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自傷ダメージだけで常に瀕死だったけど、2つ目の固有スキルは回復。  作者: アイギス


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20/29

不穏な予兆

 翌朝、まだ空が白み始めたばかりの時間に、私は物音で目を覚ました。

「……鏡花?」

 テントの外を覗くと、鏡花がすでに調理を始めていた。

「おはよう。もうすぐできるから、待ってて」

 炊きたてのご飯、焼き鮭、だし巻き卵、ほうれん草のおひたし、具だくさんの味噌汁、納豆と海苔。温かく、どこか懐かしい朝食が食卓に並んでいく。

「いただきます」

 三人で手を合わせ、朝食を済ませる。体の芯から温まっていくような、優しい味だった。

 食事を終えると、私たちは昨日目にした光景――異常発生したエレメントの群れへと向かった。

「とにかく、数を減らさないとね」

 三人で連携しながら、ひたすらエレメントを討伐していく。紫苑のデバフ、鏡花のサポート、そして私の斬撃。この組み合わせは、もう完全に形になっていた。

 お昼になる頃、昨日のカルボナーラの残りを亜空間庫から取り出す。

「……あったかい!」

「時間が経ってないからね」

 出来立てそのままの温かさに、三人で顔を見合わせて笑った。満足のいく食事を終え、午後もひたすらエレメントを討伐し続ける。

 気づけば、十時間が経過していた。

 討伐数がおよそ百五十体に達した頃、視界の端で表示が立て続けに瞬いた。

「レベルアップ、止まらない……」

 急激な成長と共に、三人同時に新たな選択肢が表示される。

 ――第三職業を選択してください。

「私は……魔法使い、かな」

「私は薙刀使いにしよう」

「私は陰陽師でいくよ」

 それぞれが新たな職業を選択し、再び戦線へと戻る。

 百八十体を討伐しても、まだエレメントの数は一向に減らなかった。

「……これ、キリがないね」

「一旦、戻ろう」

 私たちは三十一層へと引き返し、三十二層前のセーフスペースで休息を取ることにした。

「夜ご飯、私が作るね」

 紫苑がそう言って、食材を取り出し始める。ラグー・アッラ・ボロネーゼの仕込みは前日から済ませてあったらしく、牛ひき肉と豚ひき肉、丁寧に炒められたソフリット、赤ワインでデグラッセされた鍋の中身が、トマトと共にじっくりと煮詰められていく。

 並行して、バターと薄力粉からベシャメルソースが作られていく。ダマにならないよう牛乳を少しずつ加えながら、滑らかな白いソースへと仕上がっていった。

 ラザニアシート、ベシャメル、ラグー、チーズ――層を重ねて組み上げられたラザニアが、簡易オーブンでじっくりと焼き上げられる。

 同時進行で、フランスパンの生地も発酵を進めていた。加水率の高い生地に、クープを入れて高温で焼き上げる。外はパリッと、中はもちもちとした食感のバゲットが三本、香ばしい匂いと共に焼き上がった。

 その間、私と鏡花は武器の手入れに取り掛かっていた。双剣と斧、刃こぼれがないか一本ずつ確かめ、丁寧に研いでいく。

「今日覚えたスキル、整理しておこうか」

 鏡花の提案で、私たちは各々、新しいスキルの効果を鑑定で確認し合った。第三職業で得たばかりの力は、まだどれも使いこなせていない。けれど、着実に手札は増えている。

 焼き上がったラザニアとバゲットを前に、三人で遅い夜食を囲む。とろけるチーズと濃厚なラグーの味わいに、疲れた体が癒されていくようだった。

「今夜の見張り、どうする?」

「私→紫苑→鏡花の順でどう? 二時間交代で」

 私の提案に、二人が頷いた。

 食事を終え、各々が休息の準備を始める。焚き火の番をしながら、私は暗闇に沈む三十二層の方角を見つめた。

 異常発生したエレメントの群れ。終わりの見えない討伐数。

 ――何かが、おかしい。

 理由のない不安が、胸の奥でざわりと蠢くのを感じながら、私は静かに夜の帳が下りていく様子を見つめていた。

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