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自傷ダメージだけで常に瀕死だったけど、2つ目の固有スキルは回復。  作者: アイギス


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三人での初陣

 翌朝、私たちは再び三十層――ボス部屋の前に立っていた。

「今日は、三人でいくよ」

 私の言葉に、二人が頷く。

 扉の奥、待ち構えていたのは、あの日と変わらぬ巨躯を持つハイオーガだった。

「紫苑、デバフとバフお願い」

「了解」

 紫苑の詠唱と共に、ハイオーガの動きがわずかに鈍くなる。同時に、私たちの体にも淡い光が纏わりついた。

「鏡花はサポートで!」

「任せて」

 私は双剣を構え、正面から踏み込む。乱刀を連続で叩き込みながら、隙を見てカウンターを差し込む。鏡花が巧みに立ち回り、私の死角を補いながら、敵の注意を分散させてくれる。

 一対一の時とは、明らかに違う速度でハイオーガの体力が削れていく。

 最後の一撃を叩き込み、巨体が崩れ落ちた。

「――終わった」

「早いね! 前回より全然早い!」

 紫苑が嬉しそうに声を上げる。確認すると、前回一人で挑んだ時は三十分かかった討伐が、今回はわずか五分で終わっていた。

「仲間がいるって、こんなに違うんだ」

 思わず呟いた私の言葉に、二人が優しく微笑んだ。

 三十一層に足を踏み入れると、これまで以上に密集したモンスターの群れが目に入った。オーク、オーガ、ゾンビ、スケルトン――それぞれが固まって行動している。

「まとまって動く敵には、まとまって対処しないとね」

 鏡花の言葉を合図に、私たちは連携した戦闘を繰り返していった。

 紫苑が【武器に愛されし者】の力で武器の切れ味を底上げし、鏡花は【未来視】で僅か先の動きを読み、的確なサポートを入れてくれる。彼女の固有スキルには、使用のたびにHP・MP・SPをわずかに消費するというデメリットがあるそうだが、その恩恵は計り知れなかった。

 何十戦と繰り返すうちに、連携はどんどん滑らかになっていった。

 四時間ほど戦い続けたところで、お腹がぐうと鳴った音が重なった。

「お昼にしようか」

 入り口のセーフスペースに戻り、私は昨日仕入れたパスタを取り出した。

「今日は、カルボナーラを作るね」

 二キロのスパゲッティを前に、鏡花と紫苑が目を丸くする。

「それ、何人分?」

「十人前くらいかな」

 大型のソテーパンを亜空間庫から取り出し、まずパンチェッタを拍子木切りにする。冷たい状態から弱火でじっくり加熱し、脂をレンダリングさせていく。じゅう、と透明な脂が滲み出し、表面が黄金色に色づいていく。

 並行して、卵と卵黄、ペコリーノ・ロマーノを合わせ、粗挽きの黒こしょうをたっぷりと加えて混ぜ合わせておく。

 大鍋で湯を沸かし、塩を加えてパスタを投入する。アルデンテの一歩手前で引き上げ、茹で汁を大量に残したまま、パンチェッタの脂が溜まったソテーパンへと移す。

 少量の茹で汁を加えながら、パスタを煽って乳化させていく。パンチェッタの脂と茹で汁が絡み、白濁した艶のあるソースへと変化していく様子に、二人が興味津々で覗き込んでいた。

 火を止め、温度を少し落としてから、卵液を一気に投入する。すぐさま全体を激しく混ぜ合わせる。

「卵を焼くんじゃなくて、余熱で固めるのがコツなんだよ」

 卵、チーズ、肉の脂、茹で汁が一体となり、濃厚でクリーミーな黄金色のソースへと仕上がっていく。仕上げにペコリーノと黒こしょう、カリカリに焼いたパンチェッタを散らせば完成だ。

「……美味しい!」

「これお店で出せるレベルだよ!」

 三人で十人前を、あっという間に平らげてしまった。残った十人前は、鍋ごと亜空間庫へとしまい込む。時間停止効果があるおかげで、いつでも出来立ての状態で食べられるはずだ。

 午後も、午前と同じように連携戦闘を繰り返しながら、下層のゲート前――エレメントが出現する三十二層を目指して進んでいく。

 道中、ゴブリンライダーの群れに遭遇した。中型の狼――ライネルに乗った、ゴブリンの騎兵だ。

「私がライネルを抑えるから、鏡花はゴブリンを!」

 私は双剣でライネルの進路を塞ぎ、動きを封じる。その隙に、鏡花が背後から上にいるゴブリンを斬り捨てた。紫苑がライネルにデバフを入れると、動きの鈍った獣を鏡花が一太刀で斬り倒す。

 続けて現れたのは、岩の巨人――ストーンゴーレム、三体。

「紫苑、デバフお願い!」

 紫苑の呪文が、ゴーレムの防御力を削ぐ。私は自分の腕に刃を滑らせ、HPを五十一パーセントまで消費した。

 ――固有スキル【追撃ダメージ】。

 体力が半分を切ったことで、ようやく発動条件を満たしたスキルが、核へと叩き込んだ一撃を何倍にも増幅させる。岩の巨体が、音を立てて砕け散った。

 さらにサンドゴーレムが一体。紫苑が砂を吹き飛ばし、視界を奪ったその隙に、鏡花が核を正確に斬り裂いて仕留めた。

 夕方になる頃、ようやく中央のセーフスペースに辿り着いた。

「今日は私と紫苑でテント張るね」

「じゃあ、今度は私がご飯作る番かな」

 鏡花がそう言って、亜空間庫から食材を取り出し始める。米を研ぎ、鮭を焼き、だしを取る――手際の良い動きに、私は思わず見入ってしまった。

 炊きたてのご飯、焼き鮭、だし巻き卵、ほうれん草のおひたし、具だくさんの味噌汁。湯気の立つ食卓を囲みながら、三人で「いただきます」と手を合わせる。

「……美味しい」

「鏡花、料理上手だね」

「凜ほどじゃないよ」

 食事を終え、テントへと向かう。セーフスペース内では、互いに危害を加えることができないという制約がある。それを知っているからこそ、私たちは安心して同じテントの中で眠りについた。

 翌朝、三十二層へと続く階段の前に立つ。

「……あれ、エレメントがいない」

 データ書籍には、この辺りにエレメントが出現すると書かれていたはずだ。首を傾げながら、私たちは三十二層へと足を踏み入れた。

 その瞬間、景色が一変した。

 無数の光る影が、あたり一面を埋め尽くしていた。

「……これ、異常発生してる」

 呟いた紫苑の声が、静まり返った空間に小さく響いた。

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