3.王国会議
「陛下、只今帰還いたしました」
王都に戻った自分が一番最初にした事はエメリヒ王への報告だ。
「おぉ!ご苦労であった」
「土埃も落とさず、陛下の御前に…「構わん!それで、いかがであったか」
せっかちではないエメリヒ王だが、今回の自分の報告を今すぐにでも聞きたいといった様子だ。
「国境線は北端から南端まで深い森林を持つ丘陵地帯と湿地帯が存在し、街道は整理されておりますが、道幅は狭く大軍の移動には向かないかと」
「共に通った時と変わらずか……向こうも国境線沿いは遅滞程度の戦闘だろう。その奥は?」
「湿地帯を過ぎた先は、盆地や平原、畑が疎らに広がっていますが、街道を経由しなければなりません。戦場に向く場所は点として存在していますが、その点を結ぶ線となる街道は細いです」
「ふむ……スマルト共和国の西部は戦場に向かないか」
スマルト共和国をオロール王国との国境線から正攻法で攻めるとなれば、兵力差に物を言わせて各方面に同時に軍を進め、同時に重要な平原を確保しながら街を攻略する事で連携を維持するしかないだろう。
エメリヒ王と貴族達の会話やボウデン総団長などの話から、この数年間で得た知識として考えられるようになった。それを生かす機会があるのかは別の話だが、ここではエメリヒ王の言葉の意図は分かる。
「ボウデン総団長、スマルト共和国の兵力は3000程度だったな?」
「限界まで徴兵するのであれば6000近くにはなるかと」
「街道に布陣し封鎖、時間を稼ぎながら徴兵を行い、狭い地形で決戦か」
「はい、スマルト共和国の目標としてはそこでしょう」
オロール王国がスマルト共和国に対して動員できる兵士の数は、現状だと6000から7000程度だ。同数で1つの国を攻略しようとする場合、時間はかけられない。今のところスマルト共和国との関係は悪化しているが、幸いにもこちらの早期の侵攻を察している様子は無さそうだった。
「であるなら、早い段階で共和国の東部を戦場とするしかないか。東部であれば広い平原が有る」
「あとは、如何にそこまで到達するかでしょうか……各貴族は既に王都に集合しています。明日には王国会議が開けるでしょう」
「その前に、だ。王国会議で集まる各貴族はそれぞれの国境地帯に張り付く訳で、実際この遠征の中心となるのはここに居る我々だ。先に中身を決めておかなければならない」
確かにエメリヒ王の左右を守り、近衛騎士団のみならず近衛軍として動こうとしている今、我々にも戦略を練る頭と行動が必要だろう。
この日の話し合いは夜深くまで行われ、その中で自分がスマルト共和国にて考え付いた戦略が採用される運びとなった。
王国会議はオロール王国が建国される前からの伝統らしい。
当時まだオロールという家が大貴族だった時に、そこに集結した2つの貴族であるバーガンディー家(東方大公家)と断絶となったポンパドゥール家(西方大公家)の当主3人が毎月集合し、話し合った時から始まっている。
現在では広大になった国土により、王の招集令によってしか開催されないが、王国会議が招集されるという事は、なにがしかの結論が出るまで行われることになる。今回であれば、スマルト共和国侵攻の是非について。
いざ翌日に王城の大ホールに集合した貴族の数は、自分が昔に近衛騎士団に居た時の半数以下しかいなかった。更にここに集っているのは新参者の貴族も多い。特に兵士から活躍により貴族になった者が数人いるが、彼らは自分よりもこういった場に慣れていないだろう。
それでも、いざ王国会議が始まってみるとそれなりの形になるもので、古参の貴族が会議を先導する形で進んで行く。
「さて、ここからが本題だが……」
早朝から始まった王国会議がそれなりの議題の数を消化したあと、エメリヒ王の言葉に大方内容を想像していた貴族の顔は苦い顔になり、新参の貴族は真剣な表情で議題に食いつこうとしたままだった。
「今初冬に、我々オロール王国はスマルト共和国に侵攻する」
議場は一度静まり返ったあとにざわめきが広がった。
大ホール最奥中央の一段上に座るエメリヒ王に対して、公に批判を口にする者は勿論いないが、周囲に困惑を共有している様子だ。
「諸侯にあっては、それぞれの担当戦線について最後に話すとして、今回のスマルト共和国に対する侵攻は、新設予定の近衛軍を用いて私が指揮を執る」
どこからか「親征ということか」と言葉が聞こえた。
「その通り!」
「陛下、お待ちください……」
モーラ公は度々開戦に反対していた筆頭だが、エメリヒ王はそれを制して続けた。
「モーラ公、私はこのまま孫の代までスプルース帝国とひたすら小競り合いをし続けるつもりはない。それに我々の内乱を利用して、彼らは周辺諸国と戦い更に力をつけている。差を埋める必要がある」
「勿論、陛下の言葉に反対するつもりはありません」
「時期の問題だと言いたいんだろう?これ以上待つつもりはない」
断固とした口調にモーラ公はそれ以上の言葉を繋がなかった。
「諸侯には兵士の拠出は求めないが、あるものを提供して貰う」
王に諸侯の同意は必要ないといった様子で、エメリヒ王は続いて侵攻の計画について話はじめた。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




