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1.関所


「皆揃っているな」


 朝四番の鐘がオレンジ大聖堂から響く中、自分の声に副団長であるウラシヌが「総勢50名揃いました」と声を上げた。ウラシヌも負傷したトルガーの代わりとして臨時の副団長となってから、十分な働きをしてその地位を臨時でなくした。

 ウラシヌはよく気が利く男だ。別に卓越した指揮も武力も無いが、支隊を任せると他の者が苦しんでいる所に丁度良く兵を送る能力に優れている。あと、事務が早い…本当に助かっている。


「では、出発だ……近衛第一騎士団改め、ウィシュトン商会交易隊、前進、前進、前進」


 馬車6台に5名ずつ30人が乗り、徒歩が15人に騎馬が5人に分かれ、商家の隊商に偽装した我々は自分の三号令を合図に前進を開始した。

 何故隊商に偽装するか。それはスマルト共和国が共和制を放棄して以来、明らかに我々オロール王国に対して敵対的な動きを始めたからだ。その最もたるものが、王国やそれに関係するものの出入りは全て制限されるか、厳しい審査を行われる代わりに、スマルト共和国内にメイズ大公国から貴族の来訪が頻繁にある事が確認されていることだ。


 あとは、偵察と同時にある目的をエメリヒ王に託されているのもある。

 エメリヒ王はスマルト共和国北西の3つの都市の議員それぞれに対して書状を託した。スマルト共和国において議員はその地域の代表者でありながら、その軍権や徴税権などの実権を握る者達だ。それは人口によって人数が決められている複数人であり、必ずしも一枚岩でない。

 一つの都市の利権を数人で分けるのであれば、当然そこに軋轢が生まれるはずで、いくらスマルト共和国議長の全権掌握に加担した都市であっても、反対した人間がいるのだ。彼らに対する離間工作はここ数年行われていたが、我々近衛第一騎士団には侵攻が間近に迫るにあたっての最後の書状を預けられている。

 裏切らせたいならば、当初故も無く討伐軍を差し向けられて恨みを抱えている筈の南部であるのでは?と思ったのだが、そこらの議員は全て議長の息のかかった者達に交代しており、全く期待を持てるものではなかった。



 そんなスマルト共和国への工作と違い、旅路は至って順調である。

 安定を始めた王国の中は野盗の類は稀で、警戒を行いながらもそれが徒労に終わる事が多かった。


 我々は、王国中央部の平野に広がる肥沃な大地で農作業を行う国民を横目に見ながら、ひたすら東南東の方向へと進み続けた。そして東方大公領(今は息子であるラルス・バーガンディー公の領地であるために”東方公領”と呼ばれている)の中で最も西側に位置するパーシアン候の領地へと足を踏み入れた。


 細かい馬車の手入れの甲斐あって、我々はそのまま順調にバーガンディー公爵家領へと歩みを進める。

 バーガンディー東方公の居城であるボルダックス城で、ラルス・バーガンディー東方公に面会しエメリヒ王からの書状を届けると、翌日には出発する忙しさだ。

 ラルス東方公が受け取った書状の内容は侵攻予定についてだと思われるが、それを読んだラルス東方公は顔色を変えなかった。恐らく予想通りか賛成であった為だろう。ラルス東方公は若いこともあってか、エメリヒ王の積極的な意見に賛成することも多い。彼の父である東方大公の死の遠因はエメリヒ王にあると思われるが、それを本人は知る由もないし、自分はそれを口にする程の勇気も理由もない。


 少しの後ろめたさを感じながらボルダックス城を後にすると、今度は東方公の領地の中央過ぎからなだらかな丘陵地帯へと地形が変化する。その丘に張り付くように開墾された畑を両側に抱え、時には丘を乗り越えて、今度は南へと針路を変える。


 丘陵地帯を抜けると、湖沼地帯であり、湿地帯である王国の最南東部に入る。

 以前にエメリヒ王を伴って東方大公の下へ走った時よりも、湖沼地帯の干拓は進んでおり、それなりの広さが畑となり、集落を伴っていた。とはいっても、この湖沼地帯はメイズ大公国の西側まで続くほどの広さで、人間が手を入れたところなど、まだまだ少ない。

 王国側で戦場と出来るところは、干拓が進んでいる所までだろう。でなければ騎馬の出番が無いほどにこの地域は厄介だ。



 我々はそのまま南下し、急峻な丘陵地帯が出現する王国の最南東端であり、スマルト共和国中央部の少し下からスマルト共和国に入った。

 この山と言うには低いが急峻である丘陵地帯は、オロール王国とスマルト共和国とムタルド教国を隔てる重要な地域だ。それぞれの国家が丘陵毎に大量の砦や、見張り塔などを建てている上に、狭隘な道しかないこの丘陵地帯を進軍路としては選択できない。


 丘陵地帯に入る前の街道は、王国と共和国を結ぶ主要な街道となっているために勿論関所が設置されている。


「通行の目的は?」

「見ての通り、商売ですよ」

「王国の商人か?」

「えぇ、今すぐにでも本拠を移したい所ですがね」

「ふむ…何故だ?」

「私たちのお得意様は南方大公だったもんで、ほら…負けたでしょ?肩身が狭いんですわ」


 検問所の衛兵たちがご丁寧にも一つ一つの荷を確認している間に、自分が衛兵長の質問をかわしていく。


「よく生き残ったな。敵であれば誰でも首を撥ねる断頭王なんだろう?」

「部下さんが見ている通り、我々の品物は雑多ですし多くも無いですから、変に興味を持たれなかったんでしょう」

「その割に人数が多いな?」

「……実はね、スマルト共和国に拠点を移そうかと…そのための準備ですわ」


 少し頷いて、彼は自分の渡した書類にまた目を通している。中身はこれまでの旅程を示した偽造された手形であったり公的な書類だ。そして、部下から何か耳打ちをされた彼はこちらに向き直った。


「スマルト共和国で商いをしたいなら、地域の議員に申請が必要らしいからな、怠って衛兵のお世話になるなよ」

「そりゃ、勿論!ご気遣い感謝します」

「通ってよいぞ」


 取り敢えずひとつ関門を突破だ。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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