10.ムロンの決戦7
(帝国騎士団に背を向けて逃げる姿は勇姿とは程遠いか?)
頭の中に浮かんだ疑問に少し口元が緩むが、また気を引き締め直しながら、更に右へと馬首を向けた。戦場の中央へと戻るような形だ。
右側への射撃は非常に難しいが、近衛騎士団において出来ない奴は居ない。居させていない。
我々の後方から右側へ現れ始めた帝国騎士団に向かって、もう一度射撃を行う。流石に左に向かって撃つ速射よりは難しいが、それでも十分な威力が出ている筈だ。
我々から放たれた矢は、更に帝国騎士団の2~3人を落馬させる。そして彼らの鼻っ面を掠めるようにまた、我々は加速を始めた。
もはや帝国騎士団は我々アーチャーしか見えていない。2度も一方的に”半端者のアーチャー”達から誇りある騎士団がいいように弄ばれているのだ。彼らは明らかに怒り心頭で、自分達へ向かって全力の突撃を行っていた。この後に控える王国騎士団との騎馬戦など考えていない風だ。
流石に片手に弓を持った状態では、全力の帝国騎士団との距離を話すことは出来ず、本当に徐々にではあるが、距離が詰まり始める。だが、我々は弓を収めて全力で走るような事はしない。役目ではないのだ。
「「「どらぁぁ!!!!!」」」
全力で我々に向かって来ていた帝国騎士団の後方から、野太い叫びが聞こえて来た。我々の騎兵達が帝国騎士団の最後方を刈り取り始めたのだ。我々アーチャーは更に帝国騎士団の速度を落とさせて、味方騎士に戦いやすくさせる為、戦場の中で旋回を始める。
我々アーチャーに食いつかんとする帝国騎士団と、その尾を食い千切らんとする王国騎士団が両大軍が見守る戦場の中央で複雑な旋回運動を始めた。
帝国騎士団は今度は数で劣る味方騎兵と戦おうと、速度を緩めると我々アーチャーが遠目から弓を射かけて嫌がらせをする。帝国騎士団がこちらに意識を向けると、今度は王国騎士団の勢いが増す。我々は完全に帝国騎士団を手玉に取っていた。
ひとり、またひとりと数を減らしていく帝国騎士団は、最後の一人まで戦い抜いた。我々も数人の死者と無数の負傷者が出たが、圧倒的な勝利であることに変わりはない。
最後の一人と共に帝国騎士団旗が地面に倒れると、王国軍側からの大歓声が沸き上がった。士気は最高潮に達し、今すぐにでも戦いを始めようとする勢いだ。
我々は帝国騎士団の団旗を拾い上げて、それを王国騎士団旗の先で貫き高々と掲げながら持ち帰る。
エメリヒ王は我々のその姿を剣で差し示しながら、第二騎士団と共に味方の前を横切りながら何か言葉を発している。いよいよ本当の開戦の時間だった。その為の最後の檄をエメリヒ王が飛ばし続けているのだ。
一方の帝国側は静まり返っているが、それは同じように兵士の前を横断する皇帝の檄を聞く為か、我々に静かに闘志を燃やしているか、それとも意気消沈しているのか…今はまだ分からない。
エメリヒ王が味方への檄を終えて、中央に戻って来たエメリヒ王を今度は我々が出迎える。
「誇り高き王国近衛騎士団よ!良く敵を叩きのめしてくれた!!その姿に王国の民全てが勇気づけられた事であろう!!」
大仰な言い回しはこれまで檄を飛ばし続けた延長だからであろう。エメリヒ王も既に心は戦いに向かって昂っている事が、その表情から良く分かった。
「さぁ、やろう!我々の最後の戦いを!!中央軍前進!!!」
「中央軍!!前進!!!」
エメリヒ王の合図と共に中央軍と呼ばれる獣人達を固めた一団が前進を始めた。その指揮官はサルキである。エメリヒ王と第一・第二の近衛騎士団の両側を獣人達が進んで行く。我々はまるで川の流れの中に取り残された石か岩だ。
勢い良く通り過ぎて行く中央軍の真ん中にはサルキがいて、自分の横を通り過ぎていくときに「お先」という声が聞こえた。自分は中央軍の最後尾が過ぎた後について来ているマジックアローが扱えるアーチャー達と共に、近衛第一騎士団を連れて前進を始める。エメリヒ王は前進してきたほか全ての近衛騎士団に守られて、軍の後方にて全体の指揮を行う。
アーチャーを連れた我々は前進を開始した。帝国軍の様子は獣人達の背中の向こうに隠れているが、立ち昇り始めた砂埃を見るに、全軍での前進を始めたのだろう。一方の我々は中央軍の両脇の軍がようやく動き始めたところで、まだ歩兵最右翼・左翼、更にその外側にいる騎兵達は動いていない。
目の前から迫る10万の軍に立ち向かっているのは、獣人で構成された中央軍9千のみだった。それでも獣人達の前進の勢いは衰える事なく続いて行く。これまでに散々帝国の宗教のもとに虐げられた、同胞たちの弔い合戦なのだ。彼らはまだ追い込まれていない状況にもかかわらず、死兵に近い状態である。
帝国軍と王国中央軍の距離が縮まるにつれて、獣人達の背中から両側に帝国兵が広がり始める。その数は聞いていた通り10万は下らないだろう。圧倒的な10倍という兵力差の中、ついに帝国軍と王国軍が衝突した音が前方から聞こえた。
両国の運命を決することになる、ムロンの戦いの幕開けだった。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




