束の間の食卓
ヒュージボアを討伐した後、私はしばらくその場に座り込んでいた。全身にじんわりと疲労が広がっていくのを感じながら、荒く乱れた呼吸を整える。
顔を上げると、十五層の草原は、これまでの階層よりも一段と緑が濃かった。風に揺れる草の丈は膝の高さほどで、遠くには小さな林も見える。あの木陰なら、腰を落ち着けて休めそうだ。
立ち上がり、ゆっくりと足を進める。
林に近づくにつれ、ひんやりとした空気が肌を撫でた。木々の隙間から差し込む光が、地面にまだら模様を描いている。ちょうどいい木の根元を見つけて、私はマジックバッグを下ろした。
「……お腹すいた」
取り出したのは、十一層から十三層で仕留めたボアとスネークの肉。それから、家から持ってきたパンと、小さな鍋、いくつかの調味料。
まずは火を熾す。乾いた枝を集め、着火用の魔道具で火をつける。パチパチと爆ぜる音を聞きながら、薄く切った肉を鉄板の上に並べた。
じゅう、と脂の弾ける音。香ばしい匂いが漂い始める。
焼き上がった肉をパンに挟み、簡単なサンドイッチを作る。ソースは持参の瓶詰めから少し垂らすだけだが、それでも十分だった。
残った米は、握って軽く焼き目をつける。焼きおにぎりの香ばしい匂いが、林の中に広がっていく。
――こんな贅沢、自分一人のためにする必要なんてないのかもしれない。
それでも、頑張った自分への小さなご褒美だと思えば、悪くない気がした。
サンドイッチにかぶりつく。肉の脂と香ばしさが口の中に広がって、思わず頬が緩む。
「……美味しい」
誰に聞かせるでもない呟きが、静かな林に溶けていった。
風がまた草原を撫でる。遠くで何かの鳴き声が聞こえた気がしたが、こちらに近づいてくる気配はない。
束の間の休息を終えたら、また歩き出さなければならない。
――十六層、か。
残ったおにぎりを頬張りながら、私は次の階層に思いを馳せた。




