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7.ムロンの決戦4


 翌朝、平原を挟んで睨み合いを続けていたオロール王国軍とスプルース帝国軍は、前進を始めた。


 雲がほぼ無い空に太陽が昇り始めて、周囲はすっかり朝の空気が漂っている。両大軍が通った後には、踏まれて折られた若草たちの湿った匂いがした。風はほぼ無く、非常に遠くまで見通すことが出来る日だ。

 既に整えられた陣形の両軍が、決戦の場となる平原の中央に向かって進軍していくのは、どこか予定調和のように見える。


 両軍の兵士が歩みを進めながら、気勢を上げる大きな音は何処まで聞こえているのだろうか?間違いなく近くのムロン城までは響いていそうだ。お互いの軍が敵の軍に押されないように必死に声を張り上げながら進軍している。この前々哨戦は王国軍が帝国軍の兵力の半分程度しかいないことが影響し、若干押されている様子だった。


「リデルよ、最前列まで出るぞ!」


 陣を張っていた山を下り切り、帝国軍の姿が王国軍の頼りがいある兵士達の背の向こう側へ消えた時、エメリヒ王は遠くに見える粉塵に帝国軍の姿を重ねながら、自分に無茶振りをした。

 いや、今回は一人で飛び出して行かないだけ、無茶振りではないのかも知れない…


「近衛第一騎士団我に続け!!」


 駆け出したエメリヒ王に続いて行くのは、現在はトルガーが指揮している近衛第一騎士団だ。この騎士団は馴染みの者達ばかりで、強者ばかりである。最前線に出るエメリヒ王の護衛にこれ以上の適任は居ない。本来であれば近衛騎士団全体で前に出たいところだが、味方の間を通るには少し規模が大きすぎるし、瞬発力に欠ける。


 エメリヒ王は前進する味方をするすると追い越すと、あっという間に最前線へと躍り出た。

 正面に見えるのは、凄まじい土埃を立ち昇らせながら、こちらに向かってくる帝国軍の姿。


「全軍停止!!!」


 エメリヒ王は右腕の拳を静かに上げて、全軍に停止命令を伝えた。

 これは暫く練兵に励んで居た成果であろうか、6万の大軍にも関わらず動きに統率がある。その様子を見て満足そうに頷いたエメリヒ王は、同じように停止した正面の帝国軍から視線を外すと、ゆっくりと味方の右翼方向へと馬首を向けて駆け出した。


「王国旗を掲げろ!!なるべく目立つように高く!高くだ!!」


 近衛第一騎士団を引き連れたエメリヒ王が王国軍の前を横切ると、先程まで響いていた喊声が波が引いて行くように静かになる。これは徐々に広がった…帝国軍も同じくだ。


 エメリヒ王はこのまま味方の前面を、檄を飛ばしつつ最右翼から最左翼まで横断するつもりなのだろう。大体やりたい事は予想が着いている……が、予想外の事が起きるのが戦場だ。


 自分の視線はエメリヒ王の姿を捉えながらも、常に帝国軍の動きに向いていた。


「王陛下!!」


 この檄を飛ばす場面にあって、思わずエメリヒ王の興を削ぐような声を掛けた。当然エメリヒ王は何事かと不機嫌にこちらを振り返る。エメリヒ王にその反応を返されることが分かっていても、報告しなければならない事があったのだ。


「帝国軍から、スプルース皇帝旗を掲げた一団がこちらに向かっています!」


 自分の視力は人より数段いい…が、それに驕らず何度も確認した上で、スプルース帝国皇帝であるスプルース皇帝旗を掲げた我々と同じような人数の団体が、こちらに真っ直ぐ向かって来ていた。恐らくであるが相手は帝国騎士団であろう。その証拠に20人程度の騎兵に加えて、重装甲の歩兵が随伴している。これは騎士団と命名されているのに、歩兵が混じっているという帝国騎士団の特徴である。と言ってもこの歩兵達は舐めてかかれる存在ではない。歩兵は重装甲にも関わらず動きが機敏で、帝国陣地から走り続けていてもその隊列は乱れていない。実際に戦うと彼らの陣形変化や動きは、敵軍の視線を自らに向けるように洗練されている筈だ。


 一向に衰えることなく直進してくる皇帝旗を掲げた帝国騎士団…自分にはその意図は分からないが、エメリヒ王は何かを察したように我々近衛第一騎士団に着いて来るように合図すると、戦場の真ん中へと走り始めた。


「王陛下!お待ちください!!何をされようというのです!?」

「分からない!だが、向こうも皇帝の旗を掲げてこちらに来るのであれば、我々も王旗を掲げて向かわねばならんだろう?」


 簡単に言ってのけるエメリヒ王に半ば呆れながらも、近衛騎士団全てを連れてこなかった自分の決断にも呆れている。たった50人1個近衛騎士団で出来る事など限られている。もし帝国がエメリヒ王を仕留める為の罠に嵌めようとしていたら、自分達には出来るような事はない気がする。


 周囲の状況を見ながらあれこれ考えている間にも、近衛第一騎士団と帝国騎士団の距離は縮まっていく。相手の表情を確認できる程度の間合いに入ると、お互いが進む速度が緩んだ。



 そして、1000フィート(約300メートル)程度の距離で完全に停止する。


 この距離は戦場にあって遠いようで近い。特に我々王国の騎兵にとっては駆け出したなら直ぐに剣が届く距離であるし、自分のマジックアローも十分射程範囲だ。


 お互いが睨み合う時間が始まった。


はじめまして。都津(トツ) 稜太郎(リョウタロウ)と申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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