夜食のシチュー
十九層に踏み込むと、日はすっかり傾きかけていた。草原の色が、橙色に染まっていく。
この階層でも、これまでと変わらぬ数のモンスターたちが行く手を阻んだ。草むらの奥から飛び出すラビット、川べりから這い上がってくるスネーク、遠くの茂みから突進してくるボア。一つ一つを丁寧に、着実に片付けていく。
夕陽が完全に沈む頃、私は次の階層へのゲート前――セーフスペースに辿り着いた。
「……よし、今日はここまで」
周囲を確認し、安全を確かめてから腰を下ろす。
今夜は、少し手の込んだものを作ってみようと思っていた。マジックバッグから取り出したのは、小さな鍋と、途中で仕留めたボアの肉、野菜、そして家から持ってきた調味料の瓶。
まずは鍋に水を張り、火にかける。沸騰するのを待つ間に、肉を一口大に切り分け、野菜も適当な大きさに刻んでいく。
油を引いた鍋で肉の表面を焼き付ける。じゅわ、と脂が弾ける音と共に、香ばしい匂いが立ち上る。そこに刻んだ野菜を加え、軽く炒めてから水を注ぐ。
あとは、持参のブイヨンと調味料を溶かし入れるだけだ。
しばらく煮込んでいると、鍋の中身がとろりとした色合いに変わっていく。木べらでかき混ぜるたびに、湯気とともに濃厚な香りが辺りに広がった。
味見をひとさじ。
「……うん、いい感じ」
塩気と旨味のバランスに満足しながら、私は器にシチューをよそう。
温かい食事を口に運ぶと、冷えかけていた体の芯からじんわりと熱が広がっていくのが分かった。
空を見上げれば、草原の上には満天の星が広がっている。
こんな景色を、一人きりで眺めているのが少しだけ寂しい――そう思ってしまう自分に、私は小さく苦笑した。
器を空にした頃には、体力もすっかり回復していた。
明日は、いよいよ二十層。中層で二つ目のボスが待っている。




