2.帝国皇帝の親征2
我々が動き始めたのは、帝国皇帝親征軍の情報を得てから僅か2日後の事だ。
アイビー城に籠る帝国軍に王国軍の移動が露見しないために、我々はまず戦力を細かく分けて出発させた。
普段は朝晩に200近くの兵士が周辺へ偵察に出発していたのだが、これを朝昼晩に700として余りの500をレイトリバーまで走らせる。徐々に減っていく兵士と飯時の煙は、残った兵士が誤魔化し続けた。
一番目立つ存在の馬がヴィアネッロ侯と共に残ることで、暫くは移動を悟られることは無さそうだ。
この中で自分が率いる近衛軍の騎兵も最初に出発し、途中の城に入城することも無く一直線にレイトリバーへと到達する。そこでより細かい数に分割された部隊を、川船に乗って一日かけて500の兵を王国領へと帰す。
レイトリバー東岸の王国領へ到着すると、残りの近衛軍騎兵の到着を待ち、1日の休憩を挟んでまた出発する。
後ろから来るカーマイン公が率いる近衛軍を含めた歩兵達の事は待たなかった。
親征軍についての続報は受けていないが、南下を始めていたのならば急速にエメリヒ王の軍に迫っている筈であるからだ。自分に大量の騎兵を預けたエメリヒ王は、騎兵戦力が大きく劣っている。自分が1800の近衛騎兵を連れて合流出来たなら、せめて敵の追撃を振り切るぐらいの戦いが出来る数だ。
我々はひたすら北上を続け、あらゆる方向へ伝令を飛ばしてカーマイン公の名の下に徴兵を行いながら、エメリヒ王と帝国皇帝の居場所を探っていた。
我々は騎兵のみの編成であるから、途中で徴兵した兵力を加える事はしないが、王国内にいるという安心感が、近衛軍の兵士達の士気を高めている。
前にエメリヒ王の元から離れた時に布陣していた場所には居なかった。恐らく対岸の帝国軍も近衛軍を親征軍のもとへ誘い込む為に動いたのだろうか、彼らが残した陣の跡を残して、ついこの前まで激戦を繰り広げた場所は、ただ広い枯れた色の草原が広がっていて雪を被ってまだら模様となっている。
「王陛下は何処にいらっしゃるのでしょうか」
「前の布陣位置には居なかったからな……こうなったらどこに行ったか分からない」
「付近の街道沿いの村に聞きましょうか?」
「あぁ、あとは王都に数人を向かわせてくれ、王都には報告が行っている筈だ」
自分の側付きとして右へ左へと働くフレディが、近衛軍に指示を与えるのを見ていると、隣にカールが並んだ。
「家族は大丈夫なのか?」
王国内が戦場になる事が分かった以上、自分の領地であるルカロンも他人事とはいかない。もし親征軍が王都へと向かう事になったのなら、その途中にあるのがルカロンだからだ。
「あぁ……ルカロンは徴兵で居残りの軍が居ないからな、抵抗できないってわかっている。義父に頼んで王都に向かうように使者を送ってる。お前らの家族も一緒だぞ」
「王都か……」
「城の中では一番堅くて兵士も多いからな…他に選択肢がない。それに自分の知り合いも多いし、近衛騎士団の総団長っていう役職が一番”効く”のが王都だ」
「それは間違いない」
家族を案じながらも、我々はエメリヒ王の行方を捜し続ける。現状、王都にいる家族の安全を最も早く取り戻す方法は、王国領内に侵入した帝国皇帝の親征軍を撃破する事だからだ。
冬も本格的に深まり始めた頃に、ようやく我々はエメリヒ王の軍を見つけた。
レイトリバーから王国側に入って5日程の場所、中央平原の中央付近にあって少し山地となっているクロムと呼ばれる地域である。その場所は軍を隠すにはちょうど良く、中央平原からどこに向かうにも2~3日で主要な街道に到達できる場所だ。
「久方ぶりになります。リデル・ホワイト只今戻りました」
「大変ご苦労であった。活躍は聞いているぞ」
久しぶりに会ったエメリヒ王は前と変わらない表情をしているつもりなのだろうが、自分の目には疲れを隠せていないように見えた。
「後方からカーマイン公とその軍が参ります」
「カーマイン公には世話になり続けているな」
「して、帝国皇帝の親征軍は…?」
エメリヒ王は視線を北に向けた。
「北にいる……南下して中央平原の入り口まで来ているという話だ。そこには我々が対峙した帝国中央軍が合流している」
「やはり……相当な兵力ですか」
「あぁ、噂では8万近くに及ぶらしい」
「は、8万ですか」
予想はしていたし心構えもしていたつもりだが、その数を実際に聞いてみると衝撃を受ける。
我々は更なる徴兵をして集めた人数を足しても、その数は5万に届くかどうかといったところだ。これ以上の戦力差が開いてしまえば、我々の敗北は必至だ。ヴィアネッロ侯がどれだけアイビー城に籠る帝国軍と、帝国領内から新たに送られてくる兵士を引き付けられるかにかかっている。
「我々は戦わなければならない。幸い”ヴェルデ帝国皇帝”は、わざわざ王国領内までその身を差し出して来てくれたんだ。その首だけでも王国軍の帝国領進軍の際に帝国に返してやらなければな」
エメリヒ王の目は疲れの中にあっても、確かに勝利を見据えたものだった。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




