隠されていた理由
今回は過去回想、鏡花視点でのお話です。
――あれは、凜とパーティーを組んでちょうど三ヶ月が経った頃のことだった。
私たちは三層に足を踏み入れ、見つけた宝箱に手をかけた。
開けた瞬間、中からではなく、横手の暗がりから骨の音が響いた。
「――っ、スケルトン!」
五体のスケルトンが、サイドから一斉に飛び出してきたのだ。
紫苑が後ろへ下がり、私も剣を構える。けれど、相手は五体。しかも物理耐性を持つアンデット系統だ。私たちの実力では、まともに受け止めきれない。
「二人とも、下がって!」
凜の声が響いたと同時に、彼女が前に飛び出した。
自傷の光が、何度も瞬く。一体、また一体と、スケルトンが崩れ落ちていく。けれど、数が多すぎた。
「――退くよ!」
凜は私たちを背に庇いながら、じりじりと後退を始めた。二層へと続く道を、三人で駆け抜ける。
ようやく二層に辿り着いたその瞬間――凜が、糸が切れたように崩れ落ちた。
「凜!」
駆け寄ると、荒い呼吸を繰り返しながらも、意識はあるようだった。けれど、その顔は蒼白で、全身にいくつもの傷が刻まれている。自傷ダメージを、使いすぎたのだ。
私たちを守るために。
その光景が、私の胸に深く突き刺さった。
「……私たち、まだ全然頼りにされてない」
紫苑が、唇を噛みながら呟いた。
「このままじゃ、ずっと凜一人に守られるだけだ」
その日から、私たちは変わろうとした。
もっと鍛えて、もっと強くなって、凜に「頼ってもいい」と思ってもらえる存在になろう――そう決意して、二人で特訓を重ねた。
けれど。
私たちが力をつけようと奮闘している間に、凜は一人でどんどん先へ進んでしまっていた。
そして、ある日。
凜が、上層――十層を突破してしまったという報せが届いた。
本人に聞けば、「突破するつもりはなかった」のだという。けれど、結果は変わらない。
このダンジョン世界のパーティーシステムには、絶対的な法則がある。踏破した階層の区分が一段階でも違えば、パーティーを組むことができなくなるのだ。
レベル差なんかじゃない。
私たちは、純粋にシステムによって、凜と袂を分かつことになってしまった。
けれど、本当のことを伝えれば、きっと凜は自分を責める。だから私たちは、あえて「レベル差が開きすぎたから」と嘘をついて、パーティーを離脱することにした。
――そして、私たちはそれぞれの家族に「家族旅行に行く」と告げた。
向かった先は、京都御所の地下に生成されたダンジョン。中層までの比較的安全な階層で、私と紫苑は二人きりでレベリングに明け暮れた。資金集めも兼ねて、だ。
一方で、凜は凜で、中層を一人で突き進んでいた。
物理耐性を持つアンデット系統――全体の七割、およそ六百体ほどを、彼女は一人で討伐していたという。あとになって知った数字に、私は言葉を失った。
離脱後も、私たちは凜を見捨てたわけじゃない。
交代で、陰から彼女の様子を見守り続けていた。
二十四層のセーフスペースで、凜がダンジョン協会の支部長――ダランさんに、斧を渡すのを手伝ってもらっているのを見かけたこともある。あとで戻ってきたダランさんが、私たちにこっそりと耳打ちしてくれた。
「あの子、かなり怪しんでいたぞ」
どうやら、見られていることに薄々気づいていたらしい。肝が冷えた。
三十層での戦闘を見守っていた時は、もっと危なかった。
凜が敵に防御デバフを付与した瞬間、エフェクトがはっきりと空間に浮かび上がってしまったのだ。
「――見つかった?」
私と紫苑は、咄嗟に光属性の光学迷彩を展開し、そのエフェクトだけを覆い隠した。心臓が、今にも飛び出しそうなほど高鳴っていたのを覚えている。
パーティーを解散してから今日まで、私たちは中層のボスドロップをひたすら集め続けていた。資金のため、というのもある。けれど、それだけじゃない。
――いつか、凜と一緒に歩む未来のための、貯金。
私と紫苑の心の中では、それはいつしか「結婚資金」と呼ぶべきものになっていた。それぞれ、およそ二千万円。誰にも言ったことのない、二人だけの秘密だ。
――だから。
今日、凜から「また一緒にパーティーを組んでほしい」と言われた時。
私たちは、もうずっと前から、その言葉を待っていたのだと、改めて思い知らされた。
やっと、頼ってもらえた。
その事実が、どんな宝物よりも嬉しかった。




