読めてしまった警告
扉に近づくにつれ、背筋がぞわりと粟立つのを感じた。
刻まれているのは、日本語でも、これまで見てきたどの言語でもない。見たことのない文字列が、ねっとりとした赤黒い色で、扉いっぱいに描かれている。
「これ、何語?」
鏡花が怪訝そうに顔を近づける。だが私には――不思議なことに、その意味が自然と頭の中に流れ込んできた。
「……読める」
「え?」
「スキルの効果で読めるの。多分これが異世界語だから、みたいな感じで」
二人が驚いたように私を見る中、私は一文字ずつ、その意味を拾い上げていった。文体は、古めかしい。平安時代の古典のような、回りくどく、重々しい言い回しだ。
『三体を倒したる時のみ、この門は開かれる。三体を倒さずば、以後この門は開かれることなし』
声に出して読み上げると、鏡花と紫苑の顔が強張った。
「それって……」
「エレメンタリニティーのこと、だよね」
私は頷いた。
「三体同時に倒さない限り、三十三層へのゲートは、二度と開かない」
「……詰んでない、それ」
紫苑が、頭を抱えるように呟いた。
三十五層の存在値ブレイカーを取りに行くつもりだったのに、その道自体が塞がれてしまっている。保険の手段すら、使えなくなってしまったということだ。
「どうする、凜」
鏡花の問いかけに、私はしばらく考え込んだ。
選択肢は、多くない。このまま諦めて別の道を探すか――それとも。
「……やるしかない、よね」
静かに、私は踵を返した。
「回れ右。三十二層に戻って、まずはエレメンティスを全部倒しきろう」
「エレメンタリニティーは?」
「それも含めて、きちんと対策を立て直す。今のままじゃ、絶対に無理だから」
二人が、無言で頷く。
私たちは、扉に背を向けて歩き出した。
振り返ると、赤黒い文字が、まるで私たちを嘲笑うかのように、ゆらりと揺れたように見えた。




