保険としての35層
「とりあえず、配信機を起動させよう」
私の提案に、二人が頷く。荒い呼吸がまだ収まりきらないまま、私たちはその場に座り込んで荷物を広げた。
配信機――三人分、合わせて三セットのそれを並べながら、私は起動条件をもう一度確認する。
「六属性の魔石大……って言っても、魔石中を四つ集めれば大一個分になるんだっけ」
「それを四個ずつ、三人分で合計十二個。結構な量だね」
紫苑が指を折りながら数える。炎、水、風、土、光、闇――六つの属性すべてで同じ数を揃えなければならない。これが整えば、ダンジョンの外にまで放送が届くようになるという。
「よし、配信機の方は目処が立ったら本格的に稼働させるとして」
私は立ち上がり、周囲を見渡した。先ほどのエレメンタリニティーが、何事もなかったかのように再びその場に佇んでいる。
「もう一つ、保険の案があるんだけど」
鏡花が、持参していたデータ書籍のページをめくりながら口を開いた。
「三十五層に、ティミーラズルシーチェリっていう素材があるみたい」
「ティミーラ……何?」
「ティミーラズルシーチェリ。通称『存在値ブレイカー』。対象の存在値を最低でも半分にまで削れるらしいよ」
説明を聞きながら、私は小さく唸った。
「それがあれば、さっきみたいな化け物相手でも、少しは楽になりそうだね」
「でしょ? とりあえず三十五層目指して進みながら、必要な魔石も集めていこう」
方針が決まり、私たちは改めてエレメンタリニティー以外の個体――通常のエレメントと、エレメンティスの群れへと狙いを定めた。
紫苑が魔力を込めた一撃で的確にタゲを取り、鏡花が武器を巧みに使い分けて削っていく。私も自傷ダメージを交えながら、着実に数を減らしていった。
ドロップする魔石を一つずつ確認していく。
「炎、十六個」
「水、十九個」
「風、二十一個」
「土、十四個」
順調に数が増えていく中、私はふと、光属性と闇属性の魔石だけが極端に少ないことに気づいた。
「……光、三個しかない」
「闇も、同じく三個だけ」
予想外の偏りに、私たちは顔を見合わせた。
「配信機を動かすには、全属性で同じ数が必要なんだよね」
「うん。このペースじゃ、全然足りない」
溜め息をつきながら、私は腰を下ろした。これ以上この場で粘っても、光と闇の個体がそう都合よく出現してくれるとは限らない。
「予定通り、三十五層を目指そう。ティミーラズルシーチェリがあれば、少なくとも保険にはなる」
決意を新たに、私たちは三十三層へと続くゲートへと足を向けた。
けれど、そこで私は思わず足を止めた。
「……待って」
「どうしたの、凜」
視線の先、扉いっぱいに刻まれた文字が、赤黒く禍々しい色を帯びていたのだ。




