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13.ムロンの決戦10


 我々中央軍は耐えに耐えた。


 エメリヒ王率いる左翼騎兵部隊が敵の後背面を突いている間にも、帝国軍正面の部隊は攻撃を続けていて、残り少ない体力を振り絞って受けなければならなかった。それには勿論自分達近衛騎士団も加勢した。馬の機動力を生かしてアーチャーの火力を万遍なく運び、時折前線に騎兵が躍り出て敵を蹴散らす。この行動によって何とか維持していたのだ。


 そして獣人を中心とした王国軍の中央部隊は耐え切った。


 左翼の騎兵の突破により右翼の騎兵同士の戦いも勝利し、その自由になった騎兵が両翼端と帝国軍の背後から襲い掛かった。その圧力に負けた帝国軍歩兵は両翼が後退……完全に包囲されたのだ。


 今までの戦史でも聞いたことが無い、寡兵による野戦での完全包囲の完成である。


 この状況になって帝国軍歩兵は、ようやく自らの状況を理解する。

 逃げ場のない戦場という事実は、彼らを死兵と化すのではなく、ただ全軍に恐怖を伝播させるだけだった。何故死兵と化さなかったかといえば、その覚悟を決める時間を与えなかったから…

 今まで有利に進めていたはずの戦場が、いきなり死地と化すとなれば、先に来るのは自らの未来への絶望のみである。気づけば完成していた包囲を突破しようと、それぞれの前に立ち塞がる帝国歩兵を押す事しかできなかった。

 背後から迫る騎兵から逃げ惑う帝国兵と、前線で剣戟を交わす帝国兵の間に挟まれた、休憩中の兵や予備の兵士達は身動きがとることが出来なくなっている。


 我々王国軍の陣は薄くなり、消耗していたが、それは帝国軍の混乱を受け止めるには十分である。


「おい!!そこ抜けたぞ!!追い討ちしろ!!」

「はい!!」


 時たま隙を突いて、帝国兵が戦場を離脱しようとするが、我々近衛騎士が急行して処理をしていた。最早帝国軍に逃げ場はなく、ただただ徐々に狭まる包囲の中で、倒れていくのみだった。



「帝国皇帝とらえたりぃ!!!」

「皇帝を捕らえたぞ!!」


 10万もの帝国軍がムロン平原に屍を晒して、最後に捕らえられたのは帝国の皇帝であるヴェルデ・ヴァン・デ・スプルースだ。周りを守っていた帝国騎士団は悉く討ち取られ、最後に剣を振り回していた皇帝が兵士の殴打により倒れた。


 ムロンの平原には帝国軍と王国軍の屍が折り重なっている。落ち着いた戦場を歩き止めを刺して歩く奴、鎧や武器、金品の略奪に走っている奴、友を失いその傍らに俯き佇む奴、泣き崩れる奴…勝利に周囲の人間と喜んでいる奴。それぞれがこのムロンで起きた戦闘の後味を噛みしめていた。


「ほんに…皆、ご苦労であった」

「大勝利おめでとうございます、栄光あるオロール国王陛下」

「我々は勝利した……帝国皇帝の身柄もこちらにある」

「さらに幸運なことに後嗣である第一皇子の身柄もございます」

「あぁ、何と幸運か!」


 存在が隠されていた、帝国の第一皇子の身柄まで我々は捕らえている。どうやら若い時期皇帝の経験として連れて来ていたらしい。とは言え、国元にまだ10にもならない第二皇子がいる。


「帝国軍はもはや消滅したも同然でございます」

「逃がした兵士は1万に及ばないだろうか?」

「それは間違いなく、全ては王陛下の卓越した知略あってのこと」

「そう褒めそやすな、野盗化するであろう敗残兵の対処をしなければならんな」

「戦場の後処理含め、我々諸侯に委細お任せください」

「そうか、期待している。さぁ、皆の者今夜は祝杯だ!!飲めや、踊れや!!!」


 この日から王国の陣地の天幕で、ムロン平原の大勝利を祝う宴が開かれた。やがてそれは徐々に軍全体に拡大し、ある者は喜び、ある者は悼み、ある者は悲しむ3日間にも及ぶ酒盛りとなる。それは軍が運んでいた酒樽が全て空き、ムロンにあった全ての酒樽も買い占められ空となった。



 戦場での大祝宴を終え、犠牲者の埋葬を終えた王国軍は残った4万6千の軍を大きく二つに分けた。

 周辺に散り散りになった帝国兵を捕らえる為に細かく分けられた軍と、城を囲まれたモーラ公を救援するための軍だ。


 自分達近衛騎士団を含めたエメリヒ王率いる約2万5千の軍は、昨日までの祝宴の余韻を残しながら、ひたすらモーラ公救援の為に短い休息を取りながら北上した。

 モーラ公が籠るタリヴェンド城の包囲は解かれていた。その代わりに帝国軍はタリヴェンド城近郊の丘に守る形を取っている。何故即時撤退がなされなかったのかといえば、完全包囲の後に壊滅した為に、伝令が届くのが遅れたのが一つ、俄かに信じがたい事実だったという理由が一つであろう。


 我々王国軍はモーラ公の軍と合流し3万5千となり、2万の帝国軍に襲い掛かる。今回は完全に正攻法をとり、丘に籠る帝国軍を逃げ場所を残しながら追い詰め、崩壊させた。


 こうして王国内に侵入した帝国軍12万は跡形もなく消え去ったのだ。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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