二十層の大蛇
夜が明け、私は二十層へと足を踏み入れた。
これまでの草原とは違い、この階層は湿地帯のような地形が広がっている。足元はぬかるみ、あちこちに大きな水たまりが点在していた。
その水面が、不自然に波打った。
――来る。
水しぶきを上げて姿を現したのは、規格外の巨体を持つ大蛇――ジャイアントアナコンダだった。全長にして、優に二十メートルはあろうかという威容。とぐろを巻いたその姿だけで、あたりの空気が重くなる。
データ書籍には、こう書かれていた。弱点は首。尾を切り落とせば機動力を大きく削げる、と。
巨体が鎌首をもたげ、こちらへと突進してくる。
――まずは尾から。
突進をぎりぎりで躱しながら、私はすれ違いざまに長く伸びた尾へと剣を振るう。刃が肉を裂く感触。切断された尾がのたうち、蛇の動きが目に見えて鈍くなった。
好機だ。
自分の腕に刃を滑らせる。ズキリと痛みが走ると同時に、消費したHPと与ダメージ、消費した割合の全てが乗った一撃が、蛇の胴体に叩き込まれる。
巻きつこうとする動きを、横への移動で回避する。この個体は直進的な突進こそ速いが、旋回にはわずかな隙がある。その隙を突いて、私は幾度も刃を突き立てた。
何度目かの攻防の末、大きく開いた口の隙をついて、私は懐に潜り込んだ。
――首だ。
狙いを定め、渾身の一撃を首筋に叩き込む。
……鈍い手応えと共に、巨躯がびくんと痙攣し、そのまま動かなくなった。
同時に、視界の端でレベル表示が跳ね上がる。
「……ちょうど、50か」
きりのいい数字に、思わず小さく笑ってしまう。
「……終わった」
崩れ落ちるように膝をつきながら、私はドロップされた牙と肉に目をやる。
思っていたよりも量は少ない。データ書籍にあった通り、この魔物は運――LUCに依存したドロップ率らしい。資金を稼ぐには、何度か周回する必要がありそうだ。
それでも、二十層のボスを退けたという事実に、胸の奥が小さく熱くなる。
顔を上げれば、湿地の向こうに、次の階層へと続くゲートが見えていた。




