11.ムロンの決戦8
獣人達で構成された中央軍のその衝突力は、それはそれは凄まじいものであった。
安定した足取りで進んで来た帝国軍の中央を、しっかりと受け止めるどころか、若干押し返すところまでの勢いがあった。その勢いに中央以外の帝国軍は一度前進の足を止めざるを得なかった。下手に前進することで陣形が崩れたまま、これから段階的に続く王国軍の突撃を受け止めたくなかったからだ。
たった9000の兵士達が、10万の軍の前進を止めているのである。獣人達はそれはそれは派手に暴れていて、その膂力を生かして敵兵を千切っては投げている。その気迫に圧倒された帝国軍であるが、流石に軍の厚さが違い過ぎた。彼らは前進が出来なくなっても、こちらの力を十分に受け切っていて、後退することは決してしていなかった。彼らの後方からは増援の為の予備兵力が、徐々に中央に集まり始めていることが砂埃の上がり方で分かる。
獣人達の中央軍は質では圧倒的に上であろう、だが、数の不利というのは軍全体の持久力に直結し、時間が経てば経つほど、数の多い方に有利が傾いて行く。徐々にではあるが、前進を始めた両翼帝国軍からの圧迫と、中央軍に対する予備兵力の投入で我々は一歩づつ戦場を後退し始めていた。
この後退に戦っている中央軍は、誰も気が付いていないだろう。何故かと言えば目の前に居る敵は帝国軍よりも確実に多く倒しているからだ。圧倒的に多数を相手にした戦いでは、押し流されてしまうのは仕方ない。そして、その流れは時間が経過するごとに、勢いを増していった。
確実に始まった後退を最前線で戦う者達が気が付く前に、更に両側の味方がついに到着して衝突を始める。そしてまたもや、帝国軍は足を止めて我々をしっかりと受け止める。
確かに我らの方が士気が旺盛で、敵に対する当たり方は強いかもしれない。それでも敵の兵士数は圧倒的で、またもや徐々に押され始める。一歩また一歩と全体の軍が後退する度に、その敵の厚さと数の差を実感するのだ。
特にその下がり方は最初から敵と戦い続けて来た中央軍が大きく。徐々に中央の戦線が後退し始めると、それに伴って両側の王国軍も横を取られないために交代して、弓なりに敵に当たったはずの我々の陣形が、中央が凹む形に変化していく。
そして最後の歩兵隊である両翼が敵に当たり、もう一度帝国軍の動きを止めるが、今度は後退を止めることが出来ていない。我々中央軍は完全に息切れを起こし始めているのだ。
「お前ら踏ん張れ!!前だ!!敵を受け止めろ!!」
遠くからサルキの叫び声が聞こえた。全体が凹む形で後退している事で、陣の中央にいたサルキが後方へと押し流されてきているのだ。
歩兵の全軍が接敵するのと同時に、両翼の騎兵達が帝国騎兵と交戦し始めたのが分かる。流石に同数の騎兵同士の戦いは王国に分があるのか、我々の場所から両翼の騎兵達は拮抗しているように見えた。
「やばい」「まずい」
先程まで優勢を心の中で維持していた筈の中央軍兵士達から困惑の声が聞こえる。前線の交代で後方へ来てみると、着実に一歩一歩押されているのが分かるのだ。彼らは明らかにそれに動揺していた。
今、戦場全体の形としては王国軍中央が押し込まれた、凹の字の形になってしまっているだろう。唯一優勢を維持しているのは両翼の騎兵だけだ……だが、これは現在左翼側騎兵の指揮を執っているエメリヒ王の狙い通りだった。
(さぁ、自分の仕事をしなければ)
徐々に押し込まれ始めた戦線を維持させるため、中央軍に自分がいる。
「よし、お前ら頃合いだ!!出るぞ!!」
自分の一声に近衛第一騎士団が素早く反応し、それに続いてアーチャー達が反応した。
味方の獣人達が疲れを回復している間を縫うように、最前線へと向かって行く。途中で出会った声を枯らしながら指示を飛ばすサルキに手と表情だけで挨拶をすると、更に進んで行く。
我々は全員騎乗していた為に、中央軍の中で非常に目立つ存在だった。それに加えて近衛騎士団旗まで掲げているのだから、味方の士気を上げることと、敵を萎縮させるのにも繋がっている。前哨戦で帝国騎士団を叩きのめした光景は皆の記憶に新しいだろう。
我々は最前線に着くと、周囲の敵を一度蹴散らした。この混戦の中で足を止めずに動くのは大変だが、それを出来る練度を持つのが近衛第一騎士団だった。こうして最前線の一部に、近衛第一騎士団を囲むように突出した静かな空間が出来た。
「…やるぞ」
弓を取り出して馬を降りる。それを真似するかのように、他のアーチャー達も下馬をした。この敵のど真ん中で下馬するなど自殺行為も良いところだが、それが我々に課された仕事であった。
一度は距離を置いた帝国軍兵達が、我々近衛騎士団の存在を再認識し、闘志を燃やし始めたのが雰囲気から分かる。彼らはここで近衛騎士団を仕留めて更に押し込もうという意気があった。その為に一度距離を取り、陣形の再構築の時間を稼いでいるのだろう。そして、それが我々の狙いでもあった。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




