二十層の周回
ジャイアントアナコンダを討伐した後、私はしばらくその場に座り込み、荒い呼吸を整えていた。
ふと、視界の端に小さな表示が浮かぶ。
――継続回復 Lv.3
スキルにもレベルがあると知ったのはつい先日のことだったが、まさかもうここまで育っているとは思わなかった。試しに固有スキル【鑑定】を重ねてみる。
『継続回復――一秒ごとにHP・MPを4%回復する。ただしSPの消費量が1.7倍になる』
SPの消費量が2倍から1.7倍に減った。
――しかも回復量が2.5%から、4%に。
わずかな差のように見えて、長時間の戦闘では決して小さくない伸びだ。この調子で育て続ければ、いずれは私の生命線そのものになるかもしれない。
その時、視界の端で何かが弾ける気配がした。
振り返ると、先ほど倒したはずの水場に、また波紋が広がっている。
「……もう湧いたの?」
データ書籍によれば、このボスのリポップ間隔はわずか五分。恐ろしく短い。だが裏を返せば――これは絶好の稼ぎ場だということでもある。
牙と肉、そして僅かながらの資金。一体あたりのドロップこそ少ないが、五分に一度、確実に手に入る。この巨体をLUCに任せて何度も狩れば、まとまった額になるはずだ。
私は剣を握り直し、再び水面へと視線を戻した。
――二戦目。
鎌首をもたげて突進してくる巨躯を、今度は最初から尾へと狙いを絞る。一度倒した経験があるぶん、動きの癖はもう見えている。すれ違いざまに尾を斬り落とし、機動力を奪ったところへ、自分の腕に刃を滑らせて痛みと共に力を叩き込む。
――三戦目。四戦目。
繰り返すたびに、私の動きは洗練されていった。無駄な回避が減り、首への一撃までの手数がどんどん短くなっていく。
――五戦目、六戦目。
途中、腕の傷が増えすぎて一瞬だけ意識が揺らぐ場面もあった。それでも継続回復の恩恵で、休む間もなく体力が上向いていく。
――七戦目。八戦目。
繰り返す斬撃の中で、レベル表示がいくつも跳ね上がっていくのが見えた。52、53、55……気づけば、着実に数字を重ねている。
――九戦目。
そして、十戦目。
最後の一体の首筋に刃を突き立て、巨体が水面に沈んでいくのを見届けたところで、私はようやく剣を鞘に収めた。
「……レベル、67か」
十戦を終えて、レベルは17も上がっていた。想像していた以上の伸びに、思わず口元が緩む。ドロップした牙と肉も、マジックバッグの中でかなりの量になっている。これなら、当面の資金には困らないだろう。
濡れた地面に座り込み、しばし息を整える。湿地の水面は、何事もなかったかのように静けさを取り戻していた。
「――さて、次に行こうか」
立ち上がり、私は次の階層へと続くゲートへ足を向けた。
二十一層に足を踏み入れた瞬間、これまでとは違う匂いが鼻をかすめた。湿地の泥臭さではなく、どこか土と緑が混ざったような、乾いた匂いだ。
見渡す限りの草原は変わらないが、地面のあちこちに小さな丘や窪地が点在し、これまで以上に起伏に富んでいる。遠くには、なだらかな丘の連なりが見えた。
――今日はもう、ここまでにしよう。
データ書籍の地図を頼りに、私は中央のセーフスペースを目指して歩き出す。丘を一つ越えたところで、開けた広場のような場所に辿り着いた。ここが目的地らしい。
まず取り出したのは、これまで狩ってきた素材の数々だ。マジックバッグの中を一度すべて広げ、種類ごとに分けていく。肉、牙、皮、魔石――整理しながら数えると、思っていた以上に色々な物を抱え込んでいたことに気づかされた。
次に、剣の手入れに取り掛かる。刃こぼれがないか、柄にがたつきはないかを確かめ、持参した砥石で軽く研ぐ。この五年、剣だけは絶対に裏切らない相棒だった。
近くを流れる小川を見つけ、水筒に水を汲む。透き通った水は、口に含むとひやりと冷たく、疲れた体に染み渡るようだった。
最後に、簡単な食事を作る。手持ちの肉を焼き、干した野菜を戻して汁物にする。湯気の立つ器を両手で包み込み、丘の上に座って夜空を見上げた。
星々が、これまでの階層よりも近く感じられる気がする。
――明日からは、二十一層の本格的な攻略だ。
食事を終え、私は簡易のマットに横になった。仮拠点とはいえ、セーフスペースの中は不思議と安心できる。
目を閉じると、今日一日の疲労がどっと押し寄せてきて、私はそのまま深い眠りに落ちていった。




