中層初のボス
十四層に足を踏み入れると、これまで以上にゴブリンの数が増えていた。二足歩行の魔物への対処は、もう体に染みついている。気配を殺して間合いを詰め、首の付け根に短剣を突き立て、そのまま回転させて斬り落とす。声を上げる暇すら与えない。
その一連の動きを繰り返しながら、十四層を抜け、十五層へと足を踏み入れた瞬間――空気が変わった。
草原の中央に、ひときわ大きな影がある。
全長五メートルはあろうかという、規格外の巨躯を持つ猪――ヒュージボア。
中層で初めて出会う、階層のボスだった。
「……これは、今までとは勝手が違いそうですね」
独りごちながら、私は剣を構え直す。
突進してくる相手の軌道を見極め、直前で身を捌く。かわし損ねれば、確実に肋骨がいくつか折れる威力だ。
躱した勢いのまま、自分の腕に刃を滑らせる。
――ズキリ。
消費したHPと与えるダメージ、そして消費した割合。その全てが乗った一撃が、ヒュージボアの巨体に突き刺さる。
四つ足の相手には、突進に合わせたカウンターか、正面からの斬撃。基本はこれまでと変わらない。ただ、一撃一撃の重みが違った。
何度も繰り返される突進を捌き、何度も自分を傷つけながら、私は少しずつヒュージボアの体力を削っていく。
どれだけの時間が経っただろうか。ついに巨体が横倒しになり、動かなくなった。
「――やった」
膝から崩れ落ちそうになるのを堪えながら、私はドロップした素材に手を伸ばす。牙と、大きな毛皮。それから――見慣れない、小さな道具箱のような遺物。
これが何なのか、私にはまだ分からない。
試しに、固有スキル【鑑定】を使ってみる。
視界に文字が浮かび上がった。
『固有スキル【アイテムボックス】――一定容量まで、時間経過なく物を収納できるスキル』
思わず声が漏れる。
「これは……」
そのまま、興味本位で自分自身のスキルにも鑑定を使ってみることにした。まずは、唯一スキル【継続回復】。
『継続回復――一秒ごとにHP・MPを2.5%回復する。ただしSPの消費量が二倍になる』
なるほど、と頷く。今まで感覚的にしか分かっていなかった効果が、はっきりと数値で見えるようになった。
続けて、【自傷ダメージ】。
『自傷ダメージ――(与えるダメージ+消費したHP)×(1+消費した割合)。ただしHPを消費しなかった場合、与えるダメージは0となる』
――こんな計算式だったのか。
これまで感覚だけで運用してきたスキルの正体を、初めて数字として突きつけられた気分だった。
そしてもう一つ、私はこの鑑定で重要なことに気づく。
『継続回復 Lv.1』
スキルにも、レベルが存在する。
つまり――使い続ければ、このスキルたちも育っていくということだ。
まだ見ぬ可能性に胸が高鳴るのを感じながら、私は素材をマジックバッグにしまい、十五層のセーフスペースへと足を向けた。




