選択の夜
翌朝、二十七層から二十八層へと足を踏み入れると、これまで以上に広い草原が視界いっぱいに広がっていた。
草むらの奥から次々と現れるゴブリンやオークの群れを、スラッシュとカウンターを織り交ぜながら処理していく。追撃ダメージが発動するたび、手応えのある重い一撃が敵を貫いた。
二十九層では、岩場とスネークの数が一気に増えた。まっすぐに伸びる噛みつきを横へ躱し、口を開けた瞬間に一突き。小柄な個体は、上から頭を斬り落とす。繰り返すうちに、周囲に転がる亡骸の数が増えていった。
昼を過ぎた頃、私は小高い場所で一度足を止め、干し肉とパンで簡単な食事を取る。
「……そろそろ、三十層か」
呟きながら立ち上がり、再び歩き出す。二十九層を抜け切った頃には、日がすっかり傾いていた。
三十層の中心部にあるセーフスペースに辿り着いたのは、夜も更けた頃だった。
マジックバッグから鍋を取り出し、道中で仕留めたモンスターの肉と、残っていた野菜を使って夜食を作る。くつくつと煮える音を聞きながら、私はこれまでの道のりを振り返っていた。
――随分、遠くまで来た。
器によそった汁物を口に運ぶと、その瞬間、頭の中に無機質な声が響いた。
「第一職:剣士がレベル100に到達しました」
「第二職業を選択してください」
目の前に、選択肢が浮かび上がる。
魔道士。武術家。双剣士。大剣士。斧使い。斥候。それ以外にも、見慣れない職業名がいくつも並んでいた。
私は箸を止め、しばらくその一覧を見つめた。
――魔道士なら、遠距離からの手数が増える。武術家なら、素手での戦闘手段が得られる。大剣士は、一撃の重さがさらに増すだろう。斥候なら、索敵や罠への対処が格段に楽になるはずだ。
どれも、魅力的に思えた。
だが、脳裏に浮かんだのは、昨日の戦闘の感触だった。
左手の斧と、右手の剣。二つの得物を同時に操ったあの戦い方は、思っていた以上にしっくりきていた。片方だけでは届かない間合いを、もう片方が補う。あの感覚を、もっと突き詰めてみたい。
――それに。
ダランから受け取った斧のことが、頭をよぎる。あの斧を、ただの予備の得物で終わらせたくはなかった。
「……双剣士、で」
決めた瞬間、視界に表示が浮かぶ。
「第二職:双剣士を取得しました」
同時に、体の奥から新しい感覚が湧き上がってくるのを感じた。二つの武器を、より自在に操れるような――そんな予感めいた高揚感だった。
器に残った汁物を飲み干し、私はマットに横になる。
明日からは、もう一つの職業を育てていくことになる。
期待と不安が入り混じるその感覚を抱えたまま、私は静かに目を閉じた。




