6.ムロンの決戦3
「王都より”アーチャー”達が到着いたしました」
エメリヒ王がこの報告を受けたのは両軍の動きが激しくなり、翌日に決戦の空気が出てきたところだった。
挨拶の為に姿を現した10人のアーチャー達は、マジックアローを使うことが出来る15覚醒の風魔導士、全員自分が指導した者達だ。その中にパウラの姿もあった。
何故こんな所にいるのかと思わず彼女に声を掛けてしまいそうになったが、パウラの人生を思い出すとその言葉を出すことは出来ない。彼女は故郷を”人間の誇り”教を信仰する帝国軍に焼かれ、親族や友人を殺されているのだ。帝国を憎む気持ちは我々以上かもしれない。
「よく間に合ってくれた。これでより戦の勝利が近づいた」
「ありがたきお言葉にございます」
「君達には近衛総団長であり、君たちの師であるリデル総団長の指揮下に入ってもらう」
彼らが天幕を辞した後に残るのは、自分とエメリヒ王、それに今日の護衛担当であるフレディとテリアのみになり、周囲の喧騒の中で天幕の中は久方ぶりの静寂となる。
「リデル以外は出て行ってくれ」
またもや何か小間使いでもあるのだろうか…この大事な戦の前に体力を使いたくないのだ。言葉を発することなく、出て行く二人の背を見つめて助けを求めるが、彼らは振り返らない。
「安心しろ、今回は頼み事ではない」
自分の表情を見て察したのか、エメリヒ王は久しぶりに笑顔を見せている。
「…それは残念です」
「心にもない事を言う。まぁいい…」
エメリヒ王はそれ以上の言葉を繋がなかった。これは自分から話題を振れという事なのだろうか?と悩むが、その必要は無かった。
「この戦は勝てると思うか?」
更に返答に悩む難題を振られたからだ。
ここで正直に「分かりません」とも「厳しい戦いです」とも言う訳にはいかない。
「王陛下が信じる結果を我々も信じるのみです。つまり勝利を信じております」
「随分他人行儀で臣下らしい言い方だな」
エメリヒ王が見せる砕けた口調は、内乱の頃を思い出して少し懐かしくも感じる。
「王陛下の仰る通り、忠実な臣下ですから」
「そうだな…ボウデンが居ない今、真に信用できるのはモーラ公とカーマイン公とリデル・ホワイト伯くらいなものだ」
「それはまた私の身に余る光栄であります」
恭しく礼をした自分を見て、エメリヒ王はまたひと笑いした。
「君のところは息子と娘だったか?」
「はい」
「将来的に私の娘を君の息子に嫁がせよう」
「え?あ、大変にあ、ありがたきお言葉にご、ございます?」
いきなりの言葉に自分の声が上ずり、言葉が上手く繋げない。何を言ったかさえ思い出せない程に驚いていた。
「はははっ!どうした?何をそんなに驚くことがある?」
口から「驚かない方がおかしいだろう?」と零れないように必死だった。
自分の出自は王都近郊の村にいた平民猟師の一人息子で、肉親は既にいない。それが雲の上の存在であったオロール国王の娘を、自分の娘に嫁がせると言っているのだ。このようなことはベルディグリ大陸の歴史をさかのぼっても無いのではないかと思う。自分が貴族になり、貴族の令嬢であるルーシーを娶っている時点で凄い事なのに、それに加えてとなると想像しているとかの次元ではなくなってしまう。
「君は出自を気にしているのか?それを言ってしまったら私は妾腹の子で、私を生んだ先王の妾は王の周りの世話をする商家から働きに出された女だった。大して違いは無いだろう?」
「いえ、そのような事は……」
「それに今やリデル・ホワイト”伯爵”と言う立派な貴族であるし、私の一番近くを守る近衛騎士団の総団長ではないか。それに元は君の部下であるエドガーも近衛軍指揮官であるのだからな」
「お引き立て下さった陛下の御慈悲によるものです」
先程の信用できる者と言っている意味が分かった気がする。
エメリヒ王は周囲の権力者を自分と近い親類で固めようとしているのだろう。その証拠にモーラ公の令嬢であり現在の王妃であるレイラ王妃と結婚し、カーマイン公にもエメリヒ王の猶子を嫁に出している。あとは自分の息子にエメリヒ王の娘を嫁がせたなら、大きな権力を自分の信用する者達に渡せるという訳だ。多分どこかで近衛軍を率いているエドガーも、王家の縁戚に組み込まれることになるのだろう。
東方公家やヴィアネッロ侯やカタラーニ侯を含めた旧来の権力は、自分達の下に別々に組み込み抑え込みたいといったところか…エメリヒ王は帝国との戦いの後に帝国領のどこが欲しいかと自分に訊いた。となれば大陸北部をモーラ公、中央部を王家、南部をカーマイン公、旧帝国領に自分を配置したいのだ。
まだ圧倒的に有利な帝国軍が目の前位にいる状況で、”卵がかえる前にヒヨコの数を数えるな”とでも言われそうだが、エメリヒ王はしっかりと戦後の事を見据えているという事も言いたいのだろう。
我らがオロール王国の国王であり、王国親征軍の総指揮官はこの戦に勝てると踏んでいるのだ。
衝撃的なエメリヒ王の提案の後は、他愛もない昔話や雑談を夜更けまで続けた。外に漂う決戦前の独特な緊張感も我々の天幕には入って来ない。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




