自傷ダメージの果て
『存在値上昇:33.1% → 45.0%』
視界に浮かんだ数値を見て、私は息を呑んだ。
「暴走化……!?」
通常であれば、五から六パーセント程度の上昇で済むはずだった。だが今回は、その二倍以上――十一・九パーセントもの跳ね上がりを見せている。
「なんで、こんなに……」
「ギミックが発生してない! それに、この階層で討伐されてるのがエレメントとエレメンティスばっかりだったから、何かしらのアビリティが複合して発動してるのかも」
紫苑が、焦りを滲ませながら叫ぶ。理屈はどうあれ、目の前の脅威は確実に増していた。
「このままじゃ、埒が明かない」
私は唇を噛んだ。このままじわじわと削り続けても、相手の方が先に態勢を立て直してしまう。
――ここで、決める。
「鏡花、紫苑。少しだけ時間を稼いで」
「凜、何する気?」
「信じて」
私は腰のポーチから、十本のポーションを一気に取り出した。両手で抱えきれないほどの瓶を、頭上へと高く掲げる。
「――っ!」
そのまま、剣を一閃させた。十本の瓶が、同時に真っ二つに切り裂かれる。中身の液体が、滝のように私の全身へと降り注いだ。
『オーバーヒール発生――過剰回復分は一時的にHPへ加算される。ただし回復効果は一時的に無効化される』
体の内側で、何かが沸騰するような感覚が広がる。通常の限界を超えたHPが、ぐんぐんと積み上がっていくのが分かった。
「凜、それ……!」
鏡花の驚いた声が、遠くに聞こえる。
私は、迷わなかった。
積み上がった過剰なHP、そして元々の体力――その全てを、ぎりぎり残り1だけを残して、唯一スキル【自傷ダメージ】へと注ぎ込んだ。
『基礎値+249999』
『倍率349%』
『エレメントブレイカー補正×10』
消費したHPの全てが、信じられないような数値へと変換されていく。目の前が真っ白に染まるほどの力が、剣先に収束していくのを感じた。
「――っ、はああああっ!」
三体の中心に向けて、私は全力で斬撃を叩き込んだ。
閃光が弾ける。
『存在値47.8%――第三上位種へ移行確認』
見たこともない強さにまで膨れ上がっていたはずの三体の影が、その一撃を受けた瞬間、粒子となって砕け散っていった。
――静寂。
崩れ落ちるように膝をつく私を、鏡花と紫苑が慌てて駆け寄って支えてくれる。
「凜、大丈夫!? 意識ある!?」
「……うん、大丈夫」
荒い呼吸を整えながら、私は視線を上げた。
その瞬間、頭の中に、これまで聞いたことのないほど厳かな声が響き渡った。三人、全員に同時に聞こえているようだった。
「唯一種ザブィートゥイプネヴマのスコトゥスチミー、フォトススヴェータ、ハオスハーアサ、三体の討伐報酬として古代スキル【ステータス】が付与されました。これにより、現時点で最初のステータス取得者が誕生致しました――」
流れ続けるアナウンスに、私たちは言葉を失ったまま、ただ立ち尽くすことしかできなかった。




