12.ムロンの決戦9
自分を含めて11人のアーチャーが手に取っているのはマジックアローである。彼ら全員がパウラの教え子であり、そのパウラもアーチャーの一人として、仇敵である帝国を倒さんがためにここに立っている。
背中の矢筒からマジックアローを一本手に取って弓に番えた。目標はそれはそれは大きく、視界の限りを埋め尽くす帝国軍の兵士達だ。後方以外のほぼ半周に渡って我々を囲む帝国軍兵士は、今にも我々に襲い掛からんとしていた。
「皆の者!構え!!!」
重心を意識して、姿勢を整え、弦に指をかける。皆が同様の動作をしているが、向いている方向は全員別で、11人それぞれの方向だ。
弓を持ち上げ、矢に最大限の魔力を込め始める。今回の戦いでマジックアローはこれで打ち止めだ。
「どけぇ!!」
自分の一声に周囲を護っていた近衛騎士団が、11人の射線に出ないよう一気に後退するか、11人の半円の内側に下がってきた。
弓を引く時に鏃に向かって流すイメージに変えて、引き切る。
こちらの不審な動きを察した帝国歩兵達が襲い掛かって来ていた。
狙いは特に定めない…目の前から迫りくる帝国兵に水平になるようにぼんやりと狙う。
魔法の放出は、逆刺部から螺旋状に流すイメージ。
そして放つ。
自分の手から離れたマジックアローは衝撃を残して体を吹き飛ばした。最大限の魔力を込めたマジックアローの反動は何度食らっても慣れない。身体がゴロゴロと転がって、その衝撃を必死に受け流そうとしている。
我々が放ったマジックアローが巻き上げた土埃で、周囲は何も見えない状態だった。起き上がって直ぐにでも前線を離脱したいところだが、暫くその場に足を止めざるを得なかった。
徐々に収まり始めた土埃の奥から、呻き声と共に周囲の惨状が見えて来る。轟音と共に放たれた11本のマジックアローは、11本の血の道を戦場に作り出していた。
11本の道の横幅は5人が手を広げたくらいだろうか、奥行きは300~400フィート近いのかも知れないが、巻き上がった土埃でまだ見えていない。
何より注目するべきはその惨状だろう。道の真ん中には血の色以外は何も残っていない…人の体の一部と思しきものが見えるのは、その道の端の方だけだ。それが戦場の空白としていきなり出現した光景に、帝国軍兵士のみならず王国軍も近衛騎士団も、放った我々アーチャーでさえ困惑と戦慄をしていた。
「退くぞ!!起き上がれ!!」
混乱した馬を落ち着かせて、飛び乗りると一気に戦場を離脱し始める。振り返り、土埃のが落ち着いて来た先に見えたのは、自分とパウラが放ったマジックアローによる太い血の街道と、他の9人が魔力を振り絞って放った普通の幅の血の道であった。
「うぅ……おぇぇ…」
アーチャー達が馬上から嘔吐する声が聞こえる。多少慣れている自分でさえ、その光景を見て吐き気を催さないのは無理があった。
「おい、足を止めるな!!堪えろ!!」
大声を出したことで自分も胃から食事が帰ってくる…必死にそれを飲み込んで、味方の後方へと急いだ。幸いに我々が足を止めて出来た隙を咎める程、帝国軍も立て直せたわけではなかった。
我々が使ったマジックアローの効果は非常に大きかった。
帝国軍は中央にいた軍が正体不明の攻撃に恐慌状態となり、後方の予備兵力が投入されるまで全く攻撃することが出来なかった。だが王国側の中央軍もその隙を突けるほどの余力を残していない。これまでの戦いで消耗した体力を戻すことが精一杯である。
よって我々の歩兵が押され続けている状況が止まっていたのは体感として半刻も無い。帝国軍後方の予備隊が投入され、左右の軍からも援軍を受けた中央が、再び押され始めると我々はまたもや徐々に後退を余儀なくされていく。
エメリヒ王の狙い通りに……
帝国軍自慢の歩兵部隊は十分な働きをしていた。数の有利を活かし、正攻法で順当に力押しをする。それには王国軍歩兵部隊は粘り強く戦いながらも、後退せざるを得なかった。結果として生まれた弓なりに湾曲した戦線。両翼で有利に戦況を進める王国が誇る騎馬部隊。
ムロンに生まれた半円状の曲線はそのまま膠着することも、王国の敗北に傾くことも無かった。
「リデル総団長!!お味方が!!」
自分のもとに走り込んで来た伝令兵は、左翼でエメリヒ王の元で戦っていた近衛騎士団の騎士だった。
「どうした!?」
「左翼王国騎兵が帝国騎兵を粉砕!突破いたしました!!!」
顔の緊張が緩むのを感じる。エメリヒ王が狙っていた通りの展開であった。
「して、王陛下は!?」
「そのまま部隊を分け、右翼騎兵の増援、敵背後の襲撃と左翼側の増援をしております!!」
「おぉ!陛下から我々に指示は?」
「中央軍にあっては、そのまま耐え続けよと」
「承知した!!いくらでも耐えて見せよう!!」
「では、私は他の軍団にも行って参ります」
「無事、王の言葉を届けよ」
今前で戦っている歩兵達は、次第に王国へ有利に傾き始めた状況を知らない。なれば我々がするべきは、その周知を行って必死に戦う兵士達を鼓舞する事だけだった。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




