5.ムロンの決戦2
帝国と王国の睨み合いは4日間続いた。
睨み合い…というよりも、お互いの出方を探っていると言ったほうが正しいかもしれない。
帝国は王国領内という知らない土地で慎重になっていたし、王国側は兵力差の為に慎重に動かざるを得なかった。
「まず、まずもってだ。解決しなければならないのは、我々が勝利の完成図を思い浮かべられていない事だ」
エメリヒ王はここ4日間続いた様々な議題の議論の中で、最初に解決するべきという話が片付いていない事を机の上に地図を叩きながら力説する。
「ここまでの規模の戦いと地形だと、奇策が通用しづらい……お互い中央に歩兵、両翼に騎馬を置く横陣を用いた正面の当たり合いになってしまう」
「それは避けられませんな」
カーマイン公は頷いて言葉を返す。
「となれば、騎兵戦力が拮抗してしまっている我々は、兵力差で押し切られる」
「馬種の違いと騎兵自体の練度で言うと有利には進められるでしょう」
「両翼は優勢と考えて良いのか?」
「はい」
眉間を揉みながらエメリヒ王は次の言葉を探しているように見えた。
その様子を自分も含めた諸侯が静かに見つめていた。
「我が軍で一番士気が高いのはどの部隊だ?」
「…それは何とも」
皆一様に士気が下がっていると言う訳にもいかないし、それをエメリヒ王は承知したうえで訊いているのだろう。現実としてどの部隊も士気が低いのだから、カーマイン公の答えも曖昧になってしまう。
「強いて言うなら、獣人の士気が高い様子です」
自分はただ長い沈黙の間に、何かエメリヒ王の参考になればと発した言葉だった。
その言葉を受けてエメリヒ王は、一度こちらをチラリと見ると、そのまま視線を外す。エメリヒ王が求めていた答えはこれではなかったのかと思った時、もう一度自分に視線が向き、暫く目が合い続けた。
近くにいるからこそわかるが、この状態のエメリヒ王はその視線の先にある人間が発した言葉を吟味している仕草だった。
射すくめられるような視線をしばらく無言で受けた後、エメリヒ王が口を開く。
「…どれくらい高いのだ?」
「あくまで伝聞ですが、これまで獣人を殺し、奴隷にした者達の大元である皇帝が居る事で、さらに憎しみを増して、士気を増幅させているそうです。同胞の仇だと言って、今にも飛び出す勢いだそうです」
「そうか…カーマイン公、獣人はどれくらいこの軍に居るのだ?」
「1万には届かないかと、9千程です」
「おぉ、今はそんなに多いのか?」
エメリヒ王は驚いた表情をしていた。
「今回は帝国との戦争という事で、帝国の迫害から逃れ、自ら徴兵に参加してきた獣人も多くいます」
「それで兵数が5万と少しの予定が6万にまで届いたのか」
行く先が見えない話に集まった諸侯は困惑していた。エメリヒ王が何を言いたいのか、自分が言った言葉で何を思いついたのかが分からなかった。
「獣人達だけで横陣のひとつの軍団を編成できるな」
「全軍の獣人を集めたのなら、出来ます」
「やろうか」
エメリヒ王が下した命令にカーマイン公が頷くも、その意図が見えないと言った表情だ。それを汲み取ったエメリヒ王が、今回の戦いで目指すところを目線の先にある地図で示す。
「我々は帝国軍の両翼包囲を狙う」
「……野戦でですか?」
誰からともなく、言い出したのが国王という事も忘れて懐疑の声が上がる。それも当然で、野戦の中で包囲を敷くなど聞いたことが無い上に、相手は我々の倍近い軍がいるのだ。不可能と言っても過言ではないだろう。だが、その作戦を語るエメリヒ王の目は、勝利を疑っていない。
「中央の軍に獣人達をまとめて置く。指揮官となる有力な獣人は居るか?いきり立っている獣人達にいう事を聞かせられるような者だ」
諸侯がかぶりを振る中、自分には一人だけ心当たりがあった。
「私の副官であるサルキが出来るかと」
「本当か?」
「近衛騎士として王陛下の側に立つサルキは獣人達の中で有名で尊敬されていると言います。長い付き合いの私から見ても彼の人望は本物です。ただ大軍の指揮官の経験は……」
「サルキか、彼なら私の命令を忠実に実行できるだろう。私が求めるのは獣人達を統率し、命令を実行できる力だ。指揮能力に不安があるならば側に誰かを付けてもいい」
この推薦にはサルキを良く知る、カーマイン公も賛成の声をあげた。
「分かりました。サルキを呼びます」
近衛の天幕で休憩していたサルキが呼び出され、先述の話がされると、彼は目が点になっていた。どう断ろうかと悩んでいるように見えた彼の表情を見て、付き合いの古いカーマイン公が最後の一押しをした。これを受けて緊張した表情のサルキがようやく承諾の意を示した。
エメリヒ王は続いて各軍の次々に指揮官を任命していく。
そこから説明された作戦に、一番経験のないサルキも含めて経験豊富な諸侯でさえ、不安な表情を隠すことが出来ていない。
「大丈夫だ。私を信じろ」
エメリヒ王が言ったその一言に皆が頷く。
誰も倍の敵を撃ち破る解決策が思い当たらない以上、エメリヒ王の作戦に従うしかないのだ。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




