14.スプルース帝国の終焉
帝国は最後の抵抗をしようとした。
半年前に起きたムロン平原の戦い大敗北を喫し、帝国の皇帝であるヴェルデ・ヴァン・デ・スプルースとその後嗣が捕らえられた。これによって帝国諸侯は、皇帝奪還の為に第二皇子の名の下に兵力を搔き集める。
ところがこれが上手く行かない……
元々帝国に不満があるいくつかの諸侯は、仇敵たる王国に寝返らないまでも、兵力の動員に様々な理由を付けて拒否をしたし、帝国弱体化とみて各地で獣人達の奴隷反乱が相次いだために、思うような徴兵ができない。ようやく搔き集めた兵力を、帝国内に侵入してきたエメリヒ王率いる王国軍に当てる頃には、帝国軍の兵数は不足していたし、士気も練度も低かった。
そうして数度の戦いを経て、帝国軍は撃破される。
帝国領内に侵入した王国軍は軍を幾つかに分けて、帝国各地を攻略していくことになった。
ある軍は北へ、ある軍は南の諸国家連合と対峙する味方の援軍へ、エメリヒ王が率いる軍は真っ直ぐに帝都へと……
自分はその軍のひとつである北へ向かう軍を任されていた。
エメリヒ王曰く「自分が欲しい領地を切り取ってこい!」だそうだ。その命令に従い、自分はレイトリバー沿いに北上して北方樹海に突き当たるまでを、順番に攻略していくと、今度は樹海沿いで半円を描くように北の海まで突き抜けた。
この頃に帝都を手にしたエメリヒ王は、帝都にて帝国皇帝とその第一皇子を処刑する。
その処刑がムロン平原の戦いから1年半が経過した年始で、これ合わせて帝国領各地に書状が送られた。
「只今より1年の内に王国に降った者たちは、同じ身分を保証しよう」
この”身分”という部分が重要であった。この呼びかけに応じた反乱や、不満を持つ貴族は領内における徴税権と軍権を、進駐した王国軍に渡したのだ。呼びかけのお陰でそれからは、帝国の残党軍を追い回しながら、各地に残る抵抗勢力を攻略していく作業となる。
自分は北方樹海付近から更に西進し、ガリタニア湖を領有するコルテス家を滅ぼした。今となっては昔になった、自分がカーマイン辺境伯領に居た頃、侵攻してきた帝国伯爵家の領地だった。
ガリタニア湖付近は非常に眺望が良かった。盆地の上にあるガリタニア湖は、北の海沿いから帝都へ向かう水路の玄関口となっていて、それなりの賑わいも持っている。更に付近の平地は肥沃な大地で、至れり尽くせり度合だ。エメリヒ王が言っていた通り、望み通りの領地が手に入るならば、このガリタニア湖付近の旧コルテス家領から、北方樹海までの領地を希望することにしようと思う。
王国の帝国解体は順調に進み、旧帝国領の平定と、帝国に侵攻された獣人国家であるモルドレや遊牧民族連合体のシャモア、鍛冶国家のエルカラート等の王国影響下での独立が進められた。この間に南方のムタルド教国は、我々にベルディグリ大陸側の領地をすべて渡す事を条件として和平を結んだ。
因みに身分のみを保証された旧帝国を裏切った諸侯は、財産や領地をすべて没収された状態で放置された。文字通り放置だ……道端で飢えに倒れたか、或いは恨みのある人間、獣人に倒されたか、彼らの消息は消えた。
「ふむ、リデルはそこを所望するか」
「はい」
ムロン平原の戦いから2年の時が過ぎて、一時王都に帰還した際に望む領地を聞かれた。そして返答は至って簡潔。
「いいだろう、明日の祝勝会と叙勲に伴って発表しよう」
「ありがたき幸せです」
まだ帝国の残党は各地に燻っているし、山奥の攻め辛い城に第二皇子と籠った帝国に忠誠を誓った諸侯はいたが、もはや王国の敵とは言えない。そうしたことで王国は対帝国戦争の祝勝会と、大陸統一の祝宴を開くこととしたのだ。
「それにしても、寂しいものだがな」
「これで陛下の近衛は離れることになりますな」
「あぁ、旧帝都に何か異変があった際、軍を向けることが出来る場所に信頼できる者を置きたくてな…それに、いくら近衛を離れるからと言って、将来私の猶子と君の子息が婚姻を結んだ際には、旧帝国領の半分を差配してもらう事になる。私とその子孫の為に働いてもらう事になるぞ」
「それは、もちろん喜んで」
翌日から始まった王国中の貴族が集合し、国民すべてを巻き込んだ宴は、それはそれは壮大なものだった。王都の街角には出店が昼夜問わず並び、皆が朝から夜まで飲み明かした。市民の宴は10日間、諸侯の宴は20日間に渡って続く。
可哀想なことにこの間も”東方公”は、対帝国の為に遠い土地で頑張ってる。エメリヒ王の「信頼に足るのは譜代の公爵家である東方大公家のみだ」という一言で、この宴とそれに続く叙勲の儀に参加できていないのだ。勿論この対帝国戦で東方公が功績を上げれていないのが理由だが、元々功績を期待できる配置でも無かった。
冷遇ここに極まれりという感じだ。
「リデル・ホワイト伯は、ガリタニア湖畔及び……」
叙勲の儀では長々と自分の新たな領土が読み上げられ…
「これらの領土は、ホワイト領と呼び名を改める。それに加えて今回の大功を以って、侯爵位に叙す。リデル・ホワイト候、前へ」
大喝采の中で自分の叙爵が終わると、最早自分の上には、カーマイン公とモーラ公、東方公しかいない、押しも押されもせぬ大貴族となっていた。王都近くの村で生まれた猟師の息子が、今となっては王国の3列目に叙されている。
自覚は無い…ただ、周りに流されて、流されて、流れ着いたといった感覚だった。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




