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2.マッピング


「こりゃ、無理だな…国境から遠すぎる」


 ウィシュトン商会の隊商としてスマルト共和国内に入った我々は、隊商本体をウラシヌに任せて、自分を含めた5人であらゆる方向へ向けて馬を駆った。


「出来る限り早く駆けても、湿地帯を抜けるのに3日じゃなぁ」


 隣でカールが大きな手を額に当てて遠くを見ている。


「丘陵地帯沿いに湿地帯が有るのは知ってたが、南へは行けないな」

「これじゃあ、さっきの都市からまとまった軍隊に街道を封鎖されたらそれなりの時間を取られるぜ。それにあっこに見えるのは街道上の都市だろ?」

「最後に展開できない場所で城攻めが待つか……南は無理だな。一度隊商と合流して、東へ抜けよう」

「あいよ」


 馬首を翻して隊商へと一度合流した我々は、湿地帯の街道を抜けるまで同道した。

 そして湿地帯の出口に建設された都市に入ると、翌日に東へ向けて出発する。湿地帯を抜けた先は森が広がりその中を街道が通っているだけで、とても大軍が展開できるような場所ではない。


「こいつは無理だな」


 途中には小さい町がいくつかあるが、森を抜けることが出来たのは4日後だった。とてもじゃないが知らない土地でこの道を進もうとは思わない。両脇にいくらでも兵を伏せる事の出来る森が広がっているのだ。


「さらに丘陵地帯ですね」


 フレディも流石に神経を張っている状況が続くことに疲れを見せて、ため息交じりに目の前の山々を眺めている。

 森の中を抜けた後に到着した都市から東は、1000フィート(約300メートル)程度の山が連なる丘陵地帯だった。この丘陵地帯を走る隘路を抜けると、共和国首都の西3日の地点まで接近することが出来るが現実的じゃない。こちらから抜けると首都へ奇襲出来るが、逆に共和国側もここを使って迅速に兵力を展開できるだろう。ここら一帯は緒戦の戦場に向かない。


「ヨス、地図は作れているか?」

「はい、大丈夫です」


 ヨスはボウデン総団長の紹介で我々の仲間になった。

 赤髪にグリーンの瞳を持つヨスは、近衛騎士団員として自分と同じく比較的小柄であるが、そのマッピング能力が素晴らしい。今回のような王の小間使いも勿論だが、威力偵察なんかを行う近衛騎士団はこの地図作成を疎かに出来ない。

 ヨスは通った道の形状と難所、都市の形や弱点となりそうな場所を正確かつ簡潔に紙に書き留め、更に夜には予備を作成するために、月明かりや蝋燭の明かりを利用してそれを複製するのだ。これは簡単でない事は分かると思うが、才能としても今まで会ったことのある地図作成員よりも優秀だった。


「ヨス、この南も同じだろうか?」


 そして何より地図と向き合って来た時間が長いヨスは、ある程度地形を読むことが出来た。


「あくまで予想ですが」

「構わん」

「この通り湿地帯も森も、南に向かって小さくなっている気配はありませんでしたね。多分南のどこか川が当たる所だったり……それか海岸まで続くかもしれません」

「うーむ……川か」


 一つ方法を思いついたがそれは置いておくとして、これ以上南に主戦場を定めるにはムタルド教国領を通るか掠めるしかない。進攻しようとするときに第三国を刺激するのは、エメリヒ王も避けるだろう。


「よし、北上だ」


 馬車の荷台に揺られながらヨスが作った地図を時々確認しながら、我々は北進を始める。

 王国との国境は森と湿地帯を挟んだ向こう側という状況だ。今助けを求めても誰も我々の味方はいないだろう。それだけオロール王国とスマルト共和国の関係は悪化していた。


 王国の内乱初期に当時第三王子だったエメリヒ王を伴って進んだ道をなぞるように、北へと進み続ける。時々馬を駆って様々な方向に向かうが、我々の目には戦場として良い場所は見当たらない。

 勿論、畑や開けた平原、盆地は時々見えるがその間には丘陵地帯や湿地帯が広がっていて、その戦場として選べそうな場所に向かうまでが大変だ。

 逆に少々手狭な盆地まで入り込むことが出来ても、スマルト共和国の立場であれば、また動き出すのを狭隘地で待ってしまえば良い。我々がスマルト共和国に攻め入るとなれば、必ず拠点となる街や城を攻略するために動かなければならいからだ。


 偵察としては苦戦、行動としては至って順調にオロール王国国境最北の街道へと到達した。この間に託された書状を各地の城へ届ける事も出来ている。

 今いる地点より北へ向かうと、そこにあるのはメイズ大公国が閉じこもる深い高い山々だ。決して味方になる事のない山とその向こうに住む人々を、少し思い描いてから王国領へと帰途につく。


 王国からスマルト共和国に入る時と同じくらい、検問所では厳しい出国の審査があった。地図などの持ち出しが無いかの確認もそれに含まれているので、ヨスの作った地図は靴の底を2重にして隠している。

 品物は途中の街でスマルト共和国の物に買い替えて持ち帰るという、本来の隊商と同じ行動までしているのだ。あとは至って商人然としていることで、王国内へと入ることが出来た。


 無事に帰国すると同時に少し気が重い。

 今回の40日近くに及ぶスマルト共和国の偵察で成果を得る事は出来た……だが、その成果は攻略が非常に難しいという事が分かっただけだ。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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