソコンを弄っていた。

売り上げの計算がどうやっても合わず再三調べているのだった。

そんな大谷の後ろで椅子に座ったスミレが冷たい視線を送っていたが勿論大谷は気づく由も無く、

スミレは遂に我慢できないと言った感じで不機嫌に大谷に言った。

「おい、ガニョ野朗(大谷のこと)お前うちを如何するきね?」

必死にパソコンに何やら入力していた大谷は後ろからの冷たい声に振り返らずに答える。

「如何するって何をですか?」

「とぼけんな。まわりば見んか。客ん居らんて。うちば破産させるつもりやろ」

大谷はモニタから目を離すと伽藍とした店内を見回し

「この時間はしょうがないですよ」と平然と答えると再びモニタに集中した。

「なんがね。アヤコが店番の時はもう少し居る。アヤコんこんけん、客のこん。皆アヤコ目当てに来るけん」

その声には明らかに険があったが、大谷はパソコンに集中していてそれど頃ではなかった。

「おまえん店番の時はいっちょん客んこん。うちん居る時の客は層の違うけんうちと話すばっかりで金は使わん」

「ちょっと、それじゃあ俺が人気の無い見たいじゃないですか」

「見たいじゃなか!人気ん無かったい!お前は売り上げの計算は出来ん、機械は修理できん、掃除はせん

おまけに客は引く、よかこつんなかって。それでもうちはあんたばつことる。何でか分かるね?」

大谷は「人徳?」とやや自信なさ気に答えた。

「可愛そうかけんた!」スミレは大谷の頭を叩き全否定した。

大谷は流石にいじけながら泣き言を言う。

「同情するくらいなら首にでも何でもしてください!どうせ俺なんて案山子に比べて人気無いですよ!!」

スミレは大谷の頭を叩いた。

「そやんか下らんことばいうとるひまんあったら客ば一人でん呼ぶ努力ばせんか!

別にうちは、お前んアホとか馬鹿とか貧相かけん客の来んとは言うとらん。

皆アヤコが目当てちゅーてん、あんやつも、特別うつくしかとか言うわけじゃなかしでかかだけやし

別にあれば見たかけん客ん来るわけじゃなかろうもん。

ただ格闘ゲームんつよかけん闘いたい為に客んくるんたろうもん。

お前は糞よわかけん誰もこんちゃろう」

スミレの言う事は当を得ていた。

案山子はぎっくり腰で三日目の欠勤。

その間大谷とスミレが交代で店内の業務を勤めて居たが明らかに常連の客足は遠退いていた。

「お前は格ゲーの弱かけんお前目当てにはこん。アヤコは連絡ん付かん、こんまんまじゃ客んこん。

大体あいつも無さけんなか。案山子ん癖にたっとる事もできんて!

しかも客が来たら来たで、そこんてれんぱれんしていっちょん金ばつかわんごたる奴やし」

とスミレは怒りの矛先をアンニュイに片肘を突く日高に向けたが、

日高は心ここにあらずと言う感じでスミレの話を聞いていなかった。



3

時として、いや往々にしてと言うべきか、

ゲーセンというものは一人の店員や一人の常連に支えられている事も多い。

一人の店員が辞めたり、ある常連が来なくなったりして急激に廃れるゲームセンターは案外多いものである。

どきどきランドは、僅か3日とは言え案山子が顔を出さなかっただけで、客足がぱたりと途絶えた。

スミレは、口では案山子の事を辛辣に言っているが、内心は頼りにしていた。

その頼りにしている案山子が休んで早3日、その間の売り上げは目に見えて減少しており、

今更ながらに案山子の集客力と客の移り気を嘘寒いくらいに感じた。

スミレは案山子が無断で欠勤するような性格では無いと理解していたから、

何か病むにやまれぬ事情が在るのだろうと察しそれほど煩く連絡しなかった。

しかし遂に痺れを切らし案山子に連絡をしたのだが、案山子が携帯に出る事は無かった。

その事を思い出しながらスミレは「あいつ、社会を舐め取る。一般的な会社やったらとっくに首さ」

と、思わず独り言を呟いた。

首という言葉に反応したのかパソコンに向っていた大谷がスミレの方を振り向いた。

そして気持悪い笑みを浮かべて得意げに言った。

「おばちゃん!お客さんを呼ぶ良い方法を思いついた!」

大谷はスミレに馬鹿だのアホだの不人気だの言われた事は全く気にしていなかったようで、

パソコンに向い自分なりに客を一人でも呼ぶ方法を考えていただけだったようだ。

「言ってみらんね。下らん事言うたら首やんけんね」スミレは冷たくそう言ったが、

その声には何処と無く暖かな響きがあった。

「サード大会を開こう!」大谷は椅子から立ち上がると得意げに言った。

「大会?そやんかとしてん一緒だろうもん」

そういったスミレを余所に大谷は再びカウンターの方を向いて、パソコンを弄りだした。

そして何やら操作するとプリンターを起動させた。

大谷はプリントアウトされた紙を取るとどうだと言わんばかりに腕を突き出してスミレに見せた。

その紙にはこう書かれていた。


サード大会 優勝者には豪華景品あり

日時 5月某日 


スミレはそれを受け取ると気乗りしない顔で目を通す。

大谷は得意げな表情でスミレの言葉を待っている様だった。

スミレは紙をぐちゃぐちゃに丸めると、片肘を付いてぼんやりしていた日高の額に投げつけた。

紙は日高の額に命中して床に落ちた、日高はそれに気づいて紙を拾い上げた。

大谷はスミレの予想外の行動に度肝を抜かれて叫んだ。

「な、何するんですか!俺のグッダーアイデアを!」

グッダーはグッドの比較級である。

スミレは呆れるように首を横に振ると冷ややかに言った。

「5月て何ね?今4月よ!4月ん事は4月に終わるごてせにゃいかんだろ」

「そんなに速く開催しても集まりませんよ」

「大体豪華景品て何ね?誰が金ば出すと思うとるとね?」

「それは店長であるおばちゃん…」

バシン!

「厚かましか!自分の給料から引いてよかくらい言わんね!」

「そんなことしたら俺は飢え死にしますよ」

「そやんなってん誰も困らんだろうもん」

スミレは心底そう思った。そんなやり取りのなか意外なところから声が上がった。

「良いこと思いついた!」

それは黄昏の日高の上げた声だった。

二人は何事かと日高の方を向いた。



4

「なんね祐次、あんた居ったとね」とスミレは皮肉混じりに言うと

側らの大谷は「紙をぶつけておいて良くそんな事がいえますね…」と呆れながら言う。

スミレはそんな大谷の頭を叩きながら日高に「何ね、よか事て?言うてみんね」と促す。

日高はスミレに投げつけられた、くしゃくしゃの紙をカウンターに置いて言った。

「サード大会を開こう!」

スミレは隣の大谷の頭を思い切り叩いて日高に言った。

「あんたうちば舐めとるやろ?」

しかし日高は大真面目な顔で首を横に振った。

「店長は豪華商品が他人に取られるのが嫌なんでしょう?

だからさ、こうすれば良いんじゃないかな。案山子も大会に参加させる」

それを聞いたスミレの口からは不敵な笑みがこぼれた。

「案山子は強いから、多分優勝するよ。そしたら商品代は出さなくてすむし

万が一負けたら案山子の所為にして給料から差し引けば良い」

日高は可也悪辣な事を真顔で言ったが、その表情は真剣そのものである。

スミレは感心したように顎を摩りながら「なるほど、よか考えね」と大いに賛同を示し、

「大谷ん替わりにうちで働いてみんか?」と日高をスカウトした。

その口調が嫌に本気の色を帯びていたので大谷は内心あせり日高に

「日高、お前昨日の今日で良くそんな案山子を裏切るような事が出来るなあ。

お前の為に案山子は骨を折って、日野さんを助っ人に送ってくれたのに」

と咎めるような口調で言ったがそれに対する返事はスミレの拳骨だった。

「なんば偉そうに説教しよるとか。別にあんやつが助けたわけじゃなかろうもん。

自分はぎっくり腰で何もせんくせ、人まかせとか人間としては下ん方さ。

それに助かったのは日高じゃのうしておまえん方だろうもん」

日高もスミレの意見に同意するように頷くと更に続ける。

「大谷さん、別に俺は案山子を裏切るつもりはないよ。そのパソコン俺に一寸貸して」

そう言うと大兄のノートパソコンを自分前に引き寄せた。

そしてスミレに向って「店長はお客が呼べれば良いんだよね?だったらこうしたらどうだろう?」

と言ってパソコンに向うと何やら文章を打ち出した。

そして撃ち終わるとパソコンをスミレのほうに向けて「こういうのはどうですか?」と言った。

スミレと大谷は覗き込む様に画面を見るとそこにはテキストファイルでこう書かれていた。



どきどきランドの店員に挑戦!


当店のナンバーワンプレイヤー「KKS」に挑戦し

見事20連勝すれば豪華景品をプレゼント!

振るってご参加ください!

(お一人様一度の挑戦となります)


それを読んだスミレは感心するように唸ると、「冴えとるね」と言った。

大谷は「そうですか?こんなの俺も考えてましたよ」

と顔を引きつらせながら言ったがスミレは聞いていなかった。

「これを掲示板にアップしたら多分人が集まりますよ」

と日高はスミレに説明しながらブラウザを立ち上げネットに接続した。

そして九州全域のゲームセンターを網羅する掲示板を開く。

「ここは結構ゲーム好きが見る板だからここに掲示したら人は集まりますよ」

スミレは感心するように日高を見ると

「祐次、うちはお前ん事見直した。

てれんぱれん女の事ばっかり考えとった、ただんニートじゃなかね」

と失礼な褒め方をする。

別段日高は気にする素振りもなく「どんな煽り文句にします?」とスミレに聞く。

「さっきお前の書いたごたるとでよかよ」と言うと日高は頷きキーボードを叩くが暫くすると撃つのを止めて

「開催は何時にしますか?」とスミレに聞く。

スミレは戸惑うことなく「今週の土曜日」と言った。

大谷は思わず「いくらなんでも速すぎますよ!今日は水曜日で3日しか在りませんよ」と異議を挟む。

「そんな短い期間じゃ流石に人は集まらないと思うし」とスミレを説得するように言うがスミレは聞いていなかった。

スミレは日高に「20勝じゃ人はこんっちゃなかね?3勝位にせんね」と無茶な事を言った。

流石に日高もそれは不味いと感じたのか

「それじゃあ幾ら案山子でも負けるかも知れませんよ。

あのゲームで3回しか負けられないとなると厳しいと思う」とやんわりと否定する。

しかしスミレは気にする素振りも無く日高の杞憂を笑い飛ばしながら言う。

「よかさ!短か時間で人ば呼ぶ為にはこんくらいのインパクトがいるよ。

それにアヤコは何時も言いよるだろうもん。

『あたしは全国16位の何とか使い』、とか『あたしがすると強すぎて皆せんて言う』とか

こやん言寄るもんに20回も負けられるとか言うたら逆に失礼かろうもん」

「でも、負けたら商品代掛かりますよ?」

「よかさ!負けたしこアヤコん給料から引くけん。あたしの腹は痛まん!」

流石に大谷が心配げに言う。

「どれだけ人が来るか分からないんですよ!いっぱい負けたらどうするんですか!?」

その言葉にスミレは平然とこう答えた。

「一生只働き」

かくして掲示板にはこういう文章が掲載される事となった。



473 名前:名無しのサードプレイヤー 投稿日:2009/4/22(水) 15:13:23 ID:???


4月25日(土曜日) 午後7:00より佐賀の「百貨店ティーガー」

二階ゲームコーナー「どきどきランド」にてイベントを行います。


当店の美人サードプレイヤー「KKS」(全国16位のケン使い)に挑戦!

三連勝するともれなく人気ゲーム機「PS64」をプレゼントいたします。

参加費はお一人様300円となっております。振るってのご参加をお待ちしております。

(なお挑戦はお一人様一回限りとさせていただきます。

また商品の数には限りありませんので

当日の対戦の順番はご来店の早い順から落ち着いて

並んでお待ちくださるようお願いします)


追伸

黒いヤン使いの方は特に歓迎しております(KKSはヤンに弱いのです)




日高にとって重要だったのは最後の一文だけである。

大谷は不安で仕方がなかった。

こんな不特定多数のプレイヤーが見る掲示板で「3勝」というのは余りに大それた事を書いているのではないか。

サードプレイヤーの闘争心に火が付いたらどうするつもりなんだ。

大谷は案山子のことが心配で堪らなかった。

スミレの業務時間が終わり大谷に仕事を引き継いだ。

そしてその帰り際に日高と大谷に

「これは当日までアヤコには内緒やけんね。取りやめにされたらかなわんからね」と釘を刺した。

日高は当然の如く頷いた。大谷も最早頷くしかなかった。





5

スミレが帰った後、どきどきランドは静まり返った。

もはやそこには大谷と日高しか居なかった。

大谷は日高を呆れるように睨むと溜息混じりに言う。

「大変な事になったな。三連勝なんて幾らなんでも無茶すぎるだろう?

幾ら案山子でも負けるときは負けるよ」

日高も今になって少し後悔しているようで「うん…ごめん」としょんぼり言った。

「お前は只あの時の女の子を呼びたかっただけだろう?何が黒いヤンは特に歓迎します。だ」

大谷は咎めるように言うと日高は俯き黙った。

そして暫くすると「やっぱり20連勝に変えよう」と言い掲示板を開いた。

掲示板を見た日高は愕然とし肩を落とした。掲示板は激烈に、荒れていた。


474 名前:名無しのサードプレイヤー 投稿日:2009/4/22(水) 15:15:42 ID:???


>>473

何処の田舎だよw



475名前:名無しのサードプレイヤー 投稿日:2009/4/22(水) 15:16:44 ID:???

ありがたく頂戴しに行きます


などと僅か数十分で40件近くの返事が投稿してあり全て日高の書いた文章に対してであった。

中には30人連れてくると言うようなモノもあり大谷は内心ぞっそした。

最早変更などしようものならティーがーに火を付けられても可笑しくはないほど事態は逼迫していた。

大谷は冷や汗混じりに日高の顔を見て「如何するんだよ…」と粒やいた。

日高は振るえる声で「…案山子にがんばってもらうしか…」と力なく答えた。

そこにやや低い女の声が響いた

「ごめんガニョ。あたしの居ない間大変だっただろう」

大谷と日高はぎくりとして声のした方を振り向いた。

そこには背の高い革ジャン姿の案山子がやや恐縮した様に立っていた。

日高は慌ててパソコンの電源を落とした。




6

「かかかかかかかかかかかかか案山子!!」日高はかなり動揺した様子で、甚だしくどもった。

その側らで大谷はそそくさとテーブルの上に広げられた大会告知の紙をぐしゃぐしゃに丸めてズボンのポケットに入れた。

日高は大谷の耳元で案山子に聞こえないような小声で「とり合えず黙ってよう」と囁いた。

大谷は微かに頷いて了の返事を返した。

今更言ったところでどうにもならないし、スミレからも言うなと釘をさされている。

それに案山子を怒らせると以外に怖い事を知っていたからだ。

多分腕っ節では敵わないだろうな、と思い大谷は冷や汗を書きながら自分よりも背の高い案山子の顔を見あげた。

案山子は自分の居ない間にまさかそんな大それたイベントが発動している事など夢にも思っていない様で

大谷に謝るように軽く頭を下げると、頭を掻きながら

「いや、本当に面目ない。ぎっくり腰を舐めてたよ。あたしももう年だな」

と微苦笑を浮かべながら言った。

大谷は「で、もう良いのかい?」と心配そうに言うと案山子は頷く。

「本当に済まなかった。今はもうこの通り」と言って案山子はその場で思い切り跳んだ。

「でも今度から休みが長くなるなら連絡位してくれよ。おばちゃんここ2、3日カンカンだったよ」

「すまないな、心が折れかけてた時に、あの人と休みの交渉をする気力が出なかったんだ」

あの人とはスミレのことだろう。大谷は確かに例え親の葬式の時だろうが休ませてもらえない様な気がした。

「案山子にもそういうことがあるんだな。おばちゃんの扱いは慣れてると思ったけど」

「まあ、あたしも元々は繊細だからね。所で古賀さんは?」

「少し前に帰ったよ。でも案山子の気持は分かるよ。

病気の時は気弱になるものだよ、案山子も人の子という事だな」

そう言うと大谷は意を決したように一つ咳払いすると

「病気の時誰か側に付いてくれる人が必要何じゃないかな」と真面目に言ったが

案山子は大谷の言わんとする事に全く気づいていない様だった。

「ま、まあそれは兎も角、この前は大変だったよ」と大谷は話を他に逸らす。

「ああ、桜の事だな。その事は詳しく聞いてなかったから気になってたんだよ。

一寸制服に着替えてくるから話はその後に詳しく聞かせてくれ」

と言うと案山子はスタッフルームへと消えていった。

案山子が居なくなった後日高は大谷に「…如何しようか?」と不安げに言ったが

大谷は「…まあ、どうにかなるだろう」と答える。

しかし心の奥底ではどうにもならないだろうなと、大谷は絶望していた。

「KKSに挑戦」は3日後に迫っていた。


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