はじめての解体
十一層の景色に少しずつ慣れてきた頃、私は草原の奥、やや背の高い草が茂るエリアに足を踏み入れていた。
真っ先に襲いかかってきたのは、ぷるぷると震えるスライムの群れだ。核さえ潰してしまえば、あとは怖くない。突き出した剣先で核を貫き、あるいは横薙ぎに両断する。属性なんて関係ない、この程度の相手ならごく普通に片付いていく。
問題は、その先だった。
草むらの奥から突進してきたのは、体長一メートルはあろうかという猪――ボアだ。
「――っ」
真っ直ぐに向かってくる突進を見極め、私はぎりぎりまで引きつけてから体を捌く。すれ違いざま、剣を横に薙いだ。四つ足の魔物は総じて直進的だ。突進さえ見切れば、正面から斬りつけるか、その勢いに合わせてカウンターを叩き込めばいい。
仕留めたボアを前に、私はしばし考え込んだ。
このまま置いていくのは、もったいない。
データ書籍には、簡単な解体の手順も載っていた。腹を裂き、内臓を取り除き、使える部位を切り分ける――文字で読むのと実際にやるのとでは大違いだったけれど、なんとか形になった。
マジックバッグに収まった肉の塊を見て、少しだけ達成感を覚える。今夜――いや、次の食事はこれを使えるかもしれない。
その日はもう一体、川べりで蛇――スネークとも遭遇した。
まっすぐに伸びてくる噛みつきは、直進運動でしかない。横に体をずらせば、それだけで躱せる。何度か攻撃を捌いているうちに、相手が大きく口を開けた瞬間があった。
――今だ。
開いた口の中に、剣先を一突き。それだけで、蛇は動かなくなった。
これも解体して、肉を持ち帰る。手順にはもう迷いがなくなっていた。
そうして十一層から十三層まで、私は数え切れないほどのスライム、ラビット、ボア、ディア、スネーク、そしてゴブリンを相手にしてきた。どの相手も、もう恐怖を感じるほどの強さではない。
マジックバッグの中身は、少しずつ賑やかになっていく。獣の肉、牙、皮――売れば金になるものも、自分で使えるものも。
十三層のセーフスペースに辿り着いた頃には、日はすっかり傾いていた。
「……次は、十四層か」
まだ見ぬ階層に思いを馳せながら、私は荷物を整理し、束の間の休息を取った。




